2022年11月19日にログミーFinance主催で行われた、第44回 個人投資家向けIRセミナー Zoomウェビナーの第4部・株式会社網屋の講演の内容を書き起こしでお伝えします。
スピーカー:株式会社網屋 代表取締役社長 石田晃太 氏
元・ファンドマネージャー/元・ディーラー 坂本慎太郎(Bコミ) 氏
経済アナリスト/経営コンサルタント 増井麻里子 氏
事業の紹介
石田晃太氏(以下、石田):石田です。よろしくお願いいたします。株式会社網屋は今年12月が年度末になりますが、第3四半期の決算情報をまとめていますのでご紹介します。
まず、当社の事業をご説明します。当社は、情報と通信の安全を自動化するセキュリティ事業を行っています。
データ保護のセキュリティにはAIを活用しています。さまざまな情報を取り込みながら、システムの稼働や操作状況などをすべて集約し、それらをAIで自動化しながら不正や攻撃を検知するという仕組みです。
通信のセキュリティは、いわゆる通信ネットワークというパソコンやサーバ、プリンターなどをつなぐ企業LAN・WANを構成するルーターやスイッチ、ハブや無線LANなどのネットワークの装置をクラウドから遠隔で自動的にコントロールするサービスを提供しています。
大規模なコストがかかるところをクラウドもしくはAIで自動化することにより、大幅なコストダウンを図ることが可能です。中小企業や大企業をはじめ、どのような事業体でも、普遍的にサービスを受けることができます。それに伴い、誰もが安全を享受できる社会を作りたいと考えています。
当社のIdentity.
石田:当社のアイデンティティやどのようなアドバンテージを持っているかについてご紹介します。当社はセキュリティの力で社会の安全を守ります。セキュリティは他社を含めいろいろな事業体がありますが、セキュリティとネットワーク、データ系と通信インフラ系の両方に対応できる当社のようなサイバーセキュリティ集団は、比較的レアな存在です。
また、自社で純国産型の機器を調達し、それらをシステムインテグレーションするサービスもあります。メーカー機能とSI機能の両方を兼ね備えたプロダクトサービスを行っている事業体としても非常にレアな存在です。
もう1つは、ワンストップベンダーであることです。通常、メーカーは営業や開発を外部に委託することが多いと思いますが、当社は営業から開発も手がけています。何を作るか、どのように開発するかを研究し、それを開発に落とし込み、マーケティングも行いながら販売します。その一連の仕組みをすべて自社で行っていることが一番大きな特徴です。
データのセキュリティを「自動化」
石田:データセキュリティがどのようなビジネスであるかについてご説明します。企業のシステムであるICTインフラは、すべて記録を残す必要があります。銀行であれば、みなさまがATMでいくら振り込んだか、いくら引き出したかなどの記録がすべて残っています。自動車であれば、ETCを利用した際に利用した料金がすべて自動的に記録されています。
その記録がたくさん集約されると、それらをいろいろな方法で活用できるようになります。国によっては、ICT環境のセキュリティ対策を図るため、システムのログを統括して管理することが求められています。
その中で、我々はそのソリューションを提供する標準的な立場にいます。例えば個人が会社を退職・転職した時、重要な情報やデータを転職した企業などに持って行くことができないように、もしくは持ち出されてしまった時に、どこのサーバからどのファイルを誰がいつ持ち出したのかなど、必ず犯人を特定できるようになっています。
その記録ができることで、いろいろな挙動が認識できます。これを応用し、すべてのシステムを統合的に監視すると、内部不正だけでなく、ランサムウェアなどのサイバー攻撃などにも、どのような経路を伝って、どのような手法で、どのように外部に漏れたのかなどの原因を特定することができます。これが我々が行っている仕組みです。
データ管理セキュリティの代表的存在
石田:現在はソフトウェアの販売と保守ビジネスを行っています。あらゆる顧客のビッグデータを1つに集約しながら、それを自動化して分析するというモデルです。サーバのアクセスログ監査市場では、基本的には当社がスタンダードな立ち位置を占め、7割程度のシェアを持っています。
ご利用いただいているお客さまは、金融機関、官公庁、製造業など、日本を代表する名だたる大企業が中心です。
ログはサーバのハードウェアやソフトウェアなどの種類によって、それぞれの形式があり、まったく違う状態で出力されます。それをすべて同一フォーマットに合わせて自動的に集約できれば、AIで不正検知を自動化できます。
例えば、営業の方が見積もりや企画に関するファイルを触る行為は通常行われることですが、その人が突然、技術に関する研究開発のデータを触り始めると、通常とは異なる振る舞いである、とAIが自動認識してくれるわけです。
