2022年2月26日にログミーFinance主催で行われた、第32回 個人投資家向けIRセミナー Zoom ウェビナー 第2部・株式会社アバントの講演の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:株式会社アバント コーポレートコミュニケーション室 室長 西村賢治 氏
元ファンドマネージャー/元ディーラー 坂本慎太郎(Bコミ) 氏
フリーアナウンサー 八木ひとみ 氏

アバントグループについて

西村賢治氏(以下、西村):アバントグループについてご説明します。アバントは持株会社で、子会社の管理を行っている企業です。

傘下には、ディーバ、インターネットディスクロージャー、ジール、フィエルテという4つの企業があります。それらが、グループ・ガバナンス事業、デジタルトランスフォーメーション推進事業、アウトソーシング事業の3つのセグメントに分かれて事業を展開しています。

売上構成は、グループ・ガバナンス事業が半分ほどで、デジタルトランスフォーメーション推進事業がほぼ40パーセント、アウトソーシング事業が15パーセントです。2021年6月期の営業利益率は10数パーセントから20パーセントを超えるところまであり、連結では17パーセントです。

アバントグループの三つの事業セグメント

3つのセグメントでは、デジタル化された経営情報の「使える化」・「見える化」・「任せる化」を行っています。グループ・ガバナンス事業は、データを集めて使える情報にします。会社の中には財務データだけでなく、販売データや製造データ、非財務データ、環境関連データなどいろいろな情報があります。それらを効率的に使って経営につなげていくために財務情報を整理して決算書にするなどのシステムを作っています。

デジタルトランスフォーメーション推進事業は、集めたデータをグラフやチャートなどに加工して、ひと目でわかるようにするシステムインテグレーションで作っています。

アウトソーシング事業は代行サービスを提供します。経営陣が経営判断を行う材料とするために、決算期に決算を締めて決算書を作る作業を任せていただきます。

(1)グループ・ガバナンス事業:連結会計ソフト開発

具体的に事業展開をご説明します。グループ・ガバナンス事業は、もともと連結会計ソフトの開発・販売からスタートしました。連結会計ソフトと言うと、投資家の方から「他の会計ソフトとどういう違いがあるのですか?」「インターネットベースの無料の会計ソフトなどが出ていますが、競合にならないのですか?」というご質問が挙がります。しかし我々の連結会計ソフトは単体の会計ソフトとは違います。

決算をする時は、売上と費用を比べて利益を計算する他にも、固定資産の評価や債務関係の整理、税金の計算などを行います。会社が大きくなると、傘下にいろいろな会社が入り、それぞれの会社の財務を合わせるため、グループとしてどうなのかが連結決算になります。我々はそこを行っており、単体決算の会計ソフトと連結決算の会計ソフトは少し違っています。

(1)グループ・ガバナンス事業:連結決算とは?

連結決算は何をしているのかをご説明します。例えば、Aホールディングスという会社の傘下に3つの子会社があるとします。A社が製造、B社が卸売、C社が店舗の展開をしており、それぞれ売上高が100億円、100億円、50億円です。「グループとして、Aホールディングスの売上はいくらですか?」と言った時に、売上は250億円ではありません。実際には、A社がものを作ってB社に売り、B社は卸売としてC社に売るため、売上はグループ内の取引を除く必要があります。

A社はグループ外からの売上60億円、B社はグループ外からの売上60億円、C社は実際にお客さまに売っている50億円を合計した170億円が実際の売上になります。利益も当然そのやり取りがある上に「A社は、C社の75パーセントしか持っていません」とすると、あと25パーセント分の利益はこの会社に帰属しないため、そこを除く必要があります。このような調整が連結決算の流れになります。

(1)グループ・ガバナンス事業:開示制度の強化を背景に成長

2000年に日本で会計ビッグバンという会計制度の国際化が行われ、それ以降、四半期開示義務化やJ-SOX、コーポレートガバナンス・コードと開示がどんどん強化される中で、我々は実績を積み上げ、現在は1,100社を超えるお客さまがいます。

