日本電産は、現在72歳の永守重信会長兼社長が仲間3人とともに立ち上げた会社で、1973年に精密モータメーカーとして誕生しました。それから44年を経た現在、売上高1兆2,000億円(2017年3月期会社予想)、従業員9万6,000人、世界33か国にグループ企業約230社を擁する電子部品大手に成長しています。
この背景には、動くもの(モータ)に関する高い技術力や、巧みなM&Aの実行力があります。さらに見逃せないのが、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」のスローガンに代表される永守氏の人心掌握術と経営手腕です。この「太陽よりも熱い男」といわれる永守氏が一代で成長させてきた日本電産という会社の過去、現在、未来を大解剖したいと思います。
目次
1. 日本電産は”世界No.1”が評判の総合モータメーカー
1.1 日本電産はHDD用から電気自動車用までを手掛ける総合モータメーカー
1.2 日本電産はHDD用モータを筆頭に豊富な高シェア製品を持つ
1.3 サンキョー、テクノ、シンポ、エレシスなど、日本電産はM&Aを成長戦略として活用
1.4 評判のM&Aの刈り取りで車載、家電・商業・産業分野を成長ドライバーへ
2. なぜ日本電産は大企業病にならないのか。持続的成長の要は“永守イズム”の徹底
3. 10年間で日本電産の売上高も株価も2倍に
3.1 日本電産の売上高は28年間で32倍、10年間で1.9倍に
3.2 車載、家電・商業・産業用モータが成長を牽引、これまでの成長牽引役だった小型精密モータはキャッシュカウに
3.3 株価は10年間で2倍に
3.4 2021年3月期に2兆円を目指し、IoT時代の総合モータメーカーへの転身を図る
5. 日本電産が求める人材はエリートではなく、ハードワーカーでスマートに頑張る人
5.1 読売巨人軍のスポンサーとなり、積極的なテレビCMを行うのは人材獲得のため
5.2 従業員関連データ
1. 日本電産は”世界No.1”が評判の総合モータメーカー
日本電産は、HDD用の小型精密モータから電気自動車や鉄道用の大型モータ、さらにはモータ単品だけではなく周辺回路を取り込んだモジュールまでを手掛ける「世界No.1の総合モータメーカー」です。
日本電産が、「単なるモータメーカー」から、「総合モータメーカー」に飛躍できた背景には、高シェア製品を多数輩出してきた技術力だけではなく、長期にわたり積極的に行ってきたM&Aの成功があります。
さらに、その根底には創業以来一貫して「世界一」を追求する創業理念や、「情熱、熱意、執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という3つの精神があり、それが維持されてきたことも見逃せません。
1.1 日本電産はHDD用から電気自動車用までを手掛ける総合モータメーカー
では、日本電産は具体的にどのようなモータを製造販売しているのでしょうか。以下の図表に、2016年3月期の製品別売上構成を示しました。
出所:日本電産 2016年3月期決算資料
ここから明らかなように、売上高の約95%はモータ関連であり、残りは産業用ロボット、基板検査装置などの機器装置やカメラシャッタなどの電子光学部品となっています。
また、業界別販売先がパソコン、サーバーといったIT業界だけではなく、自動車、家電、産業機器など多岐にわたっていることも特色です。
さらに、地域分散が進んでいることも日本電産の見逃せない特色であり強みです。地域別売上も所在地別構成比も、下図にあるように、特定の国や地域に偏らずカントリーリスクが分散されていることが注目されます。
1.2 日本電産はHDD用モータを筆頭に豊富な高シェア製品を持つ
日本電産は「省エネ・長寿命・低騒音」という特性を持つブラシレスDCモータを中心に事業展開を行い、多くの高シェア製品を生み出してきました。このことは、同社が「世界一」にこだわる創業理念を持ち続けたことの結果であり、また、他社が追随できないレベルまで技術を高めてきたことの証左でもあります。
高シェア製品の具体例は下図にある通りです。
出所:日本電産ホームページ
数ある高シェア製品の中で最も特筆すべきモータは、創業から6年目の1979年から生産が開始されたHDD用スピンドルモータです。
当初は8インチHDD用として開発されましたが、その後、3.5インチ用、1.8インチ用、1.3インチ用と、HDDが小型・薄型化する一方、低消費電力化、高耐久性、静音化が高まる中で、そうした要求に応える技術開発を進めてきました。
この結果、日本電産は2000年代には世界トップのHDD用モータメーカーとなり、現在も80%前後の市場シェアを確保しています。
2010年代後半からはHDDが搭載されるパソコン市場の成熟化が進み、数量面では日本電産もこの影響から逃れることができなくなっています。