通信インフラのセキュリティを「クラウド化」
石田:もう1つは、インフラのセキュリティです。こちらはネットワークという業界的な用語になりますが、通信インフラを自動的にクラウドからリモートコントロールできる新しい仕組みです。特に米国では普遍的な使われ方となっていますが、日本ではそれほど普及していないビジネスです。
簡単にお話ししますと、当社のコントロールセンターがSaaSのWeb画面上からお客さまのさまざまなネットワークの通信インフラをすべてコントロールし、設定、制御、運用を代行するというものです。
代表的な例として、松屋フーズは全国1,100店舗にWi-Fi設備が設置されていますが、それを当社がクラウドからコントロールできます。例えば、通信ができなくなり再起動しなければならない時や、電子レンジと干渉して動かなくなった時は、これまでは遠方の店舗であっても技術者が現地に飛んでいました。
これらがクラウド上から設定、制御、再起動まで行えるようになったことで、出張費や手間、時間などのコストが大幅に削減され、さまざまなパフォーマンスが向上します。
同時に、通信インフラをセキュリティ化します。近年はテレワークが増えましたが、自宅から社内のサーバに通信する際、通常はVPNという仕組みを使いますが、昨今はVPNの脆弱性が問われ、テレワークでのインターネット環境が問題視されています。当社の仕組みを使用すると、あらゆる在宅ワーカーが証明書認証、多要素認証を重ねますので、きわめて安全な状態で柔軟にお客さまがそれらを運用できるという大きなメリットがあります。
クラウドで『省人化』と『高セキュリティ』を実現
石田:クラウドを利用することで何が変わるかと言いますと、まず人に依存する情報システム部門のインフラ運営が変わってきます。運用するための人員が不要になることで、自動的なコストダウンを図ることができます。
セキュリティを非常に重視する必要があっても、セキュリティパッチやファームウェアアップデートなどの各種のセキュリティ運用を、お客さま自身が運用することは非常に難しいと思います。当社はSaaS画面上から自動的にファームウェアのアップデートをかけるところまですべて代行できるため、お客さまの作業負荷がなくなり、コストダウンにもつながります。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):概要をご説明いただきました。ここからは質問を入れながら進めていきたいと思います。まず、創業のきっかけを教えてください。
石田:私は2代目で、創業者は別の者になります。会社は1996年に創業し、現在26年目です。網屋という名前だけあり、ネットワーク業務ということで当時はシステムインテグレータの受託作業会社でした。
その後、債務超過などさまざまなことがあり、いわゆる労働集約型のSIビジネスからメーカー業への転身が必須となりました。その過程で、とあるセキュリティソフトを考えて作ったことが始まりです。
坂本:よく聞かれる質問だと思いますが、網屋という社名の由来があれば教えてください。
石田:よく魚屋や居酒屋と間違えられますが、ネットワーク屋で、いわゆる企業のインターネット網、企業LAN・WANを作る作業のイメージです。インターネット網を設計する役割から網屋という商号をつけています。
坂本:データセキュリティのお話もありましたが、企業においてデータセキュリティはどのように使われているのかをもう少し教えてください。
石田:まず、スライド4ページに記載している内部関係者によるデータ持ち出しが普遍的な使われ方です。15年以上前だったと思いますが、転職者や派遣社員の方が会社から名簿を持ち出して個人情報を販売したケースが多発しました。
この事件が多発した時、盗難に遭った会社のホームページには、だいたい「どこで誰が作業したのか記録を残していなかったため、原因を突き止めることに時間がかかりました。申し訳ありません」という謝罪文が掲載されていました。
そのような事例を見て、我々がセキュリティに関する仕組みを作ることができれば、犯罪を未然に防ぐことにつながり、お客さまを社会的に守ることができると考えたことがきっかけです。
坂本:スライド5ページに記載のシェアについて、サイバーアクセスログ監査パッケージ出荷金額のシェアは69.2パーセントということですが、件数はどのくらいでしょうか。
石田:お客さまの件数は5,000社ほどで、基本的には大手の上場企業です。これはシステム監査が必要であるということと、先ほどお話しした内部的な不正を自動で検知したいというお客さまです。
このようなシステムについてCMを打っている会社がありますが、パソコンにエージェントを入れてすべての社員の挙動を監視するというパターンが一般的です。しかし、当社は重要データが保管されているサーバ側に監視対象を向けているため、運用がきわめて楽になりながらも目的は無事に達成できるわけです。
