- 全国人民代表大会は2022年の政策計画を策定した。経済目標も同じく設定されている。
- 中国は、新型コロナウイルス向けの新たなワクチンや治療法の開発を促しながらも、当面は現在のコロナ対策を継続すると見られる。
- 厳しいマクロ経済環境を乗り切るため、政府は財政・金融面から景気を下支えすると思われる。
- 経済成長、テクノロジー、市場改革、ソーシャル・ウェルビーイング、環境は2022年の重要な政策分野である。
3月初めに全国人民代表大会の年次総会が開催され、国家の現状を把握し今後の行動方針が決定された。
李克強首相は毎年恒例の「政府活動報告」の発表にて、2021年の政府の成果を再確認しただけでなく、今後1年間に達成すべき具体的な経済目標も示した。
2021年の振り返り
首相から概説された2021年の政府の主要成果の幾つかを、本レポートにて言及することは価値があると思われる。
例えば、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が収束しないなか、中国経済を下支えするため、昨年は1兆元(20兆円)を超える税率・手数料の引き下げが実施された。
この措置に加えて、他の支援策も講じられた結果、可処分所得は一人当たりで実質8.1パーセント増加している。
政府はまた、自国版の「独占禁止」措置を課すことで成果を上げている。政府独自の言い方ではあるが、「無秩序な資本の拡大を阻止し」公正な市場競争を守ったことになる。
その努力は、昨年ハイテク企業に課した規制強化に最も顕著に表れている。
もう1つの重要な成果は、40年にわたる人口抑制政策を転換し「3人っ子政策」を導入したことである。同時に、首相は今後マクロ面での課題に直面することにも言及した。
彼の言葉を借りれば、中国は「需要の縮小、供給の混乱、期待の弱まりという3つの圧力にさらされている」。
また、中国の景気回復の原動力となった最近の2桁の輸出増加(図表1)は、前年の水準が低かったことによるものである。今後こうした効果がなくなることから、輸出の大幅な伸びを維持することは困難と予測される。
2022年の政策課題
「新型コロナウイルスとの共存」アプローチを採用している多くの国とは異なり、中国はこの極めて感染力の強い伝染病の克服に向けて正面から取り組んでいる。
政府は引き続き「新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた効力のあるコントロール」をおこなう見通しであり、新たなワクチンや治療法の開発を促している。
今後も国民の生活や仕事への支障を最小限に抑えるため、局地的に発生する症例を、引き続き的を絞った方法で抑制していくと予想される。
現在のマクロ経済の実態を踏まえ、政府は成長率目標を昨年の6パーセントから本年は5.5パーセント以上に引き下げている。
その他の主要なマクロ指標は、経済発展にマイナスの影響を与えないよう、妥当な水準に維持されている:インフレ率の目標は3パーセント程度、都市部調査失業率の目標は約5.5パーセントに設定された。
2022年の政策課題の多くは、大きく次の5つのカテゴリーに分類される:①成長と雇用、②市場改革、③テクノロジー、④ソーシャル・ウェルビーイング、⑤環境。
成長と雇用
景気刺激策として、中央政府の支出は2022年に3.9パーセント増加すると予想され、また資金難の地方政府への移転支出は18パーセント、約1兆5千億元(約29兆円)増加すると思われる。
インフラを中心とした投資を促進するため、地方政府による特別目的債の発行枠は本年も3兆6500億元(約72兆円)に据え置かれる。
減税と還付金は合計2.5兆元(約49兆円)で、特に「製造業、零細・小規模企業、自営業者」の支援に重点が置かれる。
また、政府は人員削減を最小限に抑えた企業に対し、失業保険料の払い戻しをおこない、雇用を維持するインセンティブを与えることにしている。
一方、金融政策は「重点分野と資金アクセスが困難な企業」に資金を振り向けるよう、的を絞って実施される。
市場改革
中国政府は経済における市場の役割を最小限に抑えることを目指している、という憶測が一部にある。
しかし、実際、政府は生産要素の配分は市場を通じておこなわれるべきとの考えから、市場はより大きな役割を果たすため、改革が継続されるとしている。
公正な競争を確保するため、独占的な勢力は規制当局から「より強い措置」を受けることになる。さらに、財産権や起業家の権利・利益は保護されるだろう。
政府は高付加価値を創出する製造業や研究開発など、戦略的に重要な分野に対する海外からの投資を促進するための措置を講じる予定だ。
テクノロジー
政府は引き続き、技術革新を国家の重要な目標と位置づけている。基礎科学研究を支援するため、10年間の行動計画が策定される予定である。
研究開発を促進するため、税額控除や知的財産権の強化などのインセンティブ措置を導入する予定となっている。また、半導体や人工知能など、主要なソフトウェアやハードウェアの生産能力の向上に重点が置かれている。
さらに、中国の製造業を「汎用品から高付加価値製品」の生産に移行する政策が策定される。デジタル経済は消費を後押しする手段として取り入れられるだろう。
ソーシャル・ウェルビーイング
「共同富裕」というテーマは、首相の年次政府活動報告の全体に貫かれている。農村部や都市部の非就労者を貧困から救うため、公的医療サービス、教育、年金給付などの社会的セーフティネットが拡充される。
また、住宅は居住の場であり、投機の対象ではないという考え方を改めて確認し、引き続き補助金付き住宅の建設を推進。住宅価格の安定を図っていく。
さらに、3人っ子政策に基づき、家族形成を促進するため育児費用の負担が軽減される。
環境
大気汚染をさらに抑制するための措置が講じられる。リサイクルなど環境を保護する産業への支援策が打ち出される。生物多様性の保護も大きな目標であるため、既存の国立公園の枠組みの中で自然保護の範囲が拡大される。
最後に、2030年までに炭素排出量のピークを迎え、2060年までにネットゼロを達成するため、石炭の使用を減らし代替エネルギーに置き換える必要がある。
また、石炭火力発電所においても二酸化炭素の排出を削減するため、改修工事が実施される予定である。