2022年11月16日に発表された、出光興産株式会社中期経営計画説明会(2023~2025 年度)の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:出光興産株式会社 代表取締役社長 木藤俊一 氏
出光興産株式会社 代表取締役副社長 丹生谷晋 氏

中期経営計画

木藤俊一氏:日頃より弊社へのご理解とご支援をいただき厚く御礼申し上げます。

ご承知のようにロシアのウクライナ侵攻が長期化しており、資源価格の高騰や世界的なインフレの進行など、大きな環境変化にさらされています。このような環境下、我々はエネルギー事業者として、生活や社会、産業を支えていくために不可欠である、エネルギーの安定供給の使命をしっかりと果たした上で、2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けた道筋をいち早く示していくため、2023年以降の中期経営計画を発表しました。

今後もさまざまな環境変化により柔軟な対応が必要になってくると思いますが、今回まとめた中期経営計画について概要をご説明したいと思います。

企業理念

企業理念「真に働く」は、当社の企業としての判断軸であり、またグループ従業員一人ひとりが困難に直面した時の拠り所と考えています。過去からも、この先の未来も、我々は「真に働く」ことを追い求めていきます。

本中期経営計画の内容

本中期経営計画の内容はスライドのとおりです。まず2050年ビジョンと方向性についてご説明します。

2050年ビジョン

昨年、2030年ビジョンとして「責任ある変革者」を定めました。2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けては、さらにその先のエネルギーの未来と、当社のありたい姿について、長い時間軸で捉える必要があると判断し、今回新たに2050年ビジョンとして「変革をカタチに」を作成しました。

カーボンニュートラル、循環型社会を見据えた「一歩先のエネルギー」や、「多様な省資源・資源循環ソリューション」、そして「スマートよろずや」という事業ドメインで変革を具現化し、社会実装することで、スライドに記載の2つの責任を果たしていきます。

2050年事業環境認識

当社を取り巻く事業環境は不確実性を増しており、2050年の事業環境を正確に見通すことは大変困難です。しかし、国際社会が持続可能な世界を目指していく中で、カーボンニュートラル社会を前提としたエネルギーシステムや循環型社会は、企業市民としても目指すべき方向と考えています。

これらの実現には、国、地域、業界の垣根を越え、あらゆる関係者を巻き込み、新たな技術やデジタルを組み合わせて、社会に受け入れられる形で実装する担い手が求められます。この社会実装への挑戦は、化石燃料を主体とする当社の事業変革にとって大きなチャンスであると捉えています。

事業ポートフォリオ転換に向けた3つの事業領域

2050年ビジョン実現に向けて、スライドの3つの事業領域での社会実装を通じて「人びとの暮らしを支える責任」と「未来の地球環境を守る責任」を果たしていきます。

3つの事業領域における「社会実装テーマ」

スライドの図は、3つの事業領域における社会実装テーマのロードマップです。2050年において当社は、記載のテーマを主力事業として扱うことで、「エネルギーとカーボンニュートラルソリューションのメインプレイヤー」を目指していきます。

しかし、これらの主力事業は一足飛びに事業化できるものではありません。そこで本中期経営計画では、2050年からバックキャストし、2030年までに社会実装に取り組むテーマを定めました。それぞれの領域において既存事業で培った知見とアセットを活用し、カーボンニュートラル社会に向けた事業構造改革を推進していきます。

2050年CNへの道筋

2050年のカーボンニュートラルへの道筋についてご説明します。当社は事業構造改革とネガティブエミッションの取り組みを進め、2050年までに自社操業に伴うScope1、Scope2の排出量のカーボンニュートラルを実現していきたいと考えています。

中間目標として、2030年時点のGHG排出量を2013年比で46パーセント削減することとしました。こちらは昨年公表の見直し中期経営計画から約300万トンの削減を上積みした目標値です。またScope3についても、関係各所と連携し、産業活動・一般消費者向けのソリューションを提供することで、カーボンニュートラルを目指していきます。

2030年の位置づけ

2030年は、既存のエネルギーと素材の安定供給責任を果たしながら、2050年のカーボンニュートラルに向けたトランジションを少しずつ具体化していく転換期と位置付けています。

