過去20年ほど新興アジア諸国で仕事をしてきましたが、アジア経済は現地通貨が目減りしてきた歴史でした。私自身、タイやインドネシア等に出張してアジア通貨危機(1997年)を体験しましたので、現地通貨が暴落した時の庶民の苦渋は鮮明に覚えています。

私が駐在したベトナムでは(1996年〜1998年)、過去にインフレ抑制のためデノミ(通貨単位の変更)を実施してきた経緯があり、当時、国民は現地通貨のドンを信じておらず、米ドルのタンス預金が一般的でした。だからこそ、今でも新興アジア諸国では富裕層も庶民も母国の通貨安リスクに敏感にならせざるを得ないのだと思います。

一方、日本では長期トレンドとしては円高に向かってきました。1971年〜1985年、固定1ドル=360円から変動相場制下の円高(〜260円)、そして、1985年9月のプラザ合意で円高に拍車がかかり、ドル安に歯止めをかけようとしたルーブル合意も振り切って120円まで急騰しました。そして、2011年10月31日早朝に一時1ドル=75円32銭の戦後最高値を更新しました。

母国の通貨安リスクに備える

しかし、現在、アベノミクス効果で1ドル114円付近です。海外で円建て所得で暮らす日本人は最近の円安のおかげで貧乏になってきました。

一部の大企業等の海外駐在員は為替変動やインフレに対応した給与調整システムがあるので良いのですが、そうした給与システムのない多くの日本企業の海外駐在員とその家族は困っているのではないでしょうか。また、日本の年金を頼りにタイ、マレーシア等にリタイア移住したシニア世代も以前よりは生活の余裕がなくなってきているはずです。

もちろん、先行きの為替相場は予想できません。もし円高になれば円建て所得がある海外在住日本人にとってはプラスになり、そうなってもらえば助かります。しかし、もし円安に振れれば現地通貨の支払いが発生する海外では生活が苦しくなります。そうなれば外貨を稼げる力が鍵となってきますが、それは簡単なことではありません。

そう考えると、円建て所得で暮らす海外在住日本人の緊急時対応計画としては、悪いシナリオ、つまり、一定の円安を想定して保険をかけるようなつもりで円資産を一部外貨にシフトさせて備えておくべきでしょう。

なお、日本にいれば安心というわけではありません。将来、万が一急激な円安に振れる時期が一時的にでも到来すれば、それに伴い日本国内では輸入インフレ等が心配されますので、リスクヘッジの観点から金融資産の一部を外貨建てにしておくということは一考に値するかと思います。

個人的には、今は米ドル外貨預金や米ドル建てMMFといった商品が魅力的に見えますが、いずれにしても今後、金融資産のポートフォリオを見直す際には通貨リスク分散の観点を少し強く意識してみてはいかがでしょうか。

大場 由幸