ただし、日本電産はHDD用モータをパソコン用だけではなく、より高性能なモータが必要とされるデータセンターなどで使われるサーバー用や、FDB(流体動圧軸受)モータと呼ばれるベアリングを使わない長寿命・低振動の高性能モータなどの開発を強化し、そこでのシェアを高めることや単価アップを実現することにより、数量減をカバーする高い採算性を確保できています。
このため、HDD用モータは、依然として現在も日本電産のキャッシュカウ(収益源)です。
現在の日本電産の成長ドライバーは、HDD用モータから車載、産業・商業・家電用モータに移行しています。これを可能にしているのは、日本電産が長年にわたり取り組んできたM&Aの成果といっても過言ではありません。そこで次に、日本電産のM&Aの歴史について振り返ってみたいと思います。
1.3 サンキョー、テクノ、シンポ、エレシスなど、日本電産はM&Aを成長戦略として活用
日本電産は企業成長戦略の一環として早い時期からM&Aを戦略的に活用しています。その歴史は古く、同社初のM&Aは創業11年後の1984年に行われた米トリン社の軸流ファン部門の買収でした。そこから直近の米エマーソンの買収まで、50社のM&Aの歴史を一覧にまとめたのが以下の表です。
出所:日本電産資料より投信1編集部が作成
この表から明らかなように、日本電産はM&Aが日本で一般的にはほとんど行われていなかった80~90年代に既に積極的に取り組んでおり、その後2000年代に入ると国内企業だけではなく、海外企業についても多くの買収を手掛けています。
また、一般的にはM&Aには失敗がつきものであり、成功確率はそれほど高くないとされています。しかし日本電産の特徴は、業績が悪化している企業であってもそれを見事に立て直し、高い確率でM&Aを成功させ、グループの成長に貢献してきたことです。
これまで大きな失敗がなかった背景の1つとしては、「回るもの、動くもの」に特化することで、同社があまり知見を持たない分野には手を出さないポリシーが指摘できます。
また、日本電産のM&Aは、成長のための技術・販路を育てあげるのに要する「時間を買う」という明確な考え方に基づいているため、たとえ成長性が高くてもグループシナジーを発揮できない分野には手を出さない点も成功確率を高めている要因であると考えられます。
さらに、当然のことながら、いくら魅力的な企業であっても買収価格が高すぎるものには手を出さないという目利き力とガバナンスも見逃せない一因であると推察されます。
1.4 評判のM&Aの刈り取りで車載、家電・商業・産業分野を成長ドライバーへ
このように、日本電産は長期間にわたりM&Aに積極的に取り組んできましたが、その成果を本格的に刈り取ることが求められているのは、まさにこれからです。
その理由は、先述のように日本電産の創業初期からの主力製品であるHDD用モータはキャッシュカウではあるものの、成長性が鈍化しており、それに代わる次の成長ドライバーが求められているためです。
ここで注目されるのが、車載、家電・商業・産業モータです。以下に述べるように、日本電産はHDDで稼いだ利益を使い、積極的にこれらの分野でM&Aを行ってきました。
車載分野については、2006年12月にValeo(モータ&アクチュエータ事業)を買収、その後、2010年10月にEmerson Electric(モータおよびアプライアンス制御事業)、2012年12月に中国の江蘇凱宇汽車電器、2014年1月には三菱マテリアルシーエムアイ(車載ステッピングモータ、日本電産サンキョーの傘下に)と切れ目なく買収を続けてきました。
さらに2014年3月末には、ホンダの子会社で自動車のECU(電子制御ユニット)に強みを持ち、アンチロックブレーキシステム(ABS)、電動パワーステアリング(EPS)、横滑り防止装置(ESC)、ミリ波レーダーや車載カメラを用いた運転支援システムなどの車載システムを主力とするホンダエレシスを買収しています。
ここで重要なことは、エレシスの買収は、日本電産の車載事業の業界ポジションを大きく変えるきっかけとなっていることです。
その理由は、エレシス以前の買収先が、車載メーカーに対して部品を供給する”ティア2”サプライヤーであったのに対して、エレシスは自動車メーカーに直接製品を供給する”ティア1”サプライヤーであるからです。
つまり、エレシスの買収により、日本電産はデンソーやRobert Boschといったティア1のグローバルメガサプライヤーと同じ立ち位置に付くことができたのです。
さらに付け加えると、ECUで強みを持つエレシスの買収により、日本電産はモータを単品で販売するだけではなく、ECUと組み合わせたモジュールメーカーとして飛躍するきっかけも得られています。
エレシスもこれまではほとんどの販売先がホンダであったものが、日本電産の販路を活用することで、幅広い顧客をターゲットとすることが可能になりますので、高い相乗効果(シナジー)が見込めることになるのです。
