香港証券取引所(HKEX)は6月16日、新たな市場「創新板」を創設する計画を発表しました。HKEXは現在、メインボードと起業ボード(GEM)の2つを設定していますが、新たに新市場「創新板」を創設し、まだ黒字化していない企業や、普通株と権利が異なる「種類株」を発行する企業などの上場を認める方針です。

香港のメインボード上場企業数は1743社、時価総額は約400兆円(約3.6兆米ドル)に上ります。GEM「Growth Enterprise Market」市場は、米国の店頭株市場ナスダック(NASDAQ)に相当する市場で、香港証券取引所が1999年11月に併設した新興企業向け市場です。新興企業が中心であるため、中小型成長株の市場であり、株主数や売上高などの公開基準がメインボードより緩和されています。上場企業数は286社、時価総額は3000億HKドル(約4.3兆円)です。

GEM市場では、GEM市場からメインボードへ指定替えをする企業も増加しています。GEM上場企業にとっては、メインボードに「鞍替え」することで、顧客や取引先、投資家への知名度も高まり、より企業の発展につながるとの目論みもあります。中国初の民間ガス供給会社である新奥能源(02688)、天業節水(00840)、北京京客隆(00814)、アンドレジュース(02218)などは、最近GEM市場からメインボードへ「鞍替え」を果たしています(数字はいずれも2017年6月16日時点)。

HKEXの李小加最高経営責任者(CEO)は2017年の業務展望を発表した際、新ボードを創設し、香港の金融市場での競争力を向上させる方針を表明していましたが、株式市場のさらなる細分化により多次元の市場の発展が必要と判断し、新たな市場を創設して多国籍企業や新たな経済モデルを代表する新興企業のニーズに対しHKEXが受け皿となるといいます。投資家にとっても、HKEXがより多くの上場企業の種類・会社数を揃えることで、多くの選択肢を得ることになるでしょう。

HKEXは、過去に中国のアリババ・グループ・ホールディングが新規株式公開(IPO)を検討し、HKEXと協議していた際、同社の種類株や統治構造を理由に上場を認めなかったと言われています。アリババは結局、ニューヨーク証券取引所での上場を選択しましたが、同社のIPOは250億米ドルにも及ぶ超大型上場案件となりました。実際に、HKEXの李総裁は会見で、これまでHKEXは中国本土企業の新規上場を500億米ドル相当も逃してきたと説明しています。

中国企業では、今後もアリババの金融関連会社である螞蟻金融服務集団(アント・ファイナンシャル)など、超大型上場が見込まれており、それらの誘致合戦は世界の取引所間ですでに始まっていると言われています。今回の新市場の創設は、HKEXが他の主要株式市場との競争に一石を投じたということに他ならなず、競争は一段と激化することになるでしょう。

世界の株式市場は、市場規模では世界最大の市場であるニューヨーク証券取引所の2350兆円(21兆米ドル)が圧倒的に巨大な市場ではありますが、東京証券取引所が約600兆円、上海証券取引所が約500兆円、そして香港証券取引所が約400兆円と、市場規模ではロンドン証券取引所の約350兆円やドイツ証券取引所の約200兆円というヨーロッパの株式市場よりもアジアの株式市場の成長が著しいことがわかります。

新規公開株の金額で見ると、近年ニューヨーク証券取引所と競っているのは香港証券取引所となります(図1参照)。2009年、2010年にはニューヨーク証券取引所を上回る勢いもありましたが、ここ数年は水をあけられています。HKEXは、今回の「第3市場」創設により、この差を埋め、再び世界のトップの座を奪回できるか注目されます。

図1:日・米・香港の新規公開株(金額ベース)の推移(グレー:日本、オレンジ:米国、ブルー:香港)

Source: BloombergデータよりNWB作成

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一