2022年2月19日にログミーFinance主催で行われた、第31回 個人投資家向けIRセミナー Zoom ウェビナー 第2部・高千穂交易株式会社の講演の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:高千穂交易株式会社 代表取締役社長 井出尊信 氏
元ファンドマネージャー/元ディーラー 坂本慎太郎(Bコミ) 氏
フリーアナウンサー 八木ひとみ 氏

目次

井出尊信氏(以下、井出):こんにちは。高千穂交易株式会社代表取締役社長の井出でございます。本日はよろしくお願いいたします。

本日のアジェンダですが、前半は会社概要と業績の状況について、後半では次期中期経営戦略、株主還元方針についてご説明します。

1-1. 会社概要 企業情報

井出:はじめに会社概要のご説明です。高千穂交易という社名の由来ですが、日本神話における天地創造の象徴・代名詞である「高千穂」から名付けました。高千穂は宮崎にありますが、パワースポットとして非常に有名な場所として知られています。

また、貿易を通じて、海外のモノだけでなく文化の交流にも貢献したいという思いで「交易」を合わせ、「高千穂交易」となっています。

設立は1952年で、来月には70周年を迎えることになります。本社のオフィスは、一昨年5月に新しく建設されたコモレ四ツ谷に移転しました。旧本社オフィスは四谷駅前の交差点近くにある白いビルですが、屋上の大きな看板がまだ残っていますので、見かけたことがあるという方もいらっしゃるのではないかと思います。

昨年度の連結売上高は205億円、連結従業員数は485名です。連結子会社数は国内1社、海外6社で合計7社となります。

1-2.事業の概要(エリア)

井出:海外拠点については上海、香港、タイ、シンガポールと、米国ではシカゴとシリコンバレーがあります。

1-3. 会社概要(企業理念)

井出:企業理念についてです。当社は設立以来、エレクトロニクスを核とした技術商社として「創造」を事業活動の原点に据え、世界の先端商品をいち早く日本市場にご紹介することを使命としてきました。企業理念はスライドに記載のとおりですが、経営者から社員までの共通認識として、日々の活動のベースとなっています。

1-4. 会社概要(主な沿革)

井出:沿革です。設立当初は、米国バロース社(現ユニシス社)の電子計算機を日本の総代理店として金融機関に販売していました。1970年に、現在も主力商品の1つとなっている商品監視システム、いわゆる万引き防止システムやスライドレールの販売を開始しました。翌年には半導体、自動封入封緘システムなどの販売もスタートしています。

2000年にはJASDAQに上場し、2004年に東証二部に上場し、2005年に東証一部に指定替えとなっています。2011年以降には日米上場企業のグループ会社を4社、M&Aにより取得しています。

2015年には海外展開の強化のもと、それまでアメリカの駐在員事務所のあった拠点を米国法人化し、現在は主にデバイス関連商品を販売しています。昨年10月には、米国のサンマテオにシリコンバレー・イノベーションセンターを開設しています。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):創業から70周年を迎えるということですが、創業時はどのような事業を行っていたのか教えてください。

井出:創業の地は大阪になります。当初は土木水道株式会社という名前で、土木建設機械の輸入販売を営む企業として創業しました。当時の戦後復興期の中で、特に米国の最新のインフラ設備であるコンクリートブレーカー、ショベル、掘削機、ドリル、ポンプなどの土木建設用機器を輸入し、日本で販売していました。

その後、最初にお話しした電子計算機の販売を行っています。当時から、社会貢献の意識を持って海外から最新の商品を輸入しており、そういったノウハウやDNAは、今でも受け継がれていると思っています。

1-5.会社概要(当社の特長)

井出:当社の特徴についてです。当社には、「安全・安心・快適」を共通項として5つの特徴があります。1つ目は、世界の最先端の商品をいち早く日本に紹介していることです。常にお客さまのニーズを捉え、提案から納入、設置や保守メンテナンスまでインテグレーションし、一手に行っているBtoBのエレクトロニクス技術商社になります。