このように、エレシスの買収は日本電産の車載用モータ事業の将来の成長に非常に重要な意味を持っています。
家電・産業用・商業用事業分野については、2010年10月にEmersonのEMC(Motors & Controls)事業を買収しています。また、2012年6月にはイタリアAnsaldo Sistemi Industriali社の大型産業用モータ・ドライブ・発電機事業を、同年9月に米Avtron Industrial Automation社(産業用エンコーダー)と米Kinetek Group社(商業用モータ)、さらに2016年にはEmersonのモータ・ドライブ事業および発電機事業を買収しています。
こうした取り組みにより、”お掃除ロボット”、”ドローン”などの新分野も含めて製品ラインアップを大きく拡充できることや、日本、アジアに加え、欧州・北米でのプレゼンスを高めることが可能になるため、家電・産業・商業用モータに関しても、これから飛躍が期待できることになります。
2. なぜ日本電産は大企業病にならないのか。持続的成長の要は“永守イズム”の徹底
日本電産は現在では売上高が1兆円を超える大企業ですが、創業当初は社屋もプレハブ、メンバーも社長の永守氏を含めたった4人のベンチャー企業でした。
その後の拡大の歴史はM&Aの歴史の中で述べた通りですが、ここでは、なぜベンチャーからスタートした日本電産が中堅企業を経て大企業へと成長できたのか、また、1980年代の日本のエレクトロニクス産業の高成長期が終わった90年代以降、大手電機メーカーが徐々に衰退していく中で成長を持続できたのでしょうか。
その最大の理由は、同社の企業文化にあると考えられます。具体的には、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」というスピードの文化、必達の文化、フォローと徹底の文化や、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの「5S」の徹底にあると考えられます。
また、この文化を買収した会社に対しても徹底させてきたことが重要なポイントであると指摘できます。
さらに、近年ではある程度業績が改善してきた国内外のグループ会社に対して、「三大経営手法」と呼ばれる経営改善の取り組みも強化しています。
具体的には、「井戸掘り経営」(現場でのVE/VA提案を徹底的に掘り下げる活動)、「家計簿経営」(収入に見合った生活をする、つまりキャッシュフロー経営の徹底)、「千切り経営」(大きな問題でも小さく切り刻めば解決できる、つまり内製化、現地調達の推進、集中購買など、細かなコストダウン活動を積み上げること)の3つですが、これらをキメ細かく実行していくことで、既に国内子会社には成果が表れてきたと最近の決算説明会で永守氏は発言していました。今後は、この活動が海外でも浸透していくかが注目されます。
大企業になると往々にして経営者は慢心してしまい、部下に権限を委譲し全体を眺めるだけになりがちですが、永守氏は「マイクロマネジメント」と批判されることを恐れず、むしろ積極的に現場に関与して経営改善に取り組んでいることが伺えます。
日本電産が「大企業病」に陥らず、持続的な成長を遂げている理由は、こうした取り組みにもあるようです。
3. 10年間で日本電産の売上高も株価も2倍に
ここからは、実際に日本電産の業績や株価がどのような推移を辿ってきたのかを具体的に見ていきたいと思います。
3.1 日本電産の売上高は28年間で32倍、10年間で1.9倍に
日本電産は1989年3月期から連結決算を開始しています。当時の売上高は364億円に過ぎませんでしたが、それから10年後の1998年3月期に売上高は初めて1,000億円を超え、さらにそこから18年後の2015年3月期に売上高は1兆円の大台を超えています。
1989年3月期に対して2016年3月期の売上高は実に32倍、28年間の平均成長率(CAGR)は14%に達します。また、その間減収となったのは、28年間でたったの5回だけです。
さらに、中堅企業から大企業となった10年前と比較しても売上高は約1.9倍に拡大しており、平均成長率では7%の伸び率を確保しています。
こうした数字から日本電産の成長性がいかに高い会社であるかが読み取れると思います。
3.2 車載、家電・商業・産業用モータが成長を牽引、これまでの成長牽引役だった小型精密モータはキャッシュカウに
日本電産は、2020年度(2021年3月期)に売上高を2兆円、営業利益率15%以上、株主資本純利益率(ROE)18%以上とする中期戦略目標を2015年4月に発表しています。
基本的に、これまでと同様、自律成長とM&Aの2つが成長戦略の基軸となりますが、製品別では車載と家電・商業・産業用モータは重点2事業として成長牽引役に、精密小型モータは安定収益源と位置付けられることになります。