パソコンのエージェントが1万台や10万台あると運用負荷がかかるような大企業には、我々の製品のほうが比較的マッチします。
坂本:大企業と中小企業では、大企業のほうが多く、金額も当然大きいということですね。
石田:昨今、サイバーセキュリティは大中小企業問わず、すべて攻撃対象になっているため、社会的にも非常に深刻な問題になっています。特に最近のランサムウェアは、目星をつけて攻撃しているのではなく、脆弱な環境を片っ端から攻めているという状況です。
そのような点では、これからは特に自動車関連のサプライヤーや病院系などの中小企業・中堅企業も、セキュリティレベルを大企業のセキュリティポリシーと同レベルに上げていかなければなりません。しかし、なかなか運用の手間をかけられない・スキルがついていかない、そこが我々の存在意義であると思っています。
坂本:そのあたりの将来の取り組みについても、後ほどお話しいただきたいと思います。
FY2022 第3四半期 エグゼクティブサマリ
石田:第3四半期決算の概要をご説明します。まず、全社の業績です。前年度の第3四半期と比較すると売上はプラス27.9パーセント、売上総利益はプラス18.2パーセントと順調です。
営業利益の成長性が売上よりも若干下がっていますが、これは次の新事業や研究開発、人材投資にかなり比重をかけていますので、意識的な投資があるという前提になります。
トピックスとしては、先ほどのお話につながるのですが、これからは単純に製品を販売するだけではなく、サイバー攻撃を検知代行するセキュリティサービスを中堅・中小企業に対して提供していくことになります。すでにビジネスは始まっていますが非常に順調で、商談件数・受注件数ともに順調に増えています。
特に事故が起きたお客さま、もしくは隣近所がその事故を起こしてしまったというお客さまを救わなければいけません。東京海上ディーアールなどのサイバー保険を供給している会社へのOEM提供も始めていますので、そのようなところからセキュリティサービスが徐々に膨らんでくると考えています。
産学連携については、これからは社会的な貢献も含めて、サイバーセキュリティ人材を日本の各所から集めながら、地方の創生も含めて、新しい優秀なサイバーセキュリティ知見を持った学生を採用していきます。
また、地方の各所にサイバーセキュリティ拠点を置く活動を続けており、いわゆるローカル創生の意義も含めて、拠点の追加を模索しています。
FY2022 第3四半期 前期比サマリ
石田:第3四半期のサマリです。売上高は前期比プラス27.9パーセント、営業利益は前期比プラス20.7パーセント、当期純利益は前期比プラス51.9パーセントとなりました。当期純利益については為替評価益で予算超過しています。
高騰する海外製品の仕入れに対応するために、外貨預金を事前に設定していました。 事前に円安を想定して外貨預金を設定していた関係上、為替評価益が自動的に出ました。
坂本:ヘッジ取引ではなく、自分のところにあるお金を外貨建てしていたというかたちですね。時価評価ですのでそうなるのですね。
石田:そのとおりです。
FY2022 売上高 四半期推移
石田:売上高は順調に増えており、2018年度は短縮決算で一度減少していますが、それ以外は順調です。去年の第1四半期に非常に大きなお客さまの特需があったため、累計前期比では減少に見えてしまいますが、全体の事業は順調で去年の第3四半期と比較しても27.9パーセント伸長しています。
坂本:ネットワークセキュリティ事業がかなり急激に伸びていますが、理由があれば教えてください。
石田:これは社会的な背景で、人口が減少すると当然エンジニアの人口も減っていき、人材獲得競争が始まっていきます。この先は人を取りあうだけではなく、AIも含めて機械での自動化が重要になります。
倫理に反するところを気にされている方もたくさんいらっしゃるのですが、無駄に人手がかかるところはできるだけクラウドから自動的に運用をかけていくことで解決できます。
簡単に言いますと、我々はネットワークのプロフェッショナル集団を置いて、クラウドのSaaS画面上からたくさんのお客さまの運用代行を行っていくという仕組みになります。当社の人材はある程度必要ですが、お客さまの人材は相当減っていくということで、必然的なニーズが増えていることが背景にあるかもしれません。
FY2022 ストック(リカーリング)売上高 四半期推移
坂本:続いて、リカーリングモデルのご説明をお願いします。
石田:当社の売上は半分以上がストックモデルで、今後さらにストック比率が高まっていきます。これは、先ほどのソフトウェアのライセンス販売がサブスクリプションモデルに切り替わっていくことで、ストックレートがさらに増えるためです。
坂本:御社のリカーリングの売上高が伸びているというお話ですが、業務の中でどのような部分がリカーリングになるのかを教えていただくとわかりやすいかと思います。お願いします。
