投信1編集部によるこの記事の注目点

  •  東芝メモリが手がけるNANDが注目されているのは、IoT時代の本格幕開けを前に大量のデータ(ビッグデータ)処理が必要になると言われているためです。
  •  サーバーなどコンピューターのメモリー階層は、最上層にCPU(レジスター)、キャッシュメモリー(L1/L2)、その下にDRAM、SCM、SSD(NAND)、HDD、磁気テープに分かれており、上位層のメモリー容量は小さく、HDDなどの下の階層に行けば行くほどスピードが遅くなるが安価で大容量化が可能な記憶媒体として普及しています。
  •  今後はNANDよりも高速で大容量化が可能な新たなメモリーが求められると見られていますが、これがSCMと呼ばれる次世代メモリーです。

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東芝メモリ(株)の行方がなかなか定まらない。同社の株式売却を巡り、NAND型フラッシュのライバル企業など様々なグループが名乗りを上げているが、親会社の都合に翻弄され、政府から横やりが入ったり、もはや自らの進退を自分たちの手で決められない状況まで追い込まれている。

親会社の東芝は、株式売却に向けて近く2次入札を実施するが、応札の有力候補には、米ブロードコムと投資ファンドのシルバーレイク・パートナーズや、同業の韓国SKハイニックス、シャープを傘下に置いた鴻海グループなどが名乗りを上げているようだ。特に、鴻海は前回の1次入札で3兆円もの巨額買収を提案したとの報道も流れ、その積極姿勢が注目されている。また、SKハイニックスも会長自らが日本に乗り込み、東芝メモリ買収への執念を見せている。

東芝は、本体の債務超過を解消するためできるだけ高値で6月末ごろまでに売却先を決定したい意向だが、決着までには紆余曲折が予想される。

なぜなら、ここにきて生産パートナーのウエスタンデジタル(WD)が、合弁事業の当初契約をもとに、メモリー事業の売却自体に反対を示す意見書を4月9日付で東芝経営陣に提出したというのだ。WDも1次入札に参加したとみられるが、自社の提示額を大幅に上回る金額や、ライバル企業らの積極攻勢が相次いで報道され、売却額が吊り上がっている。高値売却に傾きだした東芝経営陣へのWDの牽制と受け取ることもでき、売却先決定に大きな影響を与える可能性が出てきた。

ストレージ・ソリューションがキー

ここで、東芝メモリにとって何が一番よいのか、改めて原点に返る必要がある。

東芝メモリが生き残り、将来も成長していけるシナリオをはっきりと描けるかどうか、ここがポイントになる。その観点から、注目すべき再編シナリオを紹介したい。

「今後はストレージ・ソリューションというビジネスモデルでメモリービジネスは進む」とハイテク産業の調査機関として定評のあるIHS主席アナリストの南川明氏は語る。同社は現状のNAND事業だけに安住するのではなく、一部DRAMを代替するとみられるストレージ・クラス・メモリー(SCM)領域の台頭も視野に入れて、再編の駒を進めることが大事であると説いている。

顧客は、今後の大容量・高速アクセスが求められるストレージ市場で、様々な選択肢に直面することになろう。急拡大が予想されるエンタープライズ向けSSDだけではなく、大容量HDD、あるいは両者のハイブリッドであったりと、多岐にわたる。その場合、顧客に対して的確で、将来の技術変化も見越したソリューションの提案力が大事になるというのだ。

NANDの“一本足打法”だけでは、早晩、中国勢の本格参入が予想されるため、価格競争に巻き込まれて消耗戦を強いられるだけだと、と警鐘を鳴らす。

サーバーなどコンピューターのメモリー階層は、最上層にCPU(レジスター)、キャッシュメモリー(L1/L2)、その下にDRAM、SCM、SSD(NAND)、HDD、磁気テープに分かれている(図)。メモリーの処理スピードはCPU内部に内蔵されているレジスターが一番早く、その次にSRAMなどのキャッシュと続く。その代わり、上位層のメモリー容量は小さい。HDDなどの下の階層に行けば行くほどスピードが遅くなるが、安価で大容量化が可能な記憶媒体として普及している。

ここで今、NANDやSCMの技術革新により、半導体メーカーが既存のストレージである一部HDDなどの市場を奪おうとしている。

サーバーのメモリー階層(出典:IHSグローバル)

NAND、SSD向けで大ブレイク中

東芝メモリが手がけるNANDが注目されているのは、昨今のIoT時代の本格幕開けを前に、大量のデータ(ビッグデータ)処理が必要になるといわれているためだ。そのため今、グーグルやアマゾンなどは、大規模なデータセンター(DC)を世界のあちこちに建設、大量に専用のサーバーを導入している。その主要な外部記憶装置として、NANDチップを多数搭載したソリッド・ステート・ドライブ(SSD)と呼ばれるストレージに注目が集まる。既存のHDDと異なり、壊れにくく、低消費電力で小型化できるなどのメリットがあるためだ。

東芝の命運を握る四日市工場 N-Y2 、3Dの量産拠点に

依然、ビットコストなどの点ではHDDの価格に及ばないが、サーバーへのアクセス・読み出しスピードや小型・薄型化という利点を考えると、現状のコストアップは我慢できるという段階にきており、これが本格普及を加速させている。それと、3D-NANDの本格量産により低コスト化への道筋が見えてきた。大容量化が可能な多値化技術(3ビット・セル)とメモリーセルの多層化により、チップ面積あたりのメモリー容量を稼げるようになり、ビットコストの低減が可能になったのだ。これで、SSDがまずHDDの市場を侵食しているのだ。3Dの先行メーカーであるサムスン電子など各社は64層クラスの量産立ち上げを急ぐが、東芝・WD陣営も、この64層で一気に巻き返しを図るという段階にある。東芝は48層までは圧倒的にリードを許していたが、この64層でどこまで差を詰められるか、今が勝負時だ。

