2021年11月30日に行われた、三菱マテリアル株式会社IR Day(第2部)の内容を書き起こしでお伝えします。第1部の内容はこちらからご覧ください。

スピーカー:三菱マテリアル株式会社 執行役社長 小野直樹 氏
三菱マテリアル株式会社 執行役常務 柴田周 氏
三菱マテリアル株式会社 執行役常務 中村伸一 氏
三菱マテリアル株式会社 執行役常務 長野潤 氏

【IR Day】デジタル化戦略

柴田周氏(以下、柴田):柴田でございます。それではデジタル化戦略についてご説明します。当社の中期経営戦略において、デジタル化を進めることを打ち出しております。

デジタル化戦略

スライドに「本部長 亀山CDO」と記載していますが、昨年度より外部から招聘の上、従来のIT部門だけでなく、カンパニーなどのビジネス部門や、人事部などの機能部門からの人員も加えたDX推進本部を立ち上げて、当社としての「デジタルビジネストランスフォーメーション」を推進しています。

「今を強くする」「明日を創る」「人を育てる」という3つのミッションを設定しており、ビジネス付加価値向上、オペレーション競争力向上、経営スピード向上、およびそれらを支えるデータ基盤の整備、人材強化、風土改革を進めています。

経営改革としてのMMDX

統合報告書でも示していますが、当社は複数の経営改革を一体的に進めています。その中でも、DXはすべての取り組みと密接に関連しており、常に連携しながら進めています。

MMDXの重要視点

スライドには、当社のDXにおける重要視点をあらためて記載しています。スライド左上は、DXテーマの主要ポイントを示しており、顧客との距離を縮めて、競合に追いつき、グローバルで勝つことを目指し、さらに経営基盤を強化することを挙げています。

これらを簡潔な言葉でまとめると、スライド右側のとおり「デジタルを活用して顧客との距離を詰め、現場まで刷新していくこと」が、三菱マテリアルグループとして目指す、「デジタルビジネストランスフォーメーション」への姿となります。

テーマ別の狙いとポイント

スライド左端には、現在進めている21のテーマを記載しています。その右隣の列に、おおまかな適用範囲を示しており、一番上は、プロダクト型事業である加工事業カンパニー、高機能製品カンパニーへ適用するものになります。また、当社では循環型と呼んでいる、いわゆるプロセス型の事業へ適用するものを6個の範囲に大括りして記載しています。

その右側には、当社が進める改革との関係について示しています。テーマの区分ごとに狙いとポイントを示しており、先ほどの説明でも少しお伝えしましたが、例えば加工事業カンパニーにおいては、事業成長のために競合の取り組みに追いつき、グローバルで勝っていく基盤を作るために顧客接点を強化し、プロセス連携を強化します。

そのような中でテーマとしては、マーケットインテリジェンスにおいて、デジタル顧客接点、マーケット情報の活用を行い、お客さまへのソリューション提案力を向上させて、内部的には需給管理を向上させていくことを設定しています。

MMDXの取り組み概要

先ほどお伝えしたとおり、当社は昨年4月にDX推進本部を発足し、歩み始めました。スライドには、発足から1年半経つまでの状況をまとめています。昨年の上期は、経営層を含めたDXへの理解の促進を行い、テーマの設定を行いました。

下期においては、設定したテーマごとに詰めを行いながら、目指す姿の明確化、必要な投資及びリソースの確認、さらには得られる効果の確認などを行い、テーマに対する実行計画の策定を行いました。21のテーマがあるため、計画の詳細度については差が出ており、実行していくスケジュールなどもテーマによって異なります。

スライドには2021年度からが実行フェーズと記載していますが、より具体的に実行に移っているテーマ、まだ機能検証を続けているテーマなど、テーマによって状況は異なっています。ただ、大きく捉えると当社は、今年度からDXの実行フェーズに入ったと言えると思います。

MMDX全体のマスタスケジュール

今後のスケジュールです。スライド左側は「ステージⅠ」で、現在の中期経営戦略期間において何を行っていくかについて、大きなテーマごとに記載しています。スライド右側の「ステージⅡ」においては、次の中期経営戦略期間が3年と仮定した場合の3年間の実行計画を記載しており、トータル6年間のおおまかなスケジュールを示しています。

一部のテーマでは、システムの第1段階が今年度からリリースされていきますが、多くのテーマについては、2022年度あるいは2023年度以降にシステムのリリース、あるいは運用が始まり、全体的に本格稼働フェーズに入る時期は次期中期経営戦略期間になると考えています。

E-Scrap(テーマ⑩)の新プラットフォーム MEX : Mitsubishi Materials E-Scrap Exchange

近々リリースされるテーマについてご紹介します。先ほどの金属事業カンパニーの説明でもありましたが、スライドには「E-Scrap」いわゆる金銀滓の取引プラットフォームである「MEX」について記載しています。