石田:データセキュリティ事業でもネットワークセキュリティ事業でも両方あります。データセキュリティ事業は最初にライセンスを販売し、次年度から保守売上が立ってくるのですが、これがリカーリングの基盤になっています。
ネットワークセキュリティ事業はサービスモデルで、SaaSでお客さまのIT基盤運用を代行するモデルです。最初に当社の指定するネットワーク機器を購入していただきますが、それがフローとなり、その後定額のサービス利用料をお支払いいただくのですが、これがリカーリングになります。したがって、どちらの事業においてもリカーリングが発生します。
FY2022 販売費及び一般管理費 四半期推移
石田:販売費・一般管理費について簡単にご紹介します。当社の姿勢として、まず当社のトップラインスケールを作っていくことがハイプライオリティです。そのための事業に対する積極的な投資として、新しい事業・新しい製品に注力した研究開発費を重視しています。
加えて、価格体系をライセンスモデルからサブスクリプションモデルにし、ログのデータをお客さま側ではなくクラウドに上げ、そのログを当社がデータとして利活用していくモデルに切り替えていきます。当初予算から少し超過しながらも、今後も積極的な投資を続けていきます。
また、それに伴う人材の採用、特にAIやサイバーセキュリティに精通した人材を積極的に採用していくため、販管費がやや上がっています。
FY2022 営業利益 四半期推移
石田:累計で前年度差異を比較すると、マイナスのように見えますが、原因は前期の第1四半期に大きな受注があったためで、それを除けば今期も安定して成長しています。第2四半期については、半導体不足でネットワーク機器やカメラ、いろいろなデバイス、ハードウェアがなかなか調達できなかった影響で、受注の期ズレが起きましたが、第3四半期・第4四半期で回収見込みはたっています。
また、例年、第4四半期に計画的に必然たる出資・出費をかけているのですが、今期はそちらを予定していません。その部分についても、状況はだいぶ改善されてくると見ています。
坂本:期ズレになっていた高利益案件についてお話しいただきました。ネットワーク機器関係ということですが、お話しできる範囲でどのようなものだったのかを教えてください。
石田:大規模な介護福祉事業者のお客さまで、機器を大量にご購入いただく前提だったのですが、機器の調達が間に合わず、受注予定だったものが半導体不足の影響によって期ズレしてしまったということです。
また、当社はデバイスの販売だけではなく、レンタルモデルも供給しており、レンタルで大量の機器の注文があった場合、いったん原価計上してしまうため、仕入れが発生しながらレンタル契約の事務手数料の売上しか立たないということで、売れれば売れるほど逆ざやになるケースがまれにあり、利益率が一時的に減少しますが、コストは中期的に回収される構造です。
坂本:期ズレ分は第3四半期で完全に回収できたのですか? それとも第4四半期まで伸びるところもあるのか、イメージを教えてください。
石田:ほぼ第3四半期で回収できていますが、売上は第4四半期にも入ってきます。
FY2022 第3四半期 セグメントサマリー
石田:セグメント別のサマリになります。データセキュリティ事業はやや弱含みしています。この事業はソフトウェア販売が主ですが、導入にサーバハードウェアが必要になります。半導体不足により、ハードウェアをお客さま側で調達しきれていないという問題が社会的な現象としてあり、導入が遅延してしまっています。
これを根本的に解決するためのSaaS製品として、我々がクラウド上にインフラやアプリケーションをすべて用意し、それを利用していただくことを考えており、その研究開発を早急に進めています。
ネットワークセキュリティ事業は、半導体不足によるネットワークデバイスの出荷滞留がようやく解消されてきましたので、それにしたがって売上も順調に回復しています。
坂本:データセキュリティ事業もネットワークセキュリティ事業もオーダーは積み上がっている段階で、今は順次消化というかたちでしょうか? 将来の売上・利益に乗ってくる部分だと思いますので、イメージでよいので教えていただけたらと思います。
石田:受注残についてはご説明しきれませんが、できる限りお話しします。特にデータセキュリティ事業のログを集めるという市場や製品においては、かなり競合性が少ない状態です。
競合がいたとしても米国の年間1,000億円級の売上がある製品なのですが、かなり高額で、いわゆる玄人向けの製品ということもあり、国内では当社が標準製品として成り立っています。そのため、これがSaaSのモデルになれば、ハードウェアの調達の必要がなく、比較的導入しやすいというかたちです。
坂本:この完全な開発はいつくらいのイメージになるのでしょうか?
