皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで調査グループ長を務めます柏原延行です。

フランスの大統領選がほぼ予想通りの結果となり、「ルペン氏が大統領に選任される可能性がこれまでより低下した」と市場は評価したと思われ、 4月24日の週の日経平均は、 19,000円台を回復しました。

加えて、市場の将来に対する変動性予想(市場心理、不安の大きさ)を示すVIX指数も急低下し、市場はリスク・オン(リスク選好的な状況)に入ったようにも思われます(図表1)。

しかし、一方で北朝鮮問題については、今の所、なんら好転の兆しがみえない状況であると思われ、今回のコラムでは、北朝鮮問題が経済・投資環境に与える影響について、考えたいと思います。

図表1:VIX指数の推移
2017年1月3日~2017年4月27日:日次

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。
※VIX指数は米S&P500種株価指数を対象とするオプション価格などから算出。市場心理を表す。

北朝鮮情勢について、何人かの専門家の話をお伺いし、まだメディアなどの報道を考慮するに、米国は本土に届く核ミサイルの存在を許容しないでしょうし、また、北朝鮮の現政権も権力や兵器開発のカードを簡単に手放すとは思えません。とすれば、メインシナリオではないと思われるものの、北朝鮮問題が今より緊迫した場合の経済・投資環境に与える影響を事前に考えておくことは有益であると思います。

北朝鮮問題を考える上では、「①市場の変動性・先行きへの不透明感の上昇、②地政学リスクの高まりによる経済活動への影響、③北朝鮮の攻撃による近隣国の重大な人的・物的被害の発生、④現北朝鮮体制の崩壊(タイムラグあり)」との事態を考える必要があると思われます。

上記4つの「想定される事態」における「考え得る影響」を考察したものが、図表2です。

図表2:北朝鮮有事における想定される事態と考え得る影響

出所:アセットマネジメントOneが作成。

第一は、 北朝鮮問題がどのように進展するが不明なことによる「市場の変動性・不透明性の上昇(いわゆるリスク・オフ(リスク回避的な状況))」です。この場合、「(1)対外投資国の自国への資金回帰」や「(2)投資家のリスク量引き下げ」が起こることによって、円高が発生すると考えます。

日本は(基調として)経常収支黒字国、かつ対外純債権国であるため、海外に投資を行っています。リスク・オフ局面では本邦投資家はリスクを回避しようとして、海外への投資資金を日本に引き揚げようとするため、円買いが発生し、円高になると思われます。また、同様に本邦投資家がリスク量を引き下げようとする動きも円高を招くと考えます(リスク・オフ局面での安全資産としての円買いとの説明は、私にはいまひとつピンときません)。

第二は、「地政学リスクの高まりによる経済活動への影響」です。テロなどが懸念され、観光業が打撃を受ける一方で、軍事・防衛関連企業はメリットを受けると思われます。北朝鮮問題では、「原油価格高騰という経済に与える波及経路がない」ことは、これまで多くの有事が発生し、原油の輸出国が多い中東との比較で、異なる点です。

第三は、なんとか回避したいのですが、「北朝鮮の攻撃による近隣国(韓国、日本)の重大な人的・物的被害の発生」です。

日本に重大な被害があった場合は、「(1)生産力低下→成長率低下・輸出減少」や「(2)サプライチェーン分断→世界的な成長率低下」により、円安、株安が起こることに加え、(被害の程度にもよるのですが)サプライチェーン分断による世界的な成長率低下の可能性もあり、これは世界的な株安に繋がります。そして、事態が落ち着けば(タイムラグあり)、復興のために財政拡張が必要となり、金利上昇が起こると思われます。

第四は、「現北朝鮮体制の崩壊」です。この場合、「(1)難民の発生→近隣国の財政拡張・インフレ懸念」、(現体制崩壊後の北朝鮮の統治を巡り)「(2)米中対立の先鋭化」が発生する可能性があると考えます。

難民が押し寄せてきた場合、収容のための公的施設の開設や財やサービスへの需要が高まりから、日本などでも財政拡張、インフレ懸念の発生が予想できます。この場合は、長期金利が上昇するとともに政治的・社会的な不安定感の増加から、(金利が上昇しても)円安となることが予想できます。

加えて、「(2)米中対立の先鋭化」が起こった場合には、自由貿易の阻害による世界的な成長率低下が、世界的な株安をもたらす可能性があります。また、我が国は今以上に防衛力を高めるため、武器を購入するのでしょうから貿易収支が悪化し、円安要因になることが想定できます。

改めて、図表2をご覧いただくと、円安、円高が混在しており、北朝鮮問題の複雑さが分かる図表となっていると考えます。

冒頭のVIX指数からも分かる通り、現在の市場はリスクオン的な色彩が濃くなっており、北朝鮮問題の緊迫化を織り込んでいないように私には思えます。

事態が沈静化していくことを心から望んでいますが、有事が発生した場合に、事態の進展に合わせた影響予想として、皆さまのお役に立てば幸いです。

(2017年4月28日 9:00執筆)

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柏原 延行