投資にとって重要なのは、これから投資をしようとする企業がどういったビジネスをしているのか、またそのビジネスがどのような産業トレンドに立地しているのかということです。
圧倒的な技術を持っていても、それを評価してくれる顧客がいなければ収益に結び付けることができません。
また、株式市場で見てみると、注目度が高い産業には資金が流入しやすいのも特徴的です。もちろん、注目度が高くとも、その後に事業として継続や成長をしていかなければ資本市場からも見放されてしまいますが、注目されることは株価からすれば必ずしも悪い話ではありません。
さて、それでは今回は現在株式市場で注目されている産業トレンドを見ていきましょう。
人口動態の変化はビジネス構造の転換点に
現在、日本は人口の4人に1人が高齢者であり、超高齢社会に向けて突き進んでいます。特に近年では、団塊の世代が後期高齢者となる2025年が近づきつつあります。それに伴って、シニアビジネスへの参入がますます加速していくことでしょう。
みずほ銀行によると、2015年度の介護市場規模は9.8兆円程度を見ていますが、高齢者向け市場を「医療・医薬」「介護」「生活産業」の3事業分野の高齢者(65歳以上)の消費市場と定義した場合、2025年には100兆円に拡大する(高齢者向け市場/みずほ銀行)としています(出所1)。
主な関連業界である訪問看護・有料老人ホーム・介護用品に加え、医療業界・インターネット業界・レジャー業界など、多方面からの参入が相次いでいます。
日本は高齢化率世界一の超高齢社会です。海外に先んじて新しいビジネスモデルを真っ先に確立できるチャンスがあるといえるでしょう。日本のビジネスモデルを世界に展開できるかにも注目です。
カジノは日本経済の起爆剤となるのか
総合型リゾート施設(IR)整備推進法(カジノ法)が設立し、関連銘柄への注目度が高まっています。
カジノ施設の建設がいよいよ現実味を帯びてきたことで一大産業が誕生するとの期待感が大きく膨らんできています。予想される国内市場規模は1~1.5兆円で、政府が掲げる「GDP600兆円」の実現にも弾みがつきそうです。
なお、PwCによると、カジノの世界市場規模は2015年に1,828億ドル(約20兆円)とされています(出所2)。
関連業界は、遊戯機器メーカー・決済(換金)システム・ゲーム産業・アミューズメント施設などが挙げられます。
今後、カジノがどの地域、都市に展開され、インバウンドとしてのコンテンツとして海外に魅力的に発信できるのかなどにも注目です。
ちなみに外国人が日本国内で消費した額はGDPの統計上は「輸出」に割り当てられます。製造業として国内で生産し輸出をしなくとも、GDPには輸出として貢献することになります。
出所2:PwC「Global Gaming Outlook」
バーチャルリアリティ(VR)は新たな娯楽産業を生み出せるのか
VR(仮想現実)は「現実ではないがあたかも現実のように感じられる空間を人工的に作り出す技術」です。VR技術は実用化されつつあり、VRを活用したハードウェアとコンテンツで新たな産業として大きくなると期待されています。
MM総研によると、2016年度の国内市場規模はVRコンテンツ市場は27億円、VR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)市場は55億円と計82億円、2021年度はVRコンテンツが710億円、VR HMDが1,046億円の計1,756億円と、対2016年度比で21倍となる見込みです(出所3)。
16年度は日本のソニーだけではなく、サムスンといった海外の企業からもハードウエアが続々と発売され、17年度はコンテンツの拡充や次世代ハードウエアの登場が期待できそうです。関連業界はモバイルメイカー・ゲーム・観光・医療などが挙げられます。
出所3:MM総研「ARとVRに関する一般消費者の利用実態と市場規模調査」
サイバーセキュリティ対策は他人事ではなくなってきている
サイバー犯罪に対する懸念が高まり、サイバー攻撃の対策需要が急速に拡大しています。たとえば、日本では2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピックといった世界が注目する大きなイベントも続きます。
マイナンバー法や改正個人情報保護法の法規制による個人情報への保護対策強化によってもサイバーセキュリティ市場に対する需要が拡大するとみられ、IDC Japanは2015年に9,510億円(内訳は製品が2,699億円、サービスは6,811億円)だった国内市場規模は、2020年には1兆2,160億円(内訳は製品3,403億円、サービスは8,757億円)に拡大すると見込んでいます(出所4)。