石田:明確にはコミットできないところですが、およそ来年度です。
坂本:早いですね。
石田:春先から夏までには、十分な機能が提供できると考えています。
坂本:まとめますと、競合他社の製品が意外とないため、半導体不足に関わる注文はしっかりと待っていただいているという状況ですね。
石田:そのとおりです。
FY2022 DS事業 売上高四半期推移
石田:先ほどと同じ内容になりますので少し割愛しますが、データセキュリティ事業については若干苦戦しています。
「ALog」という製品が当社の販売主力製品になりますが、このオンプレミス版を早急にクラウドに切り替えて、開発が成立したあとに市場に投入していきながら、クラウドモデルの販売とそれに合わせたサブスクリプションモデルのライセンスだけに切り替えていくということで、かなり大型の変更になっていきます。
坂本:クラウド版になった場合は、御社の売上は落ちるのでしょうか? 一般にサブスクリプションモデルに切り替えると一時的に売上が落ちてしまって利益だけある程度伸びていくというパターンもよくあります。
石田:そのパターンが多いですよね。当社の場合は、すでに利用していただいているお客さまについては、しばらくは現行の保守体系を継続していただく予定なので、すでに確定している保守売上が劇的に減少することはありません。今後の新規販売からサブスクリプションモデルに変わるので、前年度までのストックのモデルにサブスク売り上げが積み上がるため全体売上が瞬発的に落ちるという事態にはなりません。
FY2022 NS事業 売上高四半期推移
石田:ネットワークセキュリティ事業は比較的順調で、予定どおりです。接続端末なども堅調に膨らんでいます。売上については、先ほどお伝えした数年後も含めて回収されていくレンタルモデルも含めた売上になっていますのでそちらも若干考慮していますが、ここからはスケールを作っていけるため、利益をそのまま上乗せできます。
問題は、米国製品などさまざまなデバイスを各国から仕入れる際、円安もしくは海外のインフレの関係上、どうしても仕入高が発生してしまうことです。しかし、第2四半期から販売価格に転嫁しているため、第3四半期・第4四半期で粗利益率は向上します。
FY2022 業績予想(第3四半期累計)
石田:現時点では、第3四半期の累計売上高はほぼ予定どおりです。営業利益については、先ほどお伝えしたように戦略的な投資を進めています。当社最大の課題であるトップラインの急成長のために、我々経営陣は積極的に対処していかなければならないという自覚があります。
当社はメーカー事業であることから比較的プロフィットはアジャストできる背景もあるため、短期的な利益を追求せずに、まずトップラインを含めながら投資を行っていきます。当期純利益については予定どおりの進捗状況です。
FY2022 業績予想(通期累計)
石田:通期累計です。基本的には積極的な投資で想定回収収益率を中長期的に高めていくのが当社のモデルです。EBITDAは予定どおりで、通常規模の会社よりは比較的堅調な数字になっていると思います。
FY2022 DS 新規事業 定額セキュリティサービス
石田:一番の重要なポイントですが、先ほどもお伝えしたとおり、これからはツールを運用できる大企業というだけではなく、全体需要を含めてすべてのセキュリティレベルを上げていかなければなりません。
そこで、中堅・中小企業のお客さまでもセキュリティレベルを簡単に高められるモデルを提供するのが、この定額セキュリティサービスです。
各社のお客さまのログデータを当社がすべてクラウドに集約してAIで自動検知し、攻撃や内部不正を早急に判定しながら即座に対処していくという一連の処理が自動化できるモデルです。
坂本:使い勝手が良さそうで、かなりニーズの高いモデルなのではないかと思います。
石田:おっしゃるとおりです。同じような事業体で「SOC(Security Operation Center)」と呼ばれる、ファイアウォールなど玄関口だけの情報を集約しながら監視するサービスもあるのですが、当社の場合はすべてのITシステムをログで集約しながら、関連性のある挙動を認識できます。
そこにAIを自動設定しているため、事前情報の登録なく、その人がどのようなタイプでも挙動に何らかの不審性があれば自動的に検知できます。それをツールで提供するだけでなく、我々のサービスとして、中堅・中小企業のお客さまのセキュリティ業務を代行するのがこれからの仕組みです。
坂本:御社はこれをどのようなかたちで販売しているのでしょうか?