各社がDC向けのストレージ戦略を重要視するのは、ビッグデータ処理などのため巨大なメモリー需要が創出されるとみているからだ。特にコアビジネスとして注目されているDC用のデバイスのなかでも、NANDは年平均11%ずつ成長して、16年の68億ドルから、20年には104億ドルまで一気に拡大する(WDの16年投資家向けセミナー資料より)。さらに付加価値があるDC向けソリューションでは、16年の42億ドルから、20年には227億ドルへと、年平均53%もの驚異的成長を見込む(同)。なかでも、NANDを軸にしたソリューション展開が加速するとみており、従来のHDDストレージメーカーが半導体事業に注力するゆえんである。

SCMも登場へ

そして早晩、DRAMの微細化限界も見えてくる。次は、DRAM市場を代替することも視野に入ってくるという。NANDよりも高速で、大容量化が可能な新たなメモリーが求められるという。これが前述のSCMと呼ばれる次世代メモリーだ。現在、インテルとマイクロンが手がける3Dクロス(X)ポイントメモリーと呼ばれる製品だ。さらにSCMの候補として、抵抗変化型メモリー(ReRAM)や磁気抵抗メモリー(MRAM)などの名前も挙がる。いずれも量産化のめどは立っていないが、東芝・WDは前者のReRAMの共同開発を行っている。

WDとの同盟を維持、インテル・マイクロン合流へ

WDは、エンタープライズ向けSSDからコンシューマー向けのSDカードなどのNAND事業(旧サンディスク)のほか、大容量HDDをはじめ、長期間のデータ保存が必須のデータを格納する信頼性の高いコールドストレージなど幅広いラインアップを擁している。

そこで南川氏によれば、こうした将来の技術・市場動向を踏まえ、東芝メモリの行方をしっかり定める必要があるという。まず基本形として、WDとの協業を堅持し、従来どおりの枠組みでNAND事業を拡大していくことが重要になる。そこにインテルとマイクロン連合を参画させて、次世代メモリーへの布石を打つことが大事というのだ。NANDで低シェアにあえぐインテル・マイクロン連合にとっても悪い話ではなさそうだ。独占禁止法の問題が残るものの、東芝・WDとの提携でシェア拡大を図る選択肢は十分あり得る。逆にインテル・マイクロン連合にとっては、次世代の3D Xポイントメモリーに開発リソースをつぎ込める利点が出てくる。

17年間ものNAND事業におけるWDとの共同運営は典型的な成功事例といえる。旧サンディスクの時代からみて、総額130億ドル強の大きな投資を三重県四日市市にある四日市工場で実施している。この実績について、東芝といえども無視はできないだろう。

日本政府の役割

そして、最後に重要な問題が残る。資金だ。東芝の巨額損失の穴埋めを一体どこがするのか。ここはやはり、政府の出番であろう。産業革新機構ならびに政策投資銀行からの出資を仰ぐしかない。米大手投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の名前も出てきており、ファンド・金融系主導で出資するのであれば、ややこしい独禁法の問題もクリアできるであろう。

大きな成長市場が期待でき、IoT/AI時代にますます重要視されるストレージの技術をリードして、戦える集団の枠組みができるのなら、一時的な大金の投入について国民も納得するのではないだろうか。最後は、再上場という手段で血税を還付し、ファンドにとっても市場での売却益が転がり込んでくれば問題はないはずだ。

名門の東芝は「ストレージ・ソリューション」で復活できるか

もし、東芝のNAND技術や製造が国外に流出するとなると、日系の半導体製造装置や各種材料などの周辺産業への悪影響も大きい。雇用も失われる可能性が高い。NANDの東芝というブランドが無くなるだけでなく、日本から重要な半導体メモリーの人材がいなくなり、半導体周辺産業も衰退し、これからIoT時代で重要な役割を果たすに違いないストレージ技術の世界で、日本は主導権を取れなくなる。国の科学技術の低下にもつながりかねない由々しき問題だ。将来に大きな禍根を残すことになる。

東芝メモリの遺伝子を受け継いだ新会社は、「ストレージ・ソリューション」という新たな成長シナリオをしっかり描いて実現する企業になることを願っている。

電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

投信1編集部からのコメント

「東芝はメモリのソリューションを提供しなければならない、するべきだ」論は、実はメモリのコントローラー領域で競争優位を確立したいという意図で随分前から発言されていたものです。しかし、ここまで東芝はそうした競争優位やビジネスモデルを残念ながら確立できていません。この状態が技術によるものなのか、または経営によるものなのかは断言できかねるところです。

もし、ファンドから資金調達ができたとしたらこれが実現できるのか、また他の半導体メーカー(連合含む)が株主として参画した場合に実現できるのかも定かではありません。今後も資金の出し手が誰になるのかの議論は続くでしょうが、少なくとも出し手がいるという事実には心強いものがあります。ただ、肝心のビジネスモデルについて、どう舵を切れるかという議論が後回しになる方がより大きなリスクと言えるでしょう。

電子デバイス産業新聞×投信1編集部

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