2つ目は、エンジニア系社員の比率が商社の中では比較的高く、40パーセント以上になっていることです。技術系社員による高い技術力をもとにしたサポートが可能になり、競合との差別化を図っています。

3つ目は、いくつかの分野でトップクラスのシェアを獲得していることです。日本で初めて販売を開始した商品は、先ほどお話しした万引き防止システムや、ATM向けの高性能なスライドレールなどになります。

4つ目は安定した財務体質ということで、自己資本比率は70パーセントを超え、こちらを12年連続で維持しています。

5つ目ですが、当社は70年間、多方面での事業を展開しているということで、非常に多くのお客さまと信頼関係を築いています。現在の総口座数は2万5,000個を超えていますが、業界における有力な企業との取引が多いことが当社の最大の強み、財産であると思っています。

2-1. セグメント・売上構成比

井出:具体的な事業の概要についてご紹介します。スライドの円グラフは当社のセグメント・売上構成比です。当社のグループ事業は、システムセグメントとデバイスセグメントの大きく2つに分けて構成されています。売上構成比は、システムセグメントで6割、デバイスセグメントで4割となっています。

システムセグメントについては、4つのプロダクトがあります。来年度からはスライド左下に薄いオレンジ色で記載している「サービス&サポート」の名称を「クラウドサービス&サポート」に変更し、1つのセグメントとして独立させ、成長事業として注力していきます。こちらについては後ほどご説明します。

スライド左側のデバイスセグメントは、電子プロダクトと産機プロダクトの2つのプロダクトになります。

2-2. リテールソリューション【小売業向け】

井出:小売業向けのリテールソリューションについてご説明します。ターゲット市場はアパレル、ドラッグストア、スーパーマーケット、総合スーパー、ホームセンターなどです。

スライド左上の写真は商品監視システムで、いわゆる万引き防止システムになります。最近ではレジ袋の有料化によってマイバッグなどが普及していますが、万引きの被害は深刻な状況です。

坂本:そのように聞きますね。

井出:スライド中央下の写真は映像監視システムで、スライド右下の写真はその映像を利用した顔認証システムです。こちらは特に小売業からの需要が高まっています。

入店時の常習犯の検知や、最近ではカスタマー・ハラスメントと言いますか、いろいろなお客さまのクレームなどから店員の安全を守るための利用なども増えています。

坂本:商品監視システムはいろいろなお店でよく見かけます。こちらに1970年から取り組んでおり高いシェアを誇っているということですが、先行者ということ以外にも強みがあるため高いシェアを維持しているのでしょうか?

井出:商品監視システムは万引き防止策として日本で初めて販売したのですが、最初の数年はまったく売れなかったと聞いています。

坂本:そうなのですね。

井出:1970年ですので、今から50年ほど前ですね。当時は「お客さまは神さま」ということで、店長の方などから「神さまを疑うようなものをお店には置けない」という厳しい声がありました。

しかし、そのような状況でも被害は多かったため、強い信念を持って粘り強くお客さまの声を聞き対応した結果、今に至っています。また、機器の販売から設置、導入、保守、メンテナンスまで一気通貫している会社というのは意外に少ないため、そのようなところも強みになっています。

一番重要なのは運用ですが、機器の運用はもちろん、万引き防止システムのタグも重要です。小さなタグですが、「このタグはどこに貼るのか?」「どのように貼るのか?」「どのような製品・商品に貼ればよいのか?」など、お客さまといろいろとお話しする運用コンサル的な動きも行っています。

加えて、その費用対効果として万引きによるロスの削減効果を図る目的で、棚卸しのサポートを当社のコンサル部隊で行っています。そのような経験やノウハウの積み重ねで、費用対効果やロス削減に対してお客さまを説得できる提案ができたというところは強みだと思っています。

坂本:ソリューションを一緒にすると在庫管理なども同時にできるため、そのあたりもニーズの1つになっているということですね。

井出:スライド右上に記載していますが、今後に期待したいユニークな商品として「PickShop(ピックショップ)」というものがあります。こちらはAIを利用したキャッシュレスの自動販売機です。