石田:ソフトウェアの販売は、富士通、NEC、日立など大手の販売網による間接販売がほぼ100パーセントでした。しかし、このようなサービスはダイレクトに救済を求めに来るお客さまに直接コンタクトする必要があり、サイバーセキュリティ事業者へのOEM提供も必要となってくるため、そのような関連性がかなり増えてくると思います。
FY2022 NS 新規事業 ゼロトラスト
石田:ネットワークについては、昨今「ゼロトラスト」が業界内で叫ばれています。既存のVPNサービスでは、必ず本社のインターネット網を通して外のサービスにつながっており、その場合は社員が会社にいるのが大前提です。
しかし、新しい働き方としては、社員は在宅、ワーケーション、サテライトオフィスなど、さまざまな環境で働いています。その際、インターネットの安全なセキュリティ通信が必ず会社のネットワークにつながっていなければいけないとなると、複雑なネットワーク設計と通信の負荷がかかります。
今後は自身の端末から、どのようなインターネット環境でも必ず安全なセキュリティ通信ができる仕組みが必要になってきます。これができると、パソコンやスマートフォンだけでなく、IoT、モビリティなどのインターネット通信が安全なセキュリティ通信網に変えられるため、潜在的な需要モデルなわけです。こちらは年内に発売を開始していきますが、期待できるビジネスモデルです。
FY2022 NS 新規事業 クラウドカメラ
石田:もう1つは、クラウドカメラです。こちらは投資家の中でもかなり理解の早いモデルになると思います。当社は全般的なクラウドを提供しているため、ルーター、ファイアウォール、スイッチ、ハブ、無線LANなどをすべてクラウドでサービスマネジメントできる関係上、結果的にクラウドのカメラもそこに付随されていきます。
当社のお客さまには小売・外食産業などが非常に多いことから、監視カメラの需要も多く、これで1つの新事業体を作っていくのが年度計画でした。しかし、半導体不足で機器調達がまったく伴わず、見込み違いの結果となりました。
しかしながら、これらは底堅い需要があり、当社も大規模な法人向けのモデル供給に向けて準備しているため、中長期的には重要な事業の1つとしてとらえています。
今期についてはそのコミットメントが非常に難しかったということです。
増井麻里子氏(以下、増井):3つの新規事業についてお話しいただきましたが、全体的な方向性と、既存サービスに連携できるのか、パッケージ化して販売するのかなどを教えてください。
石田:直接的には関連していないのですが、例えばゼロトラストでは、インターネットのセキュリティ網を作るという、クラウドサービスですでに供給されているものをお客さまに新たに選択していただける追加モデルで展開できるため、既存のお客さまのさらなるセキュリティ設定の需要に応えることもできます。
セキュリティサービスについては、ログ製品を買うだけでなく、セキュリティ運用全体を委託したいというお客さまに貢献します。製品販売と連携性の強いものなので、売上の構築も即効性があります。
増井:いろいろなオプションがあるということですね。
石田:そのとおりです。
FY2023-25 中期戦略
石田:中期戦略です。我々は基本的にプロフィットの潜在性を持っているため、中短期では積極的に人材投資・研究開発・広告宣伝に投資し、当社の潜在的なCAGRを積み重ねて、さらなる成長を作っていくことが今後のコミットメントです。
FY2023-25 中期戦略
石田:これからのビジョンは、国内最大のセキュリティプロバイダになっていくことです。従来はスライド左側の緑の部分のデータセキュリティとインフラセキュリティに対応していました。ところがサイバーセキュリティでは、もう少し全体的なサービスを要求されています。
特にCSIRTサービスでは、サイバー攻撃を検知したり、そもそもの穴を防ぐ設定・運用など、セキュリティ運用をすべて代行するサービスを期待されているため、そのような事業を追加していきます。教育事業も含めて、顧客のセキュリティ運用を全般的に集約するのがこれからのモデルになります。
質疑応答:白浜町オフィス設置の狙いについて
坂本:「和歌山県白浜町にオフィスを構えていますが、従業員の健康増進のためなど理由があるのでしょうか? 狙いを教えてください」とのご質問です。
石田:主に2つの目的があります。先ほどお伝えしたネットワークセキュリティ事業は、ルーターや無線LANなどのハードウェアを当社が仕入れて、それをキッティングしながらお客さまに配送していく仕事です。
その仕入れた製品の在庫やさまざまな物が本社オフィスを非常に圧迫しており、それを全国拠点に散らして、どこでもキッティングできるというディザスタリカバリも含めた環境を作っていくのが1つの目的です。
もう1つは、当社は基本的にテレワークを許容しているため、開発社員など100パーセント在宅勤務者も多いのです。そのような人たちが時には緑や海など自然を味わい、人間形成もしていきながら、どこでも働けるようなワーケーション環境を提供していくことが狙いです。