(1)グループ・ガバナンス事業:お客様との強固な関係

お客さまの中には、トヨタ自動車をはじめ、有名な上場企業がかなり挙げられます。上場企業の半分ほどが我々のお客さまであり、未上場の大企業で連結納税をしている会社もあるため、我々の市場シェアは約43パーセントという状況です。

坂本慎太郎(Bコミ)氏(以下、坂本):御社の連結会計システムは、トップ100社中、半数以上の企業が採用していますが、どのような強みがありますか? また、普通の会計ソフトの会社は無料でいろいろあると伺いましたが、連結会計の同業の会社にはどのようなところがありますか? 他社とのシステムの違い、特色なども教えてください。

西村:我々はソフトの開発・販売の他に導入も行っています。通常、ソフトウェアというのは、ソフトを販売する会社、お客さまに導入する会社、お客さまの3者で運用していますが、我々は開発・販売・導入、その後のカスタマイズまですべて自社で提供しています。導入後に「ここがちょっとおかしいから直してほしい」「連結構造が変わってきたのでここを変えたい」といった要望に応え、サポートできるところが強みだと思います。

他社で同じことを行っている企業は、電通国際情報サービスがあり、我々と電通国際情報サービスで2強になっています。

(1)グループ・ガバナンス事業:開示からガバナンスへ

いろいろ会社の中の情報を吸い上げ、連結決算書にまとめていく一連の作業の中で、子会社の情報を整理しており、財務情報を見て「この在庫は今回はどうしてこんなに多いんだろう?」「どうしてこんなに売掛金が増えているんだろう?」という時は、そこをクリックすると子会社の情報が出て「ここが増えているんだ」「ここで支払いが滞っているかもしれない」という情報まで見える、ガバナンスを行えるシステムを作っています。

最近では、管理会計やリソース配賦、事業ポートフォリオ管理などが出て、連結での情報収集の流れを使い「価格が変わった時に、連結ベースで利益はどのように変わるだろう?」「販売量が変わった時に、連結ベースでどのように利益が変わるだろう?」というシミュレーションができます。

また、上場企業の財務情報をデータベース化しているため「うちの会社のこのセグメントの利益率あるいはROEは業界と比べてどうなんだろう?」といった計算や「この事業を続けていくのと、他の事業を展開するのではどちらがよいのか?」といった判断ができます。このような経営判断の材料を提供する製品をどんどん開発しています。

八木ひとみ氏(以下、八木):投資家の方も欲しくなりそうなツールですね。

坂本:会社の規模や利用者数によって変わると思いますが、フルパッケージで導入すると、どのくらいの価格になりますか?

西村:規模によって違いますが、平均すると、導入時のライセンス利用が数千万円、「A社の売上とB社の売上が全部まとまり、この売上になります」という会計項目のマッピング作業が数百万円から数億円になるため、それなりの導入コストになります。

(1)グループ・ガバナンス事業:市場規模

連結決算と単体の会計ソフトをお客さま数で比べると、単体の会計ソフトは数百万社の企業が使っておりマーケットは相当大きく、連結決算の会計ソフトは数千社ほどのお客さまを相手にしており、マーケットの規模は200億円ほどです。

会社が生き残るために業界再編が起きたり、海外事業に投資したりと、組織が複雑になっていることを反映し、連結会計のマーケットは年6パーセントくらいで成長しています。

今後は、管理会計のような基本情報をさらに整理し、経営判断につなげる情報環境の提供を開拓していこうと考えています。現状は200億円くらいの市場ですが、前年比で30パーセントほど伸びているため、しっかりと掴んでいけばガバナンスビジネスもかなり成長すると考えています。

坂本:近年、営業利益が高まっている理由はクラウドの部分ですか? そのあたりも含めて、理由を教えてください。

西村:ここ数年は、コロナ禍で売上が伸び悩むことを想定し、若干コストを抑えていました。直近の2年くらいで在宅勤務が中心となり、交通費やオフィスのスペースが減りました。また、連結システムを導入する時にシステムインテグレーションの作業があり、そこがコスト先行になることが多かったため、受注の時に、品質管理・コスト管理をしっかり行いました。後から損失が出ないかたちで契約を結ぶ流れを強化した結果、利益率が徐々に改善しました。