ショーケース内にカメラが内蔵されており、商品の出し入れの映像から商品を判別し、自動的に決済することが可能になるシステムとなっています。もちろん小売市場だけでなく、今後の省人化システムとして、無人店舗などでも活用できます。

八木ひとみ氏(以下、八木):オフィスにこのようなものを置いておくことはありますよね。

井出:そうですね。お弁当なども置けますし、そのようなニーズが広がっているということで期待しています。

これらのソリューションは、スライド右側にも記載のとおり、小売業売上トップ50社における導入実績は70パーセントを超えています。

多くのお客さまに当社製品を採用していただいていますが、単発の販売だけでなく、お客さまが抱える問題に対して、商品監視システム、顔認証などのさまざまなソリューションを複合的に提案できることが当社の強みだと思っています。

2-3. オフィスソリューション【企業向け】

井出:オフィスソリューションです。主要なソリューションは2つあります。1つ目は、オフィス内の出入りを管理する入退室管理システムで、監視カメラなどのセキュリティソリューションです。2つ目は、Wi-Fiなどの通信機器で、在宅勤務に対応するリモートアクセスなどのIT系ソリューションになります。

ターゲット市場は、企業、データセンター、小売、物流、研究開発施設などになります。特に入退室管理システムにおいては、大手の外資系企業向けのシェアは日本でトップクラスになります。

当社はこれまで長く販売しているということもありますし、また、入退室管理システムのメーカーとしてワールドワイドのトップシェアを誇るTyco社、Honeywell社、AMAG社の正規代理店になっています。この占有率の高い3社の代理店となっているベンダーは、日本では当社以外にはないと思います。

外資系の企業では、世界中のどの拠点でもすべて同じセキュリティシステムを採用するセキュリティポリシーの統一を厳しく行っています。それがデファクト化しているということで、当社の技術力、経験、実績などからお客さまに選択していただくことが多くなっています。

ネットワークについては市場シェアの高い取扱商品として、在宅勤務などの遠隔から社内システムにアクセスするために必要なリモートアクセス機器の「Pulse Secure」、クラウド型無線LANの「Cisco Meraki」があります。

2-4. グローバル【東南アジア・タイ】

井出:グローバルプロダクトについてご説明します。2012年に買収したTakachiho Fire, Security & Servicesと、2014年に買収したGuardfireにより、東南アジアを中心とした海外での防火システムなどの設計・販売とインテグレーションを行っているプロダクトとなります。

2-5. サービス&サポート【サブスクリプション】

井出:サービス&サポートです。お客さまのシステム設定・運用管理を行う「MSPサービス」、クラウド型ネットワークシステムの運用管理を行う「クラウドサービス」、納入・設置したシステム機器の「保守サービス」の3つで構成されています。こちらは後ほど中期経営計画でご説明します。

坂本:こちらですが、技術サポートの部分ではどのような取り組みを行っているのか教えてください。

井出:スライドのとおり、システムの設計や検証などです。また、施工や保守・メンテナンス、開発、カスタマイズなども行います。システムの運用に関するものとしては、機器の死活監視やトラブルシューティングがあります。当社は24時間365日対応のコールセンターも自前で持っています。そのようなものが技術サポートになります。

坂本:技術系の社員が4割という話でしたが、それが御社のソリューションをつないでいるようなかたちになるのですね。

2-6. 電子プロダクト

井出:続いて、デバイスセグメントについてご説明します。まず電子プロダクトは、主に海外製の半導体や電子部品を日本の製造業のお客さまに提供しています。

自動車のナビやノートパソコンなどに使用されているマイクの電子部品や、その他特徴のある品揃えにより、オートモーティブ、5G関連の通信インフラ、さらに半導体製造装置向けをはじめとする産業機器分野での売上を増加させています。また、最近では環境分野のニーズの高まりに対応し、CO2などの各種環境系のセンサーなど、新しい分野の開拓に積極的に取り組んでいます。