さらに、地方創生も挙げられます。特に地方には若い方々や優秀な方々が眠っています。そのような方々の働く場所を作っていけば、今後セキュリティ部門の重要なセンターに発展していくと思っています。
質疑応答:今後の採用計画について
坂本:「今後はデータセキュリティ事業よりもネットセキュリティ事業に傾倒していくイメージでしょうか? こちらに注力するとなると、人材採用は成長性に影響すると思いますが、今後の採用計画について教えてください」とのご質問です。
石田:実はデータセキュリティ事業にもかなり期待しています。先ほどお伝えしたセキュリティサービスの提供で、ある程度のプロフェッショナル集団が我々のセンターに必要になりますが、そのあとはクラウドのSaaSモデルになるためプロフィットレートが非常に高くなります。
これをサブスクリプションモデルに切り替えるということは、今までの大手のお客さま5,000社に合わせて中堅層にも拡販していくという意味で、かなり大きな事業の変革が適用できていくと思います。
ネットワークセキュリティ事業についても同様で、ある程度の人材確保は必要ですが、1人が100社のお客さまを見ていくようになるため、労働集約型でお客さまにビジネスを展開していくよりも、圧倒的なプロフィットレートが作れると認識しています。
質疑応答:第4四半期の計画的出費について
坂本:「例年、第4四半期に計画された出費を行っていたというお話でしたが、こちらはどのようなものでしょうか?」とのご質問です。
石田:上場する前は、社員への決算賞与、大学への寄付活動や共同研究への出資などさまざまな社会貢献活動、積極的な販促投資など、だいたい3本柱でその時期に出費を集中させていました。
今後は公共事業会社として、第4四半期に臨時で費用計上する等はせず、通期予算計画どおりに経営をいたします。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:網屋という名称は横文字にするとwebshopという意味ですか?
回答:網屋というのは、ネットワーク屋で、いわゆる企業のインターネット網、企業LAN・WANを作る作業のイメージです。インターネット網を設計する役割から網屋という商号をつけています。
<質問2>
質問:AI監視が誤作動する事はあるのでしょうか? セキュリティの完成度はどのくらいなのでしょうか?
回答:AIでは、通常の振る舞い(行動、行為)とは異なるそれを不正等の可能性として検知しています。そのため、検知した結果が不正ではない場合もありますが、通常との乖離を検知の基準としていますので、このような検知も正常動作の範囲内となります。
<質問3>
質問:先ほど牛丼の松屋の例を出されました。少し前、はま寿司からかっぱ寿司に移籍した役員の社内情報持ち出しが事件となりました。こうした不祥事を防止するソリューションも提供されているのでしょうか?
回答:当社のデータセキュリティ事業部で開発・販売しています「ALogシリーズ」をご利用いただくことで、「いつ」「誰が」「どの情報に」「何をした」ということがログ情報から分かりますので、不祥事の予兆を検知し、未然防止が可能となります。
さらに、今期6月にサービスリリースした「セキュサポ」では、当社の専門家がAIを活用したログ情報の監視、分析、追跡等をお客さまに代わって行いますので、より効率的で効果的な不祥事防止態勢を確立することができます。
<質問4>
質問:的外れな質問なら恐縮ですが、御社の技術を金融関係、とりわけインサイダー取引やマネーロンダリングの監視・防止などに役立てることはできるのでしょうか?
回答:結論から申し上げますと、当社の技術を応用することで、役立てることができると考えています。
金融関係の取引においてもシステムが使われており、そのシステムからはログ情報が出力されています。この情報をAIによって統合的に監視することで、不正の可能性がある取引等を検知できるのではないかと考えています。
<質問5>
質問:和歌山県への新オフィスの狙いはなんでしょうか?
回答:目的には主に2つあります。ネットワークセキュリティ事業では、ルーターや無線LANなどのハードウェアを仕入れて、キッティングし、出荷しています。その仕入れた機器の在庫等が本社オフィスのスペースを圧迫していますので、それを遠方拠点に分散して、どこでもキッティングできるという、ディザスタリカバリも含めた環境作りが一つ目の目的です。
もう一つは、当社はテレワークを許容しているため、開発者など100パーセント在宅勤務の従業員も多くいますので、そのような方たちが時には、緑や海など自然を味わい、人間形成もしていきながら、どこでも働ける環境を提供していくことにあります。
<質問6>
質問:和歌山県白浜町の新オフィスとはいわゆるワーケーションですね? 羨ましいです。従業員の生活の充実と健康増進が図られましたか?