(2)デジタルトランスフォーメーション推進事業

西村:デジタルトランスフォーメーション推進事業は、自社で製品を持っておらず、主にマイクロソフト、オラクル、IBM、SAPといった主要なソフトウェアベンダーの製品を、お客さまのニーズに合わせてカスタマイズし、導入する作業をしています。

お客さまに頼まれたことは何でも行う、SIerと言われている会社ですが、ジールはその中でもビジネス・インテリジェンスの分野のシステムに特化しています。

(2)デジタルトランスフォーメーション推進事業:BIとは

ビジネス・インテリジェンスとは、データを可視化し、きちんと整理することです。会社には必ずデータベースがあり、いろいろなデータが保存されていますが、ただ保存されているだけで、そのままでは使えない情報になっています。

このデータをETL/DWHと呼ばれる一時保存する容器に持ってきて、加工してつなげます。例えば、曜日別や天候別の販売、製品の分刻みの売上の情報に加工し、それを「BIツール」を使ってきれいなグラフやチャートに直します。そのため、営業の現場や製造現場で何が起きているかをひと目で判断できるようになります。

最近は、この一連の作業を「ビジネス・インテリジェンス」と呼んでおり、AIを組み合わせることで、今起きていることや将来何が起こるかを予測できます。「ビッグデータの解析」と言われることもあり、ジールはデジタルトランスフォーメーション推進事業の中心としてそのようなことを行っています。

(2)デジタルトランスフォーメーション推進事業:市場規模

マーケットとしては、先ほどの連結会計ソフトに比べるとかなり大きなものです。ここには一般的なSIerも多数おり、競争も激しいところではありますが、我々はこのビジネスインテリジェンスに特化し、高い成長を呼び込もうと考えています。

坂本:他社に比べると、御社のビジネスはすべて収益性が高いのですが、このデジタルトランスフォーメーションが、御社の中では若干低い状況です。これをほかの事業並みに引き上げることは可能なのでしょうか?

西村:汎用ソフト、汎用システムを導入しているのではなく、お客さまの競争の根幹にかかわるようなところを作っているため、SIerとしては利益率は高いと思います。

坂本:10パーセントにのると、かなり高いと言えると思います。

西村:ただし、人中心のビジネスになるため、我々が展開しているソフトウエアを中心とした他のビジネスに比べると、少し落ちる部分はあります。

坂本:事業規模、マーケットが大きい分、売上を伸ばして、結果利益が伸びる可能性は秘めているセグメントであるということですね。

八木 :人財育成も手掛けていらっしゃるのですね。

西村:もともと小さな会社ですので、「どのように人を増やしていくか」「未経験者も含め、短期間でどのようにエンジニアに育て上げていくか」ということを一生懸命考えた結果、社内ではとても充実した研修プログラムができました。

せっかくここまでできたのであれば、外販してもよいのではないかということで、今はeラーニングシステムにして販売しています。

最近は、企業でも社内にエンジニアのチームを作り、「自らシステムを作っていこう」「SIerに頼ることなく自分たちで作らないと、独自の競争力を作っていけない」というところまできているため、エンジニアのニーズは本当に強いのです。

そのため、そのような事業会社からも引き合いがくるなど、1つの成長分野になるのではないかと考えています。

ここは成長性は出していないのですが、市場規模も大きく、おそらく20パーセントから30パーセントくらいはニーズが伸びていくと予想しているため、高成長の分野だと考えていただければと思います。

(3)アウトソーシング事業

最後がアウトソーシング事業です。こちらはグループガバナンス事業の1つの部門として、ソフトの導入後、ソフトの運用も行っていたのですが、お客さまも増えてきたため、独立採算をとっていこうと2017年に子会社として設立したものです。