2-7. 産機プロダクト

井出:産機プロダクトについてです。スライド右上に「ムーブメント・ソリューション」と記載していますが、安全・安心・快適な環境を実現するために、主に「動き」に関する商品をお客さまに提供しています。例えば、システムキッチンやトイレの便座ぶたにはソフトクローザーユニットという商品が使用されており、勢いよく閉めようとしてもゆっくり閉まっていく、という動きをします。

右下にはATMのイラストを記載していますが、こちらは紙幣を入れる、重量がかなり重いユニットですが、弱い力でもスムーズに引き出しができるようにするものです。国内メーカーのATMのこの分野では、当社が8割以上のシェアを持っています。このプロダクトの特徴としては輸入商品が少なく、自社のブランドとして商品を提供しているため、地理的な制約、つまりテリトリーがなく、どこでもどのような国でも販売できます。

坂本:御社のデバイスセグメントは、ご説明のとおり多数の商品を取り扱われていますが、自社で生産しているわけではなく、ファブレスが中心ということで、商社機能というかたちで考えてよいのでしょうか?

井出:産機事業のメインの商品は、スライド右下のATMのスライドレールであり、いろいろな種類があるのですが、アルミ製のスライドレールは自社で生産しています。

坂本:御社で作っているのですか。

井出:はい、アルミ製レールについては、子会社で製造しています。他のスチール製やステンレス製、先ほどのゆっくり閉まるソフトクローザーユニットのような物については、当社の独自ブランド品として委託生産し、当社で販売しています。このような製品についてはメーカー色を打ち出しながら取り組んでいます。

さらに、半導体についても、商社機能だけでなくボードの設計や、いろいろなボードにアプリケーションを組み込むといったソリューションビジネスの展開を図っているところです。

坂本:ビジネス系の社員の方や、いろいろな技術の方々がいらっしゃるということですね。

井出:そのとおりです。

3-1.業績の推移及び前中計振返り

井出:業績と財務状況についてご説明します。スライドの棒グラフは、過去5年間の実績と見通しを時系列で説明しています。当社の売上高は200億円程度であり、昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で減少しましたが、それまでは増収の状況でした。オレンジ色は経常利益であり、7億円台から10億円台幅で推移しています。

当年は売上217億円、経常利益が11億円、純利益が7億7,000万円の見通しとなっています。後ほど新中計について説明する予定ですが、ここで少し、当年度を最終年度とする前中計の振り返りを行いたいと思います。数値目標については当初の発表数値と比較して、売上高は260億円から217億円に、経常利益は18億円から11億円に下方修正しました。

この原因はタイの防火システム事業の停滞や新型コロナウイルスの影響、また、新しいビジネスの実績化遅延となりますが、特に利益が低迷した理由として、買収した連結子会社の業績低迷によって、のれんの減損が発生し、そのため純利益が減少しました。ROEは上昇傾向にはあるものの、当初の見通しの8パーセントには届かない見込みです。

当中期計画に書かれた基本戦略の状況としては、ロイヤルカスタマー戦略とサービス系のビジネスについては一定の成果がありましたが、成長を期待していたグローバル事業と新規事業の成長が弱く、計画を大きく下回る見通しとなりました。

これらを総合的に判断すると、成果が上がった戦略もあるものの、買収したグループ会社の経営に課題がありました。またグループ内のシナジーにも課題があり、このあたりの成果を見出せなかったことが下方修正の本質的な原因と考えています。

この分析をもとに、グループ全体における事業ポートフォリオとシナジーの見直し、さらに収益性の向上を図ることが経営上の最も重要な課題と認識し、今後大きく収益を伸ばすための戦略を中期計画にまとめています。

坂本:個人投資家からよくある質問だと思いますが、新型コロナウイルスの影響について具体的に教えていただきたいと思います。御社は海外を含めていろいろなビジネスを行っていますので、そのあたりをもう少し深堀りして、どのようなかたちで乗り切った、あるいは今、このような課題が挙げられているというものを併せて教えてください。