カーボンニュートラルの実現に向けては非連続的な技術革新が必要となる一方で、エネルギーと素材の供給においては、人々の暮らしや産業を支える不可欠なものとして、連続性を伴ったトランジションが必要となります。そのため、現時点から本中期経営計画をはじめとした必要な備えを計画的に進めていきます。

2030年度 経営目標

2030年に向けた経営目標と基本方針についてご説明します。

当社は2021年の見直し中計で、2030年の基本方針と経営目標を公表しました。今回の中期経営計画では、すでに公表している財務目標に加えて、CO2削減量をはじめとする非財務目標において新たに人的資本投資の目標値を設定しました。詳細は、後ほどご説明します。

2030年に向けた基本方針は、現中期経営計画の方針を継承しつつ、事業構造改革投資として「ROIC経営の実践」、また人的資本投資として「従業員の成長・やりがいの最大化」を両輪に据えています。それらを支える「ビジネスプラットフォーム」の進化に合わせ、さまざまな施策を社会実装していき、化石燃料主体の事業ポートフォリオからの転換を進めていきます。

2030年基本方針

事業構造改革投資についてご説明します。事業構造改革の基本となるのがROIC経営です。既存事業において、資本効率化を図りながらカーボンニュートラルに資する新規事業の拡大に取り組むことで、財務目標に定めているROIC 7パーセントを実現します。

既存事業の資本効率化

既存事業の資本効率化について具体的にご説明します。2030年の国内燃料油需要が2022年対比で約2割減少する前提で、製油所供給体制の見直しや既存事業の構造改革を通じて化石燃料アセットを2割圧縮していきます。

一方、NOPATについては、国内需要が減少する中でも、コスト削減・効率化、生産性向上によって収益規模を維持し、既存事業全体での資本効率を高めていきます。

新規収益創出による事業ポートフォリオ転換

既存事業の資本効率化により得たキャッシュを、カーボンニュートラルへ向けた事業構造改革投資に充て、新規収益を創出することで「営業+持分損益2,700億円」を実現し、化石燃料主体の事業ポートフォリオからの転換を図っていきます。

人財戦略

人的資本投資についてご説明します。当社は創業以来、「人が資本」「人が中心の経営」を標榜し、すべての従業員がそれぞれの能力や個性を遺憾なく発揮し、成長していくことを大切にしてきました。それがまさに当社の事業目的です。

新たに掲げた2050年ビジョン「変革をカタチに」への挑戦は、これまで当社が大切にしてきた価値観の真価を問うものと考えています。具体的には「企業理念・ビジョンへの共感」「D&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」の3つを重点課題とし、それぞれにKPIを設定して進捗を見ながら、必要な対策をタイムリーに講じていきます。

人財戦略のKPI

2030年に向けた人財戦略のKPIです。企業理念やビジョンの浸透、体現度を表す「出光エンゲージメントインデックス」を新たに定めました。そして、定量的かつ定期的にモニタリングを行い、従業員のエンゲージメントを着実に高めていくことで、当社および従業員の持続的成長につなげていきます。

KPIとして、「D&I」に3つの目標値を掲げています。今後取り組んでいく事業構造改革は、これまでの延長線上でなし得るものではありません。多彩な従業員がいきいきと働き、互いが化学反応を起こしながら新たな価値を創出できるような取り組みを加速していきます。

従業員一人当たりの教育投資額については、国内トップクラスの教育投資額である一人当たり年間10万円という目標を設定し、構造改革を進める人財を育成するとともに、個人の成長につなげていきたいと考えています。

ガバナンスの進化

ビジネスプラットフォームの進化についてご説明します。ガバナンスの進化に向けて、取締役会の機能向上および役員報酬制度の見直しを図ります。役員報酬制度については、固定報酬比率を引き下げることで業績連動性を高め、中長期的な企業価値の向上と、株主との価値共有を重視した内容への見直しを検討しています。