関連業界は、セキュリティサービス、ソフトウェア企業などをICT企業が注目度が上がっています。
出所4:IDC Japan「国内セキュリティ市場予測を発表」
ドローンはB2B中心に市場が成長するか
ドローンは無人で遠隔操作や自動制御によって飛行可能な航空機の総称です。
日本では2015年末にドローンの航空規制を定めた改正航空法が施工されました。事業化への土台ができ、企業や自治体の動きが活発になっています。千葉市で「ドローン配達」のデモ飛行が行われるなど、規制緩和が進む特区での実証実験を皮切りに様々な活用事例が生まれそうです。
物流以外にも、建設、インフラ点検、農業、警備などの分野で活用が進み、今後市場がさらに拡大する見通しです。
人工知能は産業行動をどこまで拡大させるのか
人工知能(AI)は人工的に人間と同等の知能を実現させることを目標にした研究分野であり、Googleの「AlphaGo」などの目覚ましい活躍により今注目を浴びています。その発端は1956年のダートマス会議にまで遡る、歴史ある分野です。技術的な困難から何度も「冬の時代」を経験。しかし近年ディープラーニングと呼ばれる画期的な手法が開発され幅広い分野での応用が期待されており、囲碁の対戦だけでなくSNS分析や自動運転などへの実用化も進められています。
ヘルスケアやカスタマーサポートなど従来人手でしか対応できなかった業界でも通用する可能性を持っていることから、EY総合研究所によると、2015年に約3.7兆円だった市場規模は、2030年には約86兆9,600億円へ大幅に拡大する事が予想されています(出所5)。
出所5:EY総合研究所『人工知能が経営にもたらす「創造」と「破壊」』
2025年の電気自動車の市場規模
電気自動車は、電気モーターを動力源とする自動車で、電池から電力を得る電池式と外部から電力を供給する架線式に大別されます。
日本や新興国は価格面からハイブリッド(HV)を中心に市場が拡大してきましたが、欧米・中国では国の政策支援もあって二酸化炭素の大幅削減が可能な電気自動車(EV)中心に市場が拡大しており、SOGO PLANNINGによれば、2014年の約4兆2,400億の市場規模は2025年には21兆8,917億円に達する見込みです(出所6)。
関連業界は自動車メーカー・自動車部品・電池・家電などです。
出所6:SOGO PLANNING「2016年版 電気自動車関連市場の最新動向と将来予測」
シェアリング・エコノミーは内需喚起となるか
「シェアリング・エコノミー」とは、個人が保有する遊休資産の貸出しを仲介するサービスであり、貸主には遊休資産の活用による収入、借主には所有することなく利用ができるというメリットがあります。
市場はシリコンバレーを起点にグローバルに急成長しており、2013年に約150億ドルだった市場規模が2025年には約3,350億ドルに成長する見込みです(出所7)。
国内でも今後の市場拡大が予想されていて、国内市場規模は2014年度に約233億円だったものが、2018年度までに501億円まで拡大すると予測されています(出所8)。
また、2016年にシェアリング・エコノミー協会が保険会社と提携し、同協会の会員向けに専用の賠償保険の販売を始めるなど、リスク回避の動きも進んでいます。
出所7:PwC「The sharing economy - sizing the revenue opportunity」
出所8:矢野経済研究所「シェアリングエコノミー(共有経済)市場に関する調査を実施 (2016年)」
クールジャパンの市場規模とは
日本のアニメ産業は「クールジャパン」の中心産業という位置づけもあり、国内だけではなく海外でも成長すると期待がされてきた産業です。
同市場動向は一般社団法人日本動画協会によれば、2006年以降縮小傾向が続いていましたが、2009年を底に連続拡大しています。2015年は1兆8253億円と前年比12%増としています(出所9)。
関連業界はV放送・アニメ映画・DVD・動画配信・アニメグッズ・音楽・海外アニメ・パチンコ・パチスロなどがあげられます。
出所9:一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2016」サマリー版
再生医療は大きな経済効果が期待できる
再生医療とは、病気やけがで失った組織を回復させる医療で、難病治療への応用や創薬での活用に加えて医療費抑制への貢献も期待されており、極めて高い成長が見込まれます。