主に「DivaSystem」という連結決算ソフトの運用をしており、お客さまから預かったデータを「DivaSystem」に投入し、財務諸表を作り、決算短信や有価証券報告書に流し込んだものを監督官庁などに提出する、という一連の業務を受託している会社です。

いろいろな経理業務をアウトソーシングで受託している会社も出てきていますが、当社はそれより先の決算を締める作業や決算書作成などをお手伝いしているため、ほかに競争相手がいません。

坂本:おもしろいビジネスですね。おそらく自社システムがあるからこそできるのだと思います。客先に常駐されるのですか? それともデータをWebなどで送ってもらい、御社で作るのでしょうか?

西村:スタッフを置くケースもありますが、基本はお客さまからデータを出していただき、それをセキュアサーバーの中で処理しています。

坂本:これは一貫して受託されているのですか? それとも「連結のここだけ手伝ってほしい」という場合もあるのでしょうか?

西村:「単体のところもやってほしい」など、さまざまなケースがありますが、我々は単体の決算ソフトときちんとつながるように作っていますので対応できています。

坂本:そちらを利用されている方もいらっしゃるということですね。

西村:「ここから全部やってほしい」「連結のこの部分だけやってほしい」など、いろいろなケースがあります。

坂本:このシステムは、御社のシステムがクライアントに入っていることが前提で受けるかたちなのでしょうか?

西村:そうでもなく、実は競合企業、日系・外資系企業なども支援しています。

八木:かなり多種多様な業種だと思うのですが、業種によっても決算の仕方は違いますよね?

坂本:会社の癖や、仕分け方法が伝統的に違うなどありそうですね。そのあたりには対応されるのでしょうか?

西村:そこがなかなか自動化できない部分です。

坂本:そうですよね。日系企業などは仕分けが相当マニアックなイメージです。

西村:会社が違えば整理の仕方も違うため、そのようなところは見させていただきますが、決算の作業というのは、会社ごとには違っても、それぞれ定型の流れがあります。今、そこをプログラムに組み込み、自動化していく作業に取り組もうとしています。

今のままですと、お客さまが増えるにしたがって、当社の従業員も増やさなければいけない状況なのですが、自動化プログラムを入れることにより、もう少し効率化できると考えています。

(3)アウトソーシング事業:幅広いサービスを提供

連結決算だけではなく、税金の計算や、子会社にどれだけ残高を残しておくかというような資金管理、特に海外企業の子会社との資金のやり取り、スケジュール作成などのサービスも提供しています。

坂本:一部分をアウトソーシングすることもあるということですね。

八木:最近は企業が開示しなければならない情報がますます増えているため、ニーズはかなり高そうですね。

西村:おっしゃるとおりです。さらに今はコロナ禍で、人が会社に出てオペレーションすることが難しくなってくると、その人でなければできない仕事、いわゆる属人化がリスクになっていきます。

そのため、我々に任せていただき、すべてプロセス化することにより、誰かが出社できない時に決算が締められないというリスクを抑えることができます。

これまでは、みなさまが1週間や2週間残業して決算を締め、決算書を作って終了というケースが多かったのですが、我々に任せていただくことで作業負担が減り、決算書の作成で仕事が終わるのではなく、むしろ決算書を見て「うちの会社はこのようなところに問題がある」と、より高度な業務ができるようになります。

働き方改革や効率化にもつながっていると好評をいただき、お客さまがどんどん増えている状況です。

(3)アウトソーシング事業:市場規模

連結決算としては360億円くらいで、その他単体決算や、その開示も含めていくと数百億円後半になってきています。ここでは伸び率の高さに注目していただきたいと思います。

過去5年間の平均では25パーセント成長しており、今でも見込みのお客さまが数十社あるため、このようなところにサービスを提供していくために従業員も増やしていますが、この25パーセント成長は今後も続けられるだろうと思っています。

坂本:時代は変わっていますね。基本的に、会計というものには秘匿性があり、インサイダーが絡んでくる部分であるために、社内の限られた人で頑張っていたと思います。

こちらを任せるとなると、大企業などはセキュリティやコンプライアンスが厳しいと思うのですが、そのあたりはどのように対応しているのでしょうか?