回答:すでに多くの従業員がワーケーションを体験していますが、大変好評です。普段とは違う、自然に囲まれた環境で仕事をし、プライベートでは観光等を楽しむことができますので、心をリフレッシュできる、というのが魅力ではないかと考えています。
<質問7>
質問:長崎県立大学と組んだ理由について教えてください。
回答:長崎県立大学は、日本で初めて情報セキュリティ学科を開設した大学ですので、セキュリティの専門家を目指す学生も多数在籍しています。日本のセキュリティの最先端を走る大学で、これまでに多くのサイバーセキュリティ人材を育成した実績もあります。
このような大学と共同研究を通じて連携することで、サイバーセキュリティ人材の育成への貢献だけではなく、日本で不足するサイバーセキュリティ関連の優秀な人材を確保することも狙いの一つです。
<質問8>
質問:予算超の積極的な投資について、その内容を詳しく教えてください。
回答:当社データセキュリティ事業では、ログ管理製品「ALogシリーズ」を開発・販売しています。こちらはオンプレミス型のパッケージ製品で、導入するためには、お客さまにてサーバと呼ばれるハードウェアをご準備いただく必要があります。
しかし、昨今の半導体不足の影響でハードウェアの調達ができず、結果、導入の延期などが発生しています。このような課題を解決するため、ハードウェアを必要としないALogシリーズのクラウド版の実現、早期リリースを目指し、当初計画を上回る研究開発投資を行いました。その結果、ALogのクラウド版は来期の前半にはリリースできる見込みとなっています。
<質問9>
質問:今後の成長性ですが、DS事業よりNS事業に傾倒していくイメージでしょうか? NS事業に注力するとなると人材採用が成長性に影響するかとは思いますが、人材採用の今後の計画を教えてください。
回答:実はデータセキュリティ事業にもかなり期待しています。先ほどお伝えしたセキュリティサービスの提供で、ある程度のプロフェッショナル集団が我々のセンターに必要になりますが、そのあとはクラウドのSaaSモデルになるためプロフィットレートが非常に高くなります。
これをサブスクリプションモデルに切り替えるということは、今までの大手のお客さま5,000社に合わせて中堅層にも拡販していくという意味で、かなり大きな事業の変革が適用できていくと思います。
ネットワークについても同様で、ある程度の人材確保は必要ですが、1人が100社のお客さまを見ていくようになるため、労働集約型でお客さまにビジネスを展開していくよりも、圧倒的なプロフィットレートが作れると認識しています。
<質問10>
質問:例年、第4四半期への計画された出費を行っているとのことですが、どのような出費になるのでしょうか?
回答:上場する前は、社員への決算賞与、大学への寄付活動や共同研究への出資などさまざまな社会貢献活動、積極的な販促投資など、だいたい3本柱でその時期に出費を集中させていました。今後は公共事業会社として、第4四半期に臨時で費用計上する等はせず、通期予算計画どおりに経営します。
<質問11>
質問:情報の安全確保は誰でも考えることですが、御社の差別点はどこにありますか? 参入障壁は高いですか? 競合会社はどんなところですか?
回答:サーバ攻撃の監視や分析、追跡等の対応にはあらゆる機器やソフトウェアなどからログを収集し、それらを一元的に管理するための仕組みが必要です。当社では、15年以上前からそのようなログを管理するための製品を自社で開発し、販売してきましたので、当社ではログの一元管理のための仕組みを自前で構築することが出来る上、これまで培ってきたログに関するノウハウも豊富にあります。
そのため、通常、ログ管理製品を調達してサービスを展開する他社に比べ、当社は安価で質の高いサイバー攻撃対策サービスを提供できます。
また、参入障壁ですが、設備やサイバーセキュリティ人材が必要となるだけでなく、サイバーセキュリティ企業としてのブランディングや信頼性も必要不可欠ですので、新規の参入は容易ではないと思います。
<質問12>
質問:ゼロトラスト化が進めば御社のビジネスチャンスはますます拡大するのでしょうか?
回答:ゼロトラスト化が進むことで、当社ネットワークセキュリティ事業にとっては、追い風になると考えています。当社のゼロトラストサービスは、現在、PCやタブレット、スマートフォンなどのデバイスが対象となっていますが、研究開発を通じて、今後この技術をIoTデバイス向けのゼロトラストサービスに応用できる可能性もあると考えています。