下図にあるように、既に過去5年間で重点2事業の比率は半分近くに達していますが、今後はさらにこの比率が高まることになります。
とはいえ、精密モータが衰退するということではありません。HDD用については、日本電産は残存者利得を享受できるポジションにあることや、データーセンター用HDDにはより高度なモータが求められるため、付加価値アップにより利益拡大の余地が依然として大きいからです。
また、精密モータに含まれるHDD以外の”その他小型モータ”についても、日本電産が「スリー新活動」と呼ぶ新製品、新市場、新顧客を積極的に開拓することで、AV機器、IT機器、OA機器、通信機器、家電、環境関連機器、産業機器等など多岐にわたる分野で成長が期待できます。よって、精密小型モータ全体では売り上げが減少することもなく、また、キャッシュカウであることも変わらないと考えられます。
出所:日本電産ホームページ
3.3 株価は10年間で2倍に
日本電産は、わずか40年強で1兆円を超える大企業にまで成長してきましたが、株価についても、これまでを振り返ると目を見張るものがあります。
1998年年初を起点にすると、2017年2月時点の株価は約8倍(この間のTOPIXは1.5倍の上昇)に上昇しています。また、2006年年初を起点にしても約2倍(同約1割の下落)の上昇となっており、市場平均を大きくアウトパフォームしています。
ちなみに、直近の日本電産の時価総額は約3兆円強と、日本最大の電機メーカーである日立製作所とほぼ同じです。
規模では日立製作所には見劣りし、ROEやROEも際立って高いわけではありませんが、成長性に対する期待が株価の高評価につながっていると考えられます。
PER(2017年3月期会社予想ベース)で比較すると、日立の16倍に対して日本電産は30倍、PBR(2016年3月期実績ベース)では、日立の0.6倍に対して日本電産は3倍と、株価指標に大きな開きがあるのはそのためであると推察されます。
3.4 2021年3月期に2兆円を目指し、IoT時代の総合モータメーカーへの転身を図る
これまで述べてきたように、2021年3月期に2兆円売上という目標の達成のカギとなるのは、車載および家電・商業・産業用モータの重点2事業の成長です。
2021年3月期の車載の売上目標は7,000億〜1兆円です。2016年3月期実績対比では2.6~3.7倍の成長を目指すことになります。
クルマの世界では、環境規制や安全性への要求は高まるばかりですので、電動パワステ用モータ等の車載用モータ、車載カメラ、コントロールバルブ、電動オイルポンプ、電子制御ユニット(ECU)など、これまで自社開発やM&Aを通して拡充されてきた製品群の需要拡大には大いに期待が持てます。
また、IT業界とは異なり、自動車業界は開発から量産までの期間が長いため、事業が開花するまでには時間を要するものの、いったん採用が決まると安定的な需要が期待できるという特色があります。そのため、車載向けの拡大により、これまでに比べると短期間で業績ボラティリティは低下、つまり業績は安定化に向かうことが期待できます。
一方、家電・商業・産業用モータの2021年3月期の売上目標は、4,000億〜6,000億円です。2016年3月期実績対比では1.4~2.1倍の成長を目指すことになります。
家電部門では、洗濯機、乾燥機、食洗機用モータ、商業部門ではエアコン用モータを手掛け、産業部門では農業、石油、ガス、鉱業、上下水道、製鉄、海洋といった市場で事業を展開していますが、今後はそうした市場においてモータ単品だけではなく、周辺回路を含めたモジュールでの提供や、通信機能を加えたIoT 技術にも取り組み、成長を目指すと見られます。
4. グローバル企業になっても1番への強いこだわりは不変
日本電産は、日本経済がバブル崩壊後に長期低迷する中でも持続的に成長してきましたが、そこで見逃せないのが永守氏の経営思想です。
まず、日本電産の経営理念を見てみましょう。
【3つの経営基本理念】
1. 最⼤の社会貢献は雇⽤の創出であること。
2. 世の中でなくてはならぬ製品を供給すること。
3. ⼀番にこだわり、何事においても世界トップを⽬指すこと。
いずれも重要な意味を持っていますが、特に注目したいのが「一番へのこだわり」です。
永守氏の著書である『人を動かす人になれ』を読むと、永守氏は「一番以外はビリ」という考えを幼少期から持っていたことがわかります。また、それを実際に有言実行してきたことや、「一流、一番をめざすために、トップが努力し、とことん謙虚になることで、人はついてくる」ことを、この本にある多くの具体例から理解することができます。
とはいえ、永守氏は学歴主義でもエリート主義でもありません。むしろ落ちこぼれであろうとモーレツに働いて努力して上を目指すことに高い価値を見出してきました。人材育成でも企業買収でも、磨けば光る状態から価値を高めていくことに永守氏は力を発揮してきたのです。