2025年度 経営計画

2030年に向けた経営目標と基本方針を踏まえた、2023年度から3ヶ年の中期経営計画についてご説明します。

2025年度の経営計画はスライドのとおりです。財務目標は「営業+持分損益」が1,900億円、当期利益が1,350億円で、2020年度からのさらなる利益成長を見込んでいます。資本効率性も引き続き重視し、ROEは8パーセント、ROICは5パーセントの水準を計画しています。また、事業ポートフォリオ転換の進捗を計るものさしとして、化石燃料事業収益比率を2025年度に70パーセント以下とします。

非財務目標として、人的資本投資について各種目標を設定し、人財戦略を確実に進めていきます。

在庫影響除き営業+持分損益②

利益成長の内容についてご説明します。スライドは、2022年度と2025年度の補正後の利益水準の比較をセグメント別に示したものです。主な内容として、資源については、2023年度以降徐々に石炭市況の正常化が進むと見ており、減益を見込む一方、燃料油では需要減に応じたコスト削減や海外販売拡大による増益を見込んでいます。

そのほか、基礎化学品では愛知事業所のパラキシレン装置稼働による収益貢献、高機能材では潤滑油、電材事業における販売強化、電力・再生可能エネルギーでは自社電源の発電規模に見合った販売規模へ転換していくことによる増益を見込んでいます。

投資計画(3カ年)

投資計画です。本中期経営計画期間における3ヶ年の投資総額は6,900億円で、そのうち2,900億円を新規事業創出にかかる事業構造改革投資に充当します。この2,900億円は、2030年までの事業構造改革投資1兆円の一部となります。

主なテーマとしては、千葉SAF製造装置、徳山アンモニア基地化など、CNX(カーボンニュートラル・トランスフォーメーション)にかかる投資のほか、リチウム固体電解質の商業生産に向けた投資などを織り込んでいます。

事業基盤強化については、既存事業の構造改革などで1,300億円、操業維持投資は2,700億円になる見込みです。

株主還元方針

株主還元方針です。当社は株主のみなさまへの利益還元が経営上の重要課題であると認識しています。還元方針は現中期経営計画の方針を維持し、本中期経営計画期間累計の在庫評価影響を除いた当期純利益に対し、総還元性向50パーセント以上の株主還元を実施します。

配当は、1株当たり120円の安定配当を基本とします。

キャッシュフローの配分(3カ年)

キャッシュフローの配分です。3ヶ年のキャッシュフローの総額は9,100億円を見込んでいます。このうち、既存事業投資4,000億円を償却費の範囲内を目処に実施していきます。

フリーキャッシュフローは5,100億円で、新規事業創出にかかる事業構造改革投資2,900億円および株主還元を実施するとともに、財務健全性についても維持していく方針です。

私からの説明は以上になります。ここからは副社長の丹生谷より、個別事業戦略などのご説明をさせていただきます。

既存事業の方向性

丹生谷晋氏:先ほどご説明した3つの事業領域と現在の5つの事業セグメントとの関連についてご説明します。

「一歩先のエネルギー」は、水素、アンモニア、合成燃料の転換を図る燃料油事業、出光グリーンエナジーペレット等のソリューション事業を提供する資源事業、そして「多様な省資源・資源循環ソリューション」はバイオ化学へとシフトする基礎化学品、高機能材の各事業群、パネルリサイクル事業に取り組む電力再エネ事業、また「スマートよろずや」には全国約6,200ヶ所のサービスステーションと分散型エネルギーを担当する電力再エネ事業が、それぞれ該当します。

このほか新たに始める商品サービスも含めて、5つの事業セグメントを有機的に結合し、3つの事業領域に再編していきたいと考えています。

「CNに資する新規事業テーマ」の候補群

2030年までの事業構造改革の投資規模は1兆円を想定しています。選択肢をなるべく多く用意しつつ、その中から当社の強みが発揮でき、成功確率の高い案件を厳選していくという考えです。その多くは、次期中期経営計画期間中に意思決定するものと考えています。

CNトランジションに向けたマネジメント体制

19ページですが、意思決定の仕組みも変えていきたいと考えています。社長を委員長とする「CN(カーボンニュートラル)トラジション戦略検討会」を立ち上げ、事業部や部門横断プロジェクトとダイレクトにやりとりし、迅速に意思決定をしていきます。テーマについても、柔軟に組み替えていきたいと考えています。

