昨今、世界中でテロの脅威が増す中、テロリストや犯罪組織に資金が流れないような対策を講じることは非常に重要なテーマの一つになっています。
しかし、この対策を強化するあまり、本当に資金を必要とする人々へのお金の流れが立ち切られてしまうことは避けなければなりません。今回は、マネーロンダリング対策とファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)の関係について考えてみようと思います。
1.ファイナンシャルインクルージョンについてのおさらい
ファイナンシャルインクルージョンとは、現在フォーマルな金融サービス(従来の銀行など)へのアクセスがない貧しい人々にもフォーマルな預金や保険、融資等の金融サービスを提供することによって、貧困からの脱却を後押ししようという動きです。
これは、G20でもメインテーマとして取り上げられる等、経済社会開発のための重要な手段と位置付けられています。
ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が少額の融資サービス(=マイクロクレジット)を貧困層に提供したことは有名ですが、少額の融資サービスだけでなく、少額の預金サービスや少額の保険サービス、少額の送金サービス等も貧困層に提供していこうというのがフィナンシャルインクルージョンの考え方です。
2.情報通信機器によって加速されるファイナンシャルインクルージョン
この動きは、近年の情報通信機器の発展に伴って加速されています。携帯電話やスマートフォンによる送金や融資、預金が可能になって、銀行の支店やATMのない遠隔地に住む人々が金融サービスを利用できるようになったり、取引コストが下がったことによって貧困層が少額の取引を携帯電話やスマートフォンを通じて行えるようになったのです。
このような情報通信機器を使った金融サービスをデジタルファイナンスと呼びます。
3.ファイナンシャルインクルージョンはマネーロンダリング対策にも有効
さて、上記の様にデジタルファイナンスはファイナンシャルインクルージョンを加速させるものではありますが、これは今までインフォーマルに行われていた金融サービス(親戚や友人の貸し借り、高利貸しなど)がフォーマルなものになることを意味します。
取引がデジタルに記録されることによってモニタリング、トラッキングが可能になり、当局の規制下に置かれることになるからです。これは、マネーロンダリング対策に有効です。より多くの金融取引が当局の規制下に置かれることによって、テロリストや犯罪組織によるマネーロンダリングが難しくなるからです。
このように、ファイナンシャルインクルージョンはマネーロンダリング対策に功を奏するものと考えられてきましたが、近年、マネーロンダリング対策を強化するあまり、かえってファイナンシャルインクルージョンが阻害されるという事態が発生しています。
マネーロンダリング対策を強化した国際的な大手銀行が途上国、新興国から撤退し、国際送金のネットワークから途上国が除外されてしまっているのです。次回の記事では、この現象の原因と対策についてもう少し詳しく考察してみようと思います。
以上、投資型クラウドファンディングを通じて世界のお金の流れを変えるクラウドクレジットでした。
参考文献:
- Amoore, L., & Goede, M. (2005). Governance, risk and dataveillance in the war on terror. Crime, law and social change, 43(2), 149-173.
- CGAP (2015), AML/CFT Regulation
- Levi, M., & CGD Working Group. (2015). Unintended consequences of anti-money laundering policies for poor countries.
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