こちらの正式稼働は12月20日を予定していますが、このプラットフォームでは、お客さまにとって「E-Scrap」取引に必要なすべての情報を24時間、いつでも確認できる場所を提供します。

また、いつでもご質問をお寄せいただける問い合わせ機能も備えながら、頻度の多いご質問にはメールや開発中のチャットボットを通じて自動でお答えするなど、双方向でのやりとりを可能としていきます。さらに、大切な金銀を含むスクラップをお預かりするため2段階認証機能の導入など、セキュリティ面の強化も図っていきます。

このようなさまざまな改善により、海外のお客さまをはじめ、これまで当社のプラットフォームの利用が難しかったお客さまにも、ご利用いただくことが可能になっていくと信じています。

今後のアップデートを通じて、機能を追加していくことも考えているため、さらに充実したプラットフォームとして提供できると思っています。

「タレントマネジメント」(テーマ⑳) 目指す姿実現イメージ

「タレントマネジメント」システムについてです。この後ご説明する人材関連の中でも出てきますが、「タレントマネジメント」を開発テーマの一つとして、このDXの中で位置付けています。来年の春頃より、まずは三菱マテリアル本体から稼働させる予定です。

このシステムは、当社全体で進めている、さまざまな人事制度改革を支えるものとして位置付けています。人材情報の可視化、人材の最適配置、次世代経営人材の育成などに活用していき、当社の経営基盤の強化に資するものとして運用していきたいと思っています。

質疑応答:DX全体のスケジュールや「MEX」について

質問者1:1点目は、DX全体のスケジュールにおいて、収益改善による影響の度合いや、要員の削減はこのくらい実現するなど、KPIのように着目すべき経営指標などがあれば教えていただきたいです。

2点目の質問は「MEX」についてです。このシステムにより、従来御社のシステムを活用されていなかったお客さまも使ってくれるのではないかというお話があったと思います。従来のシステムと、このシステムではどのような違いがあるのかをご解説いただきたいです。

また、戦略に対する活動においてどのような点が強みになるのかを、もう少し具体的にご解説いただけないでしょうか?

柴田:DXについて、当社は21のテーマ、および21をサブテーマに分けたかたちで管理していますが、サブテーマごと、あるいは少し大きくまとめたテーマごとに、投資と期待効果について把握しています。そのため、これらが当社内部としてのKPIになります。

ただし、外部に対して、例えば「経常利益、営業利益ベースでこのくらい上げようと思っている」などの内容を示すことができる状態ではありません。その理由の1つとしては、先ほど加工事業カンパニーの中でもご質問いただきましたが、さまざまな投資活動において、例えば海外での営業要員の拡充により拡販する部分と切り分けるなど、非常に難しい部分があります。

これらのことを常にトレースできるかたちで、投資家の方々にKPIとしてお見せできるものはない状況です。ただ、特に事業部門のDXに関して、社内では投資対効果としてトラッキング、モニタリングを間違いなく行っているということをご認識いただければと思います。

一方で、「ERP」のような会計系を中心とした、いわゆる基盤システムの導入、データサイエンスを適用するプラットフォームとしてのデータレイク、データウェアハウスの準備については、これらを単体での効果として算出することがなかなか難しいため、定性的な効果を中心に、社内的なKPIを設定しています。

例えば「データサイエンティストはどのくらいになり、データサイエンスを適用したプロジェクトがどのくらい進んでいくのか」をトラッキングしながら、DXが前に進んでいるかについて、社内で管理していこうと思っています。

2点目について、現在は「エムウィングス」というシステムがあります。廃棄物などを受け入れることができるシステムですが、大きな違いは、「エムウィングス」はあくまでも、取引のポイントのみを対象としていることです。

それに対して今回の「MEX」は、受け入れてからのトレーサビリティを可視化することができるため、「いつ、どのように処理されているのか」「当社側の検量結果としては、金銀の含有量はどのくらいか」「今どこで投入し、製錬しているのか」を知ることができます。

例えば「まだストックされている状態」「すでに製錬されている」などの状況を開示していこうと思っており、従来のシステムとは取引の透明性を高めるという点が異なると思います。

それから「新しく取引する方が本当に増えるのか」に関してですが、従来型では「E-Scrap」を当社に届ける方からすると、正しく評価されて正しく取引されているのかと疑問を持たれている方がいると思います。

当社側からすると、「市場にはこれだけしか本当にいないのか」と思う部分も含めて、当社と、一番はじめに「E-Scrap」を排出してくれる、あるいは集荷のリサイクラー商社との間があまり上手くつながっていない状況でした。

透明性を高めることで、当社とリサイクラーの方々がつながる信頼感の中、当社に対して新たに「E-Scrap」を供給していただける方々が増えていくことを期待しています。

質問者1:そうすると、イメージとしては、これまでリサイクルの材料を排出する方と御社の間に入っていた取扱業者を少なくして、「MEX」のシステムで直接評価することによって中間マージンを削減しつつ、御社との関係性において信頼を構築し取引を広げていく意図があるということでしょうか?