井出:コロナ禍になって2年が経ち、世界全体で多方面に影響があったと思います。当社の業績についても、特にタイのビジネスで工事が全面ストップになったり、プロジェクトが大きく遅延したりしました。ただ、一方でテレワークの普及など、新型コロナウイルスで働き方が大きく変化し、デジタル化の後押しなどもあって、リモートアクセス機器やWi-Fi、無線LAN、また5G関連、デバイス商品の販売が大きく成長しています。

昨年から半導体などの部品や完成品の納期遅延があり、仕入れ価格の上昇や物流関連への影響も長期化している状況です。新型コロナウイルスに関して、今後どのようになっていくかについては、まだ予測が非常に難しいです。しかし、これをきっかけに社会的な構造の変化が起こっていますし、ニューノーマルな時代において今までとは違った価値やニーズに対応していきたいと思っています。

3-2.通期見通し

井出:通期の見通しになります。進捗率は、通期計画に対して、営業利益以外はおおむね65パーセント以上となっています。参考までに、前年同時期の通期業績に対する進捗度もスライドの一番右側に示していますが、利益面での進捗率は昨年と比較して高くなっています。また、現状で半導体関連の商品調達が若干改善してはいるものの、物流関連を含め全体として不透明なところが多いため、通期見通しについては変更していません。

3-3. 主要経営指標推移

井出:主要な経営指標についてご説明します。ご覧のとおり、資産合計、負債・純資産合計の推移について大きな変化はありません。資産においては先ほどご説明したとおり、2016年に14億6,500万円あった買収によるのれんの残高が、一昨年末にはゼロとなったことが大きな変化です。

また、当社は現状で無借金経営を続けており、自己資本比率が70パーセントを超えている状況です。一方で、ROEは上昇傾向にあるものの、まだまだ低いため、これをどのように引き上げるかについて、次ページの中期経営計画でご説明したいと思います。

新中期経営計画の位置づけ

井出:ここからは、2月8日に発表した2022年度から2024年度の中期経営計画について、事業戦略を中心に一部内容を抜粋してご説明します。新中期経営計画の位置づけとしては、企業価値の最大化を目指し「創造へのチャレンジ」をキャッチコピーに、新たな企業価値の創造を目指します。

新中期経営計画の全体像

井出:新中期経営計画の全体像を記載しています。中期スローガンとして、「Toward 100th anniversary」、つまり次の100周年に向けて、「ニューノーマル時代における新たな価値創造へ」を掲げています。

スライド左側のピラミッドの絵の底辺にあるガバナンスの強化を通じて、事業戦略、資本戦略を実行し切ることで、企業価値、ひいては株主価値の向上を目指します。ガバナンスに関しては、投資を適切に実行するために、投資委員会を設置します。また、指名・報酬委員会を設置し、役員報酬についても資本効率性のKPIを定めて株主目線での経営を推進していきます。

事業戦略については、成長戦略として、「ロイヤルカスタマー戦略の推進」「サービスビジネスの成長」「将来のコア事業の創出」と置き、それを実行するための経営基盤の強化も同時に行います。加えて、3年間で総額30億円を戦略投資枠と設定して、生産性向上を加速するために使用していきます。

KPIについては3期平均ROE8パーセントと定め、資本戦略については自己資本を積み増さないこと、また資本コスト抑制のために場合によっては有利子負債の活用も検討していきます。

経営目標(2022年度〜24年度)

井出:経営目標についてです。「変革に向けた高付加価値事業への集中」「経営基盤強化による新たな価値の創造」を基本方針に掲げて、当社グループの持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目指していきます。

中計の最終年度の数値目標として、売上高260億円、経常利益20億円、純利益14億円、また、ROEは8パーセントを必達として、10パーセントを目指していきます。配当性向については、ROEが3期平均で8パーセント以上となるまでは、100パーセントを継続していきます。

新たな事業変革に向けた成長への取り組み

井出:基本戦略は5つあり、1つ目の「ロイヤルカスタマー戦略」に関連するセグメントは、システムおよびデバイスセグメントです。2つ目の戦略となる「サービスビジネスの成長」は、システムから新たに切り出して新設するクラウドサービス&サポートセグメント、3つ目の「将来のコア事業の創造」については、新規事業プロジェクトを設置して、それぞれ推進していきます。