西村:当然そのようなデータが漏洩してしまってはいけないため、かなり高度なセキュリティで守るようにしています。当社はセキュリティ対策についてのコンサルティングも行っているのです。

坂本:そちらの方面でもプロなのですね。

西村:会計情報を外に出すことに抵抗感がある風潮はまだありますが、やはり足元では、コロナ禍で難しい事業環境の中、属人化リスクを抑えてどのように効率化するかを考えているお客さまは増えていると思います。

八木:アウトソーシング事業に関して、御社でさまざまな業務を行っている社員の方々は、基本的に会計士のような感じになるのですか? それともシステムを使える方になるのですか?

西村:大半は、システムを使う人間になります。お客さまのデータのどこに何があり、どこに投入すればよいかがわかればよいため、特に会計知識は必要ないのですが、実際にデータがアウトプットされた時に、例えば会計基準の変更があったとして、それがきちんと反映されて出てきているかなどをチェックする必要があります。

そのようなところは、やはりある程度の会計知識を持つ者がスーパーバイズするという事務編成で行っています。

アバントグループの10年

財務情報・中期経営計画についてお話しします。過去10年間の動きをまとめていますが、売上高が5.2倍、営業利益が20倍となっています。株価は去年から調整局面にもあるのですが、10年間で見ると40倍になっている状況です。

アバントグループのミッションと事業構成

3つのセグメントとしてご説明しましたが、これまでは、各社がそれぞれのお客さまに向かって製品・サービスを提供してきました。しかし、このコーポレートガバナンスコードが、会社に対し「データを使って、会社をより効率的に経営すべき」というプレッシャーになっている中、多くの会社が、どのように実現するか苦労されています。

当社は、その1つずつの要素は持っていましたが、今後はそれを組み合わせることで、みなさまの支援ができるのではないかと考えています。

デジタルトランスフォーメーションは単なるデジタル化ではなく、デジタル化されたデータを使い経営判断することが本来の意味であるため、それに役立つような製品を各社が持ち出し、それらを組み合わせて提供していく体制を取っていきたいと考えています。

中期経営計画で目指すビジネスモデルの転換

成長性を高めるだけではなく、効率性も高めていきたいということで、我々は「ストック売上」と呼んでいますが、継続的にお客さまからいただける売上を伸ばしていきたいと考えています。

ソフトウエア導入時は、どうしてもワンタイムのシステムインテグレーションの売上が立ってしまい、それが利益を変動させることになるため、それをなるべくソフトウエアに組み込み、ソフトウエアでカスタマイズできるようにして、現状は3割くらいのストック売上を、7割くらいまでもっていきたいと考えています。

こちらはSaaSモデルと比較されることが多いです。これまではレガシーの製品があり、これからSaaSになり、利用者も増え、その先には利益もどんどん増えるという「SaaS変換モデル」がありますが、我々はそれとは少し違うということを理解していただきたいです。

当社は1,000社を超えるお客さまがおり、すでに連結会計システムで利益を出しているのですが、それらがすべてSaaSに変わっていくということではないと思っています。例えば、子会社が数百社あるような大企業のシステムをSaaSで行うのは、やはり現実的ではないです。

坂本:カスタマイズが必要になってきますので、それを全社対応させるためにもともとのクラウド用のシステムを作ると大変な量になってしまうため、非効率的であるということですよね。

西村:結局はソフトウエアとBPOのような保守の組み合わせで行うしかないと思っています。その中で、ストック売上として上ってくるものというのは、連結会計システムから、さらに管理会計やポートフォリオ分析などですね。そのようなものをSaaSで提供することで、既存のお客さまの1社あたりの売上を伸ばしつつ、ストック売上比率も上げていくことができるのではないかと考えています。

坂本:もともとパッケージに入れられているものは、基本的にそのビジネスは継続ということでしょうか?

