日本無線の完全子会社化を発表

日清紡ホールディングス(3105)は2017年5月15日、61.8%の株式を保有する連結子会社の日本無線(6751)を株式交換で完全子会社化すると発表しました。発表翌日の16日の株価は日清紡HDが前日比▲5%安、一方、日本無線は+3%高で引けています。

ちなみに、日本無線はすでに2010年から日清紡の連結子会社となっていますが(現在の出資比率は61.8%)、今回の完全子会社化により9月27日付けで上場廃止となる予定です。

また、日本無線といえば2000年代初頭まではNTTドコモ向けに自動車電話や携帯電話端末を供給していたことをご記憶の方も多いかと思います。現在はというと、船舶用無線機や防災行政無線機などを主力事業としています。

ただし、最近の業績は世界的な海運・造船市況の悪化などの影響を受けて低迷が続いていました。このため、今回の完全子会社化は日清紡HDとの連携を強化し、コスト構造改革や自動運転関連などにフォーカスした成長戦略を加速して業績を立て直すことが目的とされています。

日清紡HDは第二の富士フイルムを目指すのか

さて、今回、日本無線を完全子会社化する日清紡HDはどのような会社なのでしょうか。社名から想像できるように、同社は1907年に紡績会社としてスタートしています。株式コード番号が東洋紡(3101)やユニチカ(3103)と同じ3100番台となっているのもそのためです。

ただし、事業内容はもはや繊維メーカーとは程遠いものとなっています。同社には7つのセグメントがあり、2017年3月期の売上構成比は、エレクトロニクスが36%、ブレーキが27%、精密機器が12%、繊維が10%、紙製品が6%、化学品と不動産がそれぞれ2%となっています。

なお、セグメント利益については、エレクトロニクスとブレーキが赤字、それ以外が全て黒字であり、最大の稼ぎ頭が不動産となっています。

このように幅広い事業を手掛ける日清紡HDですが、今後の目指す姿は、“「環境・エネルギーカンパニー」グループとして持続可能な社会を支える会社になること”、と極めてシンプルに表現されています。

また、今後の注力領域も「無線・エレクトロニクス」、「車載・機器」、「新エネルギー・スマート社会」、「生活・素材」の4分野と、明確に定義されています。

そこには祖業の繊維に関するものは見当たりませんが、この戦略が成功すれば、銀塩フィルムからメディカル関連へと事業の総入れ替えに成功した富士フイルムホールディングス(4901)の再来ということになるのかもしれません。

今後の注目点

日清紡HDは、2026年3月期に売上高1兆円(2017年3月期実績5,273億円)、ROE12%(同1.5%)という非常に意欲的な数値目標を設定しています。また、同社では中期目標を達成するために、既存事業で2,500億円、加えてM&Aで2,500億円の売上増を図る考えを示しています。

今後、M&Aを加速させていくためには、安定的なキャッシュフローを既存事業から生み出すことが不可欠です。そのため、エレクトロニクスやブレーキなどの既存事業の採算性が改善していくか、とりわけ今回完全子会社化される日本無線の業績動向について、まずは注視していく必要がありそうです。

また、異なる分野を手掛けるグループ内企業間の連携を深め、ADAS(先進運転システム)、銅レス・銅フリー材を使ったブレーキ、燃料電池分野の素材開発などが加速していくかについても注目していきたいと思います。

日清紡ホールディングスの過去10年間の株価推移

 

和泉 美治