一歩先のエネルギー

3つの事業領域について補足説明します。37ページは「一歩先のエネルギー」の概念図です。スライド左端に記載のとおり、現在は石炭火力、内燃機燃料、航空機燃料があります。

それぞれがどのような時間軸で、どのようなエネルギーに転換していくのかイメージを表しています。私どもは、お客さまに「一歩先のエネルギー」を提案し、その安定供給に努めていきたいと考えています。

国内需要に合わせた精製能力再編とCNXセンター化

その中心になるのが、CNXセンターです。国内需要減を見据えて精製能力を段階的に削減していきますが、製油所・事業所の立地、インフラを最大限有効活用しながら、地域の特色を活かしたCNXセンターに転換していきたいと考えています。

CNXセンター化構想

CNXセンター化構想です。例えば中国地区では、先般発表したコンビナートユーザー向けのアンモニアサプライチェーンの構築や、SAF、バイオ化学の製造などに取り組みます。

北海道地区では、水素製造やCCUSを活用した合成燃料の製造、関東地区、中部地区ではコンビナート、製鉄所向けの水素サプライチェーンの構築や、SAF、バイオ化学などの製造に取り組みます。特に京葉では、使用済みプラスチックリサイクルや、全固体リチウム電池などのテーマに取り組んでいく予定です。

多様な省資源・資源循環ソリューション

多様な省資源・資源循環ソリューションのイメージを示しています。高機能材事業では、省エネ・省資源に貢献すべく、電化・電動化、バイオ・ライフ、ICTの3領域で成長を図っていきたいと考えています。

2022年7月に、社内カンパニーとして「先進マテリアルカンパニー」を設立しましたが、自社単独ではなく、他社とのアライアンスを積極的に考えていきます。

資源循環・リサイクルでは、使用済みプラスチック、ソーラーパネル、全固体リチウム電池の3つの領域に取り組みます。あわせて、カーボンリサイクルのCCUSについても積極的に取り組んでいきたいと考えています。

スマートよろずや

「スマートよろずや」についてです。今般「スマートよろずや」を、多様なエネルギー、モビリティを通じて地域の暮らしを支える生活支援基地というコンセプトに再整理しました。

スマートよろずや(YOROZU)

「スマートよろずや」のイメージを示しています。1番目は、CLT(ひき板を並べた層を、板の繊維方向が層ごとに直交するように重ねて密着した大判のパネル)を使った環境対応ecoステーション、2番目は分散型エネルギー供給ステーション、3番目はトラック・物流向けステーション、4番目はEV充電・メンテナンスステーション、5番目はMaaS(Mobility as a Service:移動手段を「所有」するものではなく、「利用」するものと捉え、ICTを活用しさまざまな移動手段を1つのサービスとしてシームレスにつなぐという次世代モビリティの概念)ステーション、6番目はコミュニティサポートステーションです。

当社はさまざまなフォーマットを用意し、各地域のニーズに応じてフォーマットを柔軟に組み替えて提供し、各地区のエネルギーやモビリティを支えていきたいと考えています。

ニソン製油所(NSRP)の状況

重点課題への取り組みについて2点ご説明します。52ページは、ニソン製油所の状況です。ニソン製油所は、上期はマーケットの追い風もあり黒字転換しましたが、下期は営業ベースで黒字であるものの、金利上昇等が重しとなり、通期では若干の赤字を見込みます。

金利負担、さらには一段とコスト削減が必要という点で、関係者間のベクトルは一致しています。経営の安定化に向けて、経営改善を加速していきたいと考えています。

ソーラーフロンティア(SF)事業構造改革

ソーラーフロンティアにおける事業構造改革の進捗状況です。おおむね計画どおり進捗しており、マーケティング活動をこの2年徹底的に展開したところ、自家消費市場が拡大し、かなりの手応えを感じています。

そこで、EPC機能を内製化することにしました。これによって、2030年代以降大量に発生する太陽光パネルのリサイクルやリパワリング事業の足がかりを作ることができると考えています。

電力・再エネ事業全体で、2023年度にセグメント利益の黒字化を達成したいと考えています。私からの説明は以上です。

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