西村:おっしゃるとおり、緩やかにSaaSに移行していくというかたちです。「今期からすべてSaaSで製品を提供します」というモデルではないということを、注意していただければと思います。

坂本:パッケージをいきなりSaaSに変えると、利益は伸びるけれど売上は落ちるパターンになると思われますが、中計の予想ではそのようになりますか?

西村:おっしゃるとおりです。緩やかにシフトしていくと考えていただければと思っています。

中期経営計画「BE GLOBAL 2023」

中期経営計画「BE GLOBAL 2023」という5年の中期経営計画を走らせており、ちょうど4年目の半分が終わったところです。最終年度の目標としては、売上高が180億円から220億円、営業利益が31億円から38億円というレンジでお示ししており、今期については、その下限のレンジに近づいてきているという状況です。

そのほかに目標としているのが、ストック売上比率70パーセントと、売上成長率と営業利益率の合計を40ポイント以上にすることです。要するに、利益を犠牲にしてまで売上成長するということではなく、利益を確保しながら成長していくというバランスを考えています。それを40ポイント以上にしようと考え、目標にしているのですが、こちらは比較的ハードルが高いです。

坂本:2つになっても売上で20パーセントずつ伸ばしていかないといけないため、これは相当の成長企業ですよね。

西村:こちらは目標ということで、あと1年半ありますので努力はしますが、達成できない可能性もあると思っています。ただし、売上、営業利益、配当が達成できないわけではないと思っています。

あくまでもストック売上と売上成長、営業利益というのは、ビジネスの方法を変えていくことにより会社の評価を変えていこうということで、2023年目標ではそれにより、財務が影響を受けることはないと思っています。

坂本:売上成長率と営業利益率を40ポイントとすると、売上だけを伸ばそうとするならM&Aの選択もあると思うのですが、いかがでしょうか? 目標の中に入っているのでしょうか?

西村:スライドにも説明が入っていますが、やはり成長加速のためにはSaaS製品を取りそろえていかなければいけません。時間をかけて自社で開発するのか、時間を節約してM&Aで調達するのかという選択肢はあると思っていますので、M&Aの可能性もあると思います。

22年6月期業績見通し

今期の見通しです。中計にも記載しているとおり、売上高178.2億円、営業利益28.6億円、当期利益19.0億円ということをガイダンスとして出しています。今年度から新収益認識基準が適用されており、例えば代理人取引や進捗基準での売上の計上の仕方が変わっているため前期比が出せないのですが、額としては7期連続の増収・増益を予想しています。

22年6月期第2四半期決算概況

1月末に今期の第2四半期の決算が出ていますが、スライドのような状況になっています。会計基準が変わっているため、直接比較できませんが、赤枠で囲っているところの右側に、会計基準が変更されなければどのようになっていたかを記載しています。その比較で見ると、売上が14.3パーセント増、営業利益が4.6パーセント増となっており、増収・増益は確保しています。第1四半期の売上の伸びは若干鈍化しており、その結果、第1四半期は減益になっています。

スライド21ページで売上と利益の動きを見ると、2021年から2022年度で、売上の伸びに対して営業利益の伸びは若干落ちています。

何が起こっているかというと、今期については製品を売るために新しい製品を開発したり、あるいは経営者の方にコンサルティング営業をして製品を販売したりという、その人員強化を行おうとしており、そのために若干人件費がかさむと思っています。その部分については先行投資だと思っていますので、その分、営業利益率が若干下がるというのが当初の計画になっていました。

人件費は年初から増えているのに対して、売上が若干落ちています。固定費が高いため、利益も大きく落ちるということになってしまうわけです。

第1四半期はそのような状況が少し発生したのですが、第2四半期に入って売上も利益も回復して、ほぼ想定内できており、今は営業利益率も微減にとどまっている状況です。進捗率もほぼ半分になっているため、今期見通しについては据え置きということでみなさまにお話をしています。

株主還元について

株主還元についてですが、弊社はDOEという純資産配当率です。一般的には利益に対しての配当という配当性向を目標にされる企業が多いと思いますが、利益がブレることがありますので、例えば減益になったときに配当性向をどうするのかという議論がどうしても出てきてしまいます。