当初、環境整備の遅れが指摘されていましたが、政府の成長戦略にも盛り込まれ、再生医療推進法(再生医療安全性確保法・医薬品医療機器等法)が2014年11月に施行されたこともあって、世界で最も先進的な開発環境となり、日本の再生医療に対する期待は一気に高まり海外からも熱い視線を集めています。
現在の市場規模はSEED PLANINGによれば、国内140億円、世界1,200億円。2030年には国内1.1兆円、世界12兆8,000億円と大きな経済効果が期待されます(出所10)。
関連業界には、製薬大手・販売大手・販売提携・機材等周辺機器などがあります。
出所10:SEED PLANING「再生・細胞医療研究の現状とビジネスの展望 -調査結果-」
ジェネリック市場は今後も拡大続く
政府が打ち出した使用促進策により、ジェネリック医薬品市場は堅調に拡大していてきました。今後の医療費の抑制などにも注目が当たれば、ジェネリック医薬品市場は更に拡大の余地を残しているといえます。
富士経済によれば、2018年の国内市場は2014年比9.1%増の9兆3,044億円が予測されます(出所11)。
既存のジェネリック医薬品メーカーが事業をさらに拡大するのか、新規参入が増えるのかにも注目です。
出所11:富士経済「各領域のトップブランドが相次いで特許切れを迎えますます活況を呈する国内のジェネリック医薬品市場を薬効領域別に調査」
ロボット市場の拡大は続く
世界的に人件費の上昇と人手不足が重荷になって、先進国、新興国ともに工場の自動化機運が高まり、産業用ロボットの導入が進んでいます。
製造業をはじめとして現在市場が形成されている分野の成長に加え、サービス分野を始めとした新たな分野(医療・介護・生活支援など)への普及も期待がされています。
ResearchStationによると、世界の産業用ロボット市場は今後年率10%以上の成長が続き、2022年には795億ドル規模の市場に達するとの見ています(出所12)。
関連業界としては、ロボットメーカー・電子部品などがあります。
出所12:ResearchStation「産業用ロボットの世界市場:タイプ別、需要家別2022年予測と分析」
第5世代移動通信システム(5G)の影響とその関連産業
移動通信システムにおける通信速度のアップグレードや普及が進むことで、私たちの生活が便利になるだけではなく様々なサービスが生まれてきました。
現在はLTEと呼ばれる3.9G、また4Gとも呼ばれる無線通信インフラが日本では大きく利用されていますが、今後展開されることになっている5Gを見据え、国内では基本技術の実証実験などが始まっています。2020年の前後では、サービス・機能検証を含めた総合実証試験も始まっていく予定です。
5Gの関連市場ですが、総務省によれば、世界の5Gモバイル産業の市場規模は2014年の211兆円から2020年には460兆円へと拡大する見通しです(出所13)。
その中での成長分野は、端末や応用機器・製造分野での成長をはじめ、インフラにおける通信サービス、サービスにおける小売りや金融業での決済サービスなどが成長していくという予想もされています。
関連業界としては、通信事業者、通信機器メーカー、電子部品メーカーなどです。
出所13:総務省「日本最高戦略としての5G」
自動運転は自動車産業における新たな競争を持ち込むのか
センサーやレーダー、半導体などの技術革新により自動車産業に自動運転という新たな競争領域が誕生しました。kろえまでの自動車メーカーだけではなく、新興の電気自動車メーカー、インターネット企業なども参入し、自動運転をテーマとした市場が拡大しつつあります。
自動運転のレベルはレベル1から4まであり、完全自動走行であるレベル4に関しては2025年以降に実現されていくといわれています。こうしてみると、一足飛びには実現しない自動運転ですが、その技術進化とともに事故率の減少等といた安全性の向上が期待できます。
自動運転の市場規模ですが、Report Buyerによれば、2025年に830億ドル(約9兆1000億円)と予想され、AI(人工知能)や画像センサーなどへの投資が積極的にされるとしています(出所14)。
関連業界としては、自動車メーカー(OEM)をはじめとして、自動車部品会社、地図会社などです。
出所14:Report Buyer「Global Autonomous Driving Market Outlook, 2017」
まとめ
いかがでしたでしょうか。産業トレンドは株式市場でどのような銘柄が注目されるかを見出すための一つのきっかけとなります。是非、今後の投資の参考にしていただければと思います。
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LIMO編集部