2024年の売上高は260億円、当中期経営計画の売上から約43億円の増加を計画しています。スライド右下に囲んだ枠内に、ロイヤルカスタマー戦略で26億円増、サービスビジネスで17億円増という目標を記載しています。新規事業は主にサービスビジネスに含まれます。

基本戦略 ① ロイヤルカスタマー戦略の推進・深化

井出:各戦略についてご説明します。1つ目の基本戦略である「ロイヤルカスタマー戦略」に関しては、前中期経営計画の成果をよりいっそう高めるために、「当社が付加価値を提供してご満足いただけるお客さまを創出し、関係強化を目指す戦略」と定義して、さらなる推進を行います。年間3,000万円以上の売上のお客さまの社数アップを指標とし、2018年度には87社、昨年度は100社でしたが、2024年には130社以上にまで拡大させることを目標とします。

長年培った信頼関係をもとにお客さまの潜在的ニーズを把握して、当社の強みである情報力と技術力によって新たな付加価値を生み出し、お客さまの課題を解決していきます。また会社、組織の枠を超えたグループシナジーの最大化も推進していきます。

具体的には高収益、成長力のあるソリューションを中心に、システム系についてはリテール、オフィス、データセンターや工場、物流市場に対して、省人化システムやネットワークセキュリティ、AI技術を備えた映像監視などの各種ソリューションを展開していきます。

デバイス系については、エレクトロニクス企業、デジタル機器、住宅設備や車載、米国やアジア市場に向けて、お客さまのモノ作りのお手伝いや、お客さまの製品の高付加価値化を目指して、音声や通信、いろいろなセンサーなどのモジュール化、ユニット化などを含め、単品の販売から当社独自のソリューションを拡充して展開していきたいと思っています。

基本戦略 ② サービスビジネスの成長

井出:2つ目の「サービスビジネス」の戦略についてご説明します。こちらは、ただの製品の売り切り型の販売からサービスやサブスクなどによる価値提供型の販売に変えていくというものです。数値目標については、全体に占める売上の比率を現在の10パーセントから15パーセントへ、全体に占めるサービスビジネスの営業利益を現在の40パーセントから3年後には45パーセントないし50パーセント、つまり半分まで引き上げていく計画です。

継続的な成長を図るために、スライド右上に記載しているように、サービス向上のための投資を実施したり、またクラウド上に蓄積されるデータを活用しサービスを改善したりすることで、お客さまの満足度を上げて、継続的に価値を提供していきます。これを「カスタマーサクセスサイクル」と呼んでいますが、このようなものを回していきたいと思っています。

具体的には、クラウド型のMSPサービスの種類を増やしたり、新規のアプリケーションを追加していくということになります。それらを統合したマルチクラウドサービス「TKエコシステム」は、当社独自のBtoB向けのプラットフォームです。これを構築し、いろいろなシステムやアプリケーションを連携させて一元的に管理するという、新しいサブスクリプションモデルの推進を進めたいと考えています。

基本戦略 ③ 将来のコア事業の創造

井出:次に、将来のコア事業を創造するための新規事業についてです。スライド上部に記載しているのは現在推進している事業になりますが、1つ目は、左側の「EMLINX(エムリンクス)」と呼んでいるクラウド型の防犯情報サービスです。主に小売業者向けに、企業・業界の垣根を取り払い、犯罪情報を共有するシステムになっています。

2つ目は中央のクラウド型映像システムです。クラウド上で画像を確認し、AIによる映像分析が可能となっています。3つ目は右側に記載の、サーバーや端末が不要なクラウド型のRPAソリューションです。

新規事業の種としては、シリコンバレー・イノベーション・センターやベンチャーキャピタルといった情報網から、新商品・新規事業を開発しています。基本的には当社の顧客層であるリテール、オフィス、電子半導体分野を中心に、セキュリティやロボット、5Gといった各種ソリューションをターゲットに、付加価値の高い事業を推進していきたいと考えています。