そのため、純資産を基準に配当するということにすれば、利益が大きく変動する中でも安定的に配当を伸ばすことができるということで、配当の安定成長性を実現するために純資産配当率を目標に配当を考えています。

足元では約5.2パーセントということで、東証の平均である2.7パーセントと比べるとかなり高くなっていますが、長期的には東証上場企業の上位10パーセントの会社が8パーセントで配当しているため、そこを目指していきたいです。

坂本:配当を支払う原資は純資産のようなものですよね。最近は海運株などで、今年かなり儲かった企業が来年しか払えないという状況もあり、僕はそのようなかたちも普通だとは思います。確かにこのような考え方は、安定性と会社が伸びた場合の増配の可能性がありますね。

西村:そうですね。利益が出る限りは純資産は増えていきます。

2030年までに温室効果ガス排出量50%減を目指します

最近、環境などESGが話題になっています。当社はソフトウエア製造企業のため、直接的に排出しているということではなく、むしろオフィスを使うことで電力を使い、間接的に排出しているという状況でした。規模もあまり大きくはないのですが、何もしなくてよいということではないと思っています。

今、温暖化を抑えるために、すべての企業が何かしらアクションをしなければいけない時代に入ってきています。「Scope2」と言われている電力やガスの使用に伴う温室効果ガスの排出については、「Green Power」というロゴを記載していますが、グリーン電力認証を使い、排出量全量をオフセットして、全額再生エネルギー電力を使うというかたちにしています。

「Scope3」と言われている、製造過程や販売における上流から下流までで発生しているような温室効果ガス排出量ですね。例えば、従業員が通勤するときに電車を使っている、あるいは製品を買ったときにその製品の製造でかかる排出量など、そのようなものの計算をしています。その計算が終わったところで、今後はそれも含めて温室効果ガスの排出量を、2017年に比べて50パーセント削減を目指していこうと考えています。

アバントのガバナンス体制

ガバナンス体制についてです。特徴的なのは、社内取締役が2名で社外取締役が3名と、社外取締役が過半数を占めていることです。また、社外取締役のうち、2名が外国籍の方となっており、ガバナンスについてはかなり先進的な取り組みになっていると考えています。

質疑応答:会計ツールの社内共有システムについて

坂本:「会計ツールを見ると、経営判断の材料からさまざまなシミュレーションができると思います。これは会社の上層部や経営陣また経営企画部の方だけではなく、末端の従業員まで共有できるシステムになっているのでしょうか?」というご質問です。

西村:我々は「経営情報の大衆化」というミッションを持っています。壁の向こうや密室で話し合われており、何が起こっているかわからないという状況を壊していこうというものです。「情報を全員で共有して1つの方向に向かっていこう」という考え方から、このような情報環境を作っていきたいと考えています。

ただし、導入されているお客さまによって情報管理の仕方が違うと思いますので、状況に応じてということになります。弊社では「経営会議で何が行われているか」ということも含め、見えるような体制に近づけてきていると思います。

質疑応答:代表取締役社長の森川氏の経歴について

八木:代表取締役社長の森川氏はどのような経歴の方でしょうか? 会計士などの資格をお持ちで、そのような問題がいろいろあると思い、このようなシステムを作られたのでしょうか?

西村:もともとはコンサルティング会社で大手企業の海外上場をお手伝いしていました。当時はあまり大きなシステムがなかったため、プロジェクトとしてお手伝いしていた中で、会計ビッグバンで連結財務諸表の報告が義務化されることになったのです。「これは大きなビジネスチャンスになる」と自らシステムを作り、会社を作って販売しはじめたという経緯になります。

坂本:そのあたりのお話は昨年のセミナーの書き起こしをご覧いただくと、創業の思いやストーリーなどがわかります。ホームページには漫画を取り入れた統合報告書もありますので、ぜひご覧いただければと思います。

昨年のセミナーの書き起こし記事はこちらになります。

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