ただし、この本が執筆されたのは1998年です。現在の日本電産は、これから2兆円売上を目指すグローバル企業となっており、経営幹部にも日本人以外が増えていますので、一番になるために社長も社員もモーレツに働くというやり方には限界がでています。
また、持続的な成長を実現するためには、経営管理体制のさらなる強化が求められます。中国・アジア・米州・欧州(含む中東・アフリカ)にそれぞれ地域統括会社を設置し、グローバル5極経営管理体制としているのもそのためです。
さらに、「働き方改革」を積極的に推進し、残業を減らし、女性も働きやすい職場を目指し、成長のための企業買収も、これまで以上に財務規律が重視されるため、不振企業ではなく優良会社の買収が増えていくと考えられます。
こうなると、組織が官僚化し、活力がなくなってしまうのが普通の日本企業ですが、日本電産の場合は、こうした変化も一番になるための挑戦と捉えていることには留意すべきでしょう。
労働時間の短縮は、例えば工場のトイレを現場近くに移すといった地道な改善などにより実現されていくのです。また、先ほど述べた「三大経営手法」は、海外にこれから本格的に展開されていきます。
一番へのこだわりという理念が日本電産のDNAとして受け継がれていく限り、「普通の日本企業になってしまう」という懸念は杞憂に終わる可能性が高いと思います。
5. 日本電産が求める人材はエリートではなく、ハードワーカーでスマートに頑張る人
繰り返しになりますが、最近の日本電産は「働き方改革」を積極的に進めていますが、一番へのこだわりを捨てたわけでは全くありません。また、「情熱、熱意、執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」の3つは、依然して日本電産の三大経営精神です。
このため、新卒であれ中途採用であれ、これから就職を検討中の方は、”以前よりは楽になっただろう”と考えるべきではありません。
とはいえ、先ほどの『人を動かす人になれ』の中で「大企業は敗者を勝者にするのは手間がかかるし、面倒だと考えているようだが、わたくしの考えは正反対だ」と述べられているように、日本電産は学歴や偏差値の高さではなく、努力を評価する会社です。
将棋に例えれば、「銀」を「金」にするのではなく、「歩」を「と金」にすることを重視する会社であるといえます。今は目立たなくても、これから世界を舞台に挑戦したいという強い志をお持ちの方には、きっと門戸が開かれているはずです。
5.1 読売巨人軍のスポンサーとなり、積極的なテレビCMを行うのは人材獲得のため
日本電産ではここ数年、年間100~200人の新卒採用を行っています。技術系では研究、開発、生産技術、生産管理、品質管理、品質保証、システムエンジニア、知的財産、購買、セールスエンジニアなどが、事務系では営業、経理、財務、法務、広報・IR、総務、人事、経営企画、購買などの職種が募集されています。
また、2018年3月期までに1,000人の中途採用を計画しており(既に500人の採用を2016年末までに完了しています)、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、回路、通信、生産技術などの人材を強化する方針です。
なお、お気づきの方も多いと思いますが、最近、日本電産は積極的にテレビCMを行っています。消費者向けの製品を作っていないのにもかかわらず、高い経費をかけてCMを打っているのは知名度向上、特に採用活動のためであるとされています。それだけ、現在の日本電産は人材獲得に対して熱心であるということです。
5.2 従業員関連データ
日本電産の有価証券報告書によると2016年3月末時点での連結ベースでの従業員数は96,602人、この他に臨時雇用者数が2万6,116人です。このうち、日本電産本体の従業員数は1,985人となっています。
また、日本電産本体の平均年齢は39歳、平均勤続年数は10.4年、平均年間給与は655万円となっています。
6. 日本電産を知るために読んでおきたい厳選3冊
永守氏は、現在の日本を代表する経営者の1人であり、立志伝中の人として語られた本も出版されています。自分にも部下にも非常に厳しい人のようですが、以下の本を読むとユーモアも豊富で人間味にあふれた人であることも理解できます。
学生、投資家だけではなく、これから経営者を目指される方も一読をおすすめしたいと思います。
「人を動かす人」になれ!―すぐやる、必ずやる、出来るまでやる (1998/11)
日本電産 永守重信、世界一への方程式(2013/10/24)
まとめ
いかがでしたか。日本電産という会社が現在の日本では稀有な成長企業であること、また、これからもグローバル企業へとスマートに成長中であることがおわかりいただけたと思います。今後も日本電産の成長と永守氏の経営手腕に注目していきましょう。
LIMO編集部