新規事業分野については、5年後にグループ全体の経常利益で5パーセントを超えることが目標です。

基本戦略 ④ 経営基盤の強化

井出:経営基盤の強化について、大きく4つの項目に分類しています。

1つ目は、経営リソースを注力すべき事業にシフトすること、つまり事業ポートフォリオマネジメントを実践していきます。

2つ目はDXの推進で、これについてはプロジェクトとして社内ですでにスタートさせています。営業効率を高めるデジタルマーケティングや、運用効率を改善するための社内処理の自動化、また、サービスビジネス成長のための顧客サービスの向上により、収益性の改善・向上を図っていきます。

3つ目の人材投資の強化に関しては、注力している事業に必要な人材の採用や、育成などを実施していく考えです。

4つ目の資本効率性のアップについては、棚卸資産のコントロールや売上債権回転期間の改善を実践していきます。

基本戦略 ⑤ 30億円の戦略投資枠を設定

井出:30億円の戦略投資枠についてです。目的は「新たな企業価値創造」で、成長ドライバーを加速するためにビジネス基盤の強化や、新規事業の創出に活用します。

具体的には、新しい事業の早期立ち上げのためのM&Aやサービスビジネスの拡販、ロイヤルカスタマーのニーズに対応するための開発投資として26億円を想定しています。

加えて、社内基盤の強化を目的としたIT投資、人材教育、人材採用、従業員持株会の奨励金などに4億円程度を想定し、この枠を利用して中期経営計画を完遂したいと考えています。

資本収益性の向上

井出:資本政策についてです。当社の財務健全性を総合的に勘案したうえで、「新たな企業価値創造」を実現するため、資本収益性ならびに現状のバランスシートの改善に向けた資本施策を実行していきます。

「新たな企業価値創造」の根幹には、ROE3期平均で8パーセント超という目標があり、その実現に向けた事業構造の改革と成長領域の育成により、収益性の改善を図ります。また、自己資本の積み増しの抑制と、投資の実行時における有利子負債の活用などにより、当社の「新たな企業価値創造」を実現していきます。

ESG/SDGsの各種取り組み

井出:新中期経営計画を支えるESGについてです。当社のサステナビリティ基本方針として、環境問題、社会課題、企業統治課題の解決を経営方針の重要事項として捉えています。これは「創造」の企業理念のもと、サプライチェーンを考慮したうえで、技術商社として豊かな未来、持続可能な社会の実現に貢献していくというものです。環境への配慮、社会貢献、ガバナンス強化といったESGに関する課題に積極的に取り組みながら、SDGsを推進していきたいと考えています。

環境分野への貢献

井出:環境分野における貢献の事例として、米国の商品である「Verkada」があります。これはPM2.5などのセンサーを内蔵しており、職場や施設環境のセキュリティと同時に、健康をトータルサポートするものです。「Verkada」などを通して、お客さまの環境配慮対策に貢献していきたいと思っています。

5-1.株主還元方針

井出:中期経営計画については以上で、ここからは株主への還元方針についてです。

まずは配当方針についてご説明します。当社は来月3月の中旬で70周年を迎えます。昨年12月にもすでに公表していますが、創業70周年を記念して1株あたり15円の記念配当を実施する予定です。2022年3月期の期末配当についても昨年12月に公表しているとおり、業績の見通しや配当性向等を総合的に勘案し、1株あたり23円とします。中間配当はすでに12円をお支払いしており、業績に応じた年間配当は35円となっているため、創業70周年の記念配当と合計すると年間配当は50円となり、前年実績からは2倍になる予定です。次年度以降は、ROE3期平均8パーセントを達成するまでは、配当性向は100パーセントを維持していきます。

坂本:今期の配当は1株あたり50円で、来期から配当性向が100パーセントになるということですが、1株あたりの配当金は、予想ベースでいくらになるのでしょうか? はじめてご覧になると「100パーセントって何?」となる方もいると思いますので、そのあたりも含めて教えてください。

