ヘッジファンドにおける「成功報酬」の考え方とは?
ヘッジファンドの特徴の1つとして、成功報酬の存在を聞いたことがあると思います。名前の通り、運用がうまくいった時にだけ、運用者側であるヘッジファンドが投資家から受け取ることができるものです。
成功報酬は、ヘッジファンド運用者が投資家と同じ方向の利益を追求するために必要との考えに基づいて存在しています。ヘッジファンド運用者にとって、ボーナスの最大の原資となる成功報酬を稼ぐことは最重要課題です。そして、成功報酬を獲得するには、良好な運用成績を上げ続けなければなりません。
また、ヘッジファンド運用者は、一般的に相当程度の自己資金を自分のファンドに投資しています。運用から得られる報酬だけではなく、自分自身の運用によって投資家として自己資金を増やしたいという考えがあるからです。つまり、ヘッジファンドへの投資においては、投資家と運用者が同じ船に乗っているのが一般的な構造です。
機関投資家がヘッジファンドを精査する際、運用者がどの程度の自己資金をそのヘッジファンドに投入しているのかチェックされます。運用者が投資家だけの資金のみで運用するよりも、自己資金を含めた運用の方が良い運用成績を追求するコミットメントの水準が高いはずであるとの考えに基づきます。
ヘッジファンドでの手数料体系
Two Twenty(2の20)、というのは、ヘッジファンドでの手数料体系を説明する際に出てくる表現です。これは、運用成績に関わらず、ファンドが運営されている限り発生する運用報酬が年率2%、成功報酬が収益(「収益」の詳細については後述します)の20%という手数料体系を持つことを意味しています。
ただし、これはあくまで平均像を語る際の数字であり、ヘッジファンドの手数料体系は「2の20」でなければならないというものではありません。また、昨今は手数料率に対する圧力が高まっていることから、運用報酬率や成功報酬率を低減させるヘッジファンドも出てきています。
しかし、そもそもヘッジファンドへの投資を考える投資家は、高水準の運用成績への期待や市場の下落リスクに耐性のある特徴を評価して投資の選択を考慮しているはずで、「安ければよい」という理由ではなかったはずです。手数料率とヘッジファンドそのものへの評価については冷静に検討すべき課題と言えます。
成功報酬の計算方法は?
ヘッジファンドの成績も上下する中で、「収益の20%」だけが一人歩きすると、成功報酬に対する考え方が混乱してしまいます。そこで、より専門的なエリアに踏み込んでみましょう。
成功報酬の計算には「ハイウォーター・マーク」、「ハードル・レート」といった仕組みが導入されています。成功報酬の原資となる「収益」を適切に理解するためには、この「ハイウォーター・マーク」を理解する必要があります。
「ハイウォーター・マーク」については、文字通りダムの最高水位をイメージしてください。ヘッジファンドが成功報酬を獲得し続けるには、ダムの最高水位を常に更新し続けていく必要があるというのが肝です。
たとえば、梅雨の終わりから夏場にかけてダムの水位が減ったとします(ヘッジファンドで言うと損をしたとイメージしてください)。梅雨の終わりの時期に1億円の運用額があったのを、夏場にかけて7,000万円に減らし、その後は持ち直して秋に1億円に戻したというイメージです。
この中で7,000万円→1億円という時期、確かに運用成績により資金を増やしてはいますが、元を辿ると1億円(梅雨の終わり)→7,000万円(夏場)→1億円(秋)となり、最初の状態から資金は増えていません。つまり、「収益」は発生していないのです。
この際、7,000万円→1億円の実績を使って成功報酬を徴収されたらフェアだと思いますか? フェアではないですよね。成功報酬の計算に関しアンフェアな状態(見せかけの収益)を防ぐため、ヘッジファンド業界における成功報酬には「ハイウォーター・マーク(最高水位)」という仕組みが導入されているのです。
また、「ハードル・レート」は、陸上競技のハードル種目をイメージしてみると分かりやすいと思います。ハードル種目できれいに飛び越しながら快走するように、「この高さのハードルをうまく越えられた時にだけ成功報酬をください」という最低条件を設定しているヘッジファンドがあります。
確かに素晴らしい仕組みではありますが、一般的には短期金利が多いので、今の金利水準では有名無実化しています。しかしながら、運用能力に自信のあるヘッジファンドの中には、数パーセントの「ハードル・レート」を設定していることもあります。
ヘッジファンドの手数料については、その高低だけを議論の対象とするのではなく、もたらされる付加価値(運用実績の高さ、分散効果、市場の下落に対する耐性など)を吟味した上で冷静に向き合うことが、より良いヘッジファンド投資の選択につながるのではないでしょうか。
小田嶋 康博