井出:中期経営計画の利益は、3年後の最終年度しか公表していないため、現時点で来期の配当金をお伝えするのは難しい状況です。ただ、仮に現在の株式数で2025年の3月期、つまり3年後の中期経営計画最終年度の当期利益が目標の14億円であった場合は、1株あたり約155円となる計算です。今期の年間配当50円には15円の記念配当が含まれているため、業績による配当額は35円です。それと比較すると約4倍の増配になります。

坂本:最近は、資本の効率化という話がよく出てきて、100パーセントにすれば株価も上がりますが、御社の場合はもし必要なM&Aの資金があった場合、有利子負債を活用していくというかたちですので、かなり強いイメージを打ち出されたと思っています。そこは資本効率が改善するまでは内部留保せず、しっかり投資家にお返ししようという考えがあったからだと思います。

井出:おっしゃるとおりです。

5-2.株主還元方針(株主優待)

坂本:株主優待もあるということで、こちらについてもご説明をお願いします。

井出:株主優待については、3月末時点で100株以上保有の株主さまに、保有株式数に応じてお米ギフト券を贈呈しています。具体的には100株以上200株未満の方には2キロ分、200株以上の方には5キロ分、300株以上からは10キロ分となっています。株価によって推移しますが、配当と優待を合計した総利回りは、現在の株価水準の場合で約4.2パーセントとなっています。

坂本:今後の予定として、来期以降も100パーセントの配当性向になったとしても続ける予定ですか?

井出:そうですね。その予定です。

参考情報(投資関連情報)

井出:参考情報として、当社の投資関連情報を掲載しています。みなさまの参考にしていただければと思います。

質疑応答:季節要因の影響について

八木:会場からのご質問で、季節性を気にされている方がいらっしゃいます。「季節要因の影響とはどのようなものなのか、またそもそも売上や利益に季節性が関係するのかどうかも教えてください」といただいています。

井出:小売業には「二八の法則」という言葉がありますが、その意味では、前半後半とでそのような傾向はあると思います。しかし当社では、お客さまの決算期に応じた予算組みが関係することが多いため、季節性はあまり大きな影響は無いと思います。

質疑応答:プライム市場へ上場するメリットについて

坂本:御社がプライム市場に上場する最大のメリットを教えてください。

井出:当社の場合はほとんど海外から商品を仕入れるため、当社の日本における信用力が非常に大きく関係してきます。それを踏まえると、プライム市場上場の信用力はメリットになると思います。

ただ、目線を少し変えると、当社はプライムの基準に一部達していないところがあるため、市場再編によって、そのような足りない部分、つまり企業価値、株主価値を向上させる良い機会と捉えています。もちろん、プライム市場は最終的なゴールではありません。中期経営計画のキャッチコピーにもしていますが、将来の100周年を見据え、継続的に会社を成長させていく良い機会を得たことが最大のメリットだと思っています。

質疑応答:エレクトロニクス商社として、他社と比較した際の特徴について

八木:他のエレクトロニクス商社と比較した場合、どのようなところが特徴と言えますか?

井出:お客さまに世界の最先端の商品を紹介するということです。1つの事例として、クラウド型の無線LANで「Cisco Meraki」という商品があります。

今でこそクラウド型の無線LANは主流になっていますが、当社は10年近く前からこれを扱っていました。当時は電波法の対応など、なかなか難しい面はあったのですが、Cisco社に買収されたことで、市場の展開が速くなり、現在はさらにニーズが高まっています。「Cisco Meraki」の先駆者として、Cisco社、Cisco Japanとも良好なビジネスリレーションを継続している状況です。新しい最先端の商品を届け、それを実績化するというのが当社の特徴であり、強みであると考えています。

八木:技術系社員の方の比率が結構高いというのも特徴ですね。

井出:そうですね。商品を提案、販売、設置し、場合によっては開発や保守・メンテナンスも行い、これらを中心的に担うのは技術系社員です。技術系社員が多いというのは商社としては珍しく、当社の特徴にもなっています。

当日多くの質問を頂戴しましたが、時間の関係でお答えすることができませんでした。後日主な質問については、高千穂交易のホームページで公開予定ですので、ぜひご覧ください。

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