柴田:中間で対応する方が適正な費用を取っていただくことは当然必要なことだと思っています。ただ、当社から、あるいはリサイクラーの方から見ても、不透明な状態でつなぐことはよくないと思います。

我々は、「最終的にこの量で引き取り、この値段をつけてこの処理を行っている」ということを排出の方に示すことによって、中間の方々も適正な価格、適正な納期を設定いただけると思います。この1つのプラットフォーム上で「見える化」を実現することで、全員が納得して進めていけるのではないかと思っています。

質疑応答:IT人材の育成について

質問者2:IT人材の獲得はすごく難しいのではないかと思いますが、内部での人材育成としてIT人材を育成し、ブラックボックス化を避ける施策はとられているのでしょうか? そのような方に対する報酬、リワードも含めた考え方、セキュリティなども大事だと思いますが、そのような点に関しては万全な状況でしょうか? 

柴田:他の企業では、例えばSAP社の「ERP」などを導入しているところが多いと思いますが、実は当社は会計系、受発注、保全などの基盤システムを手作りしています。今回、そのようなものは基本的に刷新していこうということで、我々はクラウドベースの標準的なシステムに移行していこうと思っていますが、現在、子会社のシステム運用会社に、自作の基盤システムを構築し運用する100名規模の人材がいます。

それに加えて、当社の内部にもシステム系の人材が数十名おり、内部人材は製造業の他社と比べると比較的厚めにいるという特徴があります。これらを土台にして、これから必要となってくるデータサイエンスの領域や、先ほどご質問にもあった、セキュリティに関する専門家も育てていく必要もあると思っており、今後そのような人材をさらに加えていく必要があると思います。

現在、どうしているのかと言いますと、データサイエンスに関しては、一部中途採用を含めて採用を開始しています。また、海外の人材も含めて、新卒相当の若い方の採用も進めているところです。さらに、中央研究所などの、いわゆる実業部門においてもデジタルに強い人材になる教育を実施して、実際に実践する人材も増やしています。

しかし、やはりまだ足りない状態であり、先ほどのご質問にもありましたが報酬という意味では、我々の報酬体系において、高度なデータサイエンスの中では、なかなか処遇しづらい方もいるため、そのような方については契約で業務を行っていただくかたちをとっています。

セキュリティについては、セキュリティ専門の方とコンサルティング契約を実施し、当社のセキュリティについて再検証しながら次の手段をいろいろと打つなど、一緒に考えてもらっています。

今後は、やはりセキュリティ、データサイエンス、データベース系の専門家を内部でさらに充実させていく必要があり、今の2倍、3倍の人員にする必要があると思っています。

質疑応答:DXによる効果について

質問者3:最初のご質問に対する答えにもありましたが、効果を測る場面において、「営業要員の拡充によって拡販効果となる部分などと区分することが難しい」というお話があったと思います。内部としても、効果の把握はなかなか難しいのではないかと思いますが、どのように効果を測っているのでしょうか?

柴田:他社もこのあたりをけっこう悩まれているようなのですが、DXだけで効果を切り出そうとすると、他の設備投資効果、営業要員、いわゆる人員拡充の効果などとの切り分けが難しく、DXに残った部分のみを見ると小さくなってしまう実態があります。

実際に切り分けていくと、事業部門からは思ったよりも効果が小さいかたちでしか出てこない中で、投資に踏み切ることを考えていく必要があります。実は今、なかなか難しい判断を行っている状況です。

当社では何を行っているのかと言いますと、このDXによって確実に得られるであろう効果をベースとして、他の効果と組み合わせることで大きく効果が出るのではないのかという部分を、アップサイド側のものとして考え進めています。そして、各テーマの定性的な効果も含めて検証しながら、進めております。

【IR Day】安全・品質・ものづくり

中村伸一氏:中村でございます。よろしくお願いします。スライドの内容に沿ってご説明していきます。

安全衛生への基本的な考え方

まず、安全衛生活動についてです。スライド左側の図のとおり、企業理念からビジョン、価値観、行動規範に展開されており、「私たちは、安全と健康をすべてに優先します」を行動規範としています。社員の安全・健康なくしては、その家族の幸福もなく、会社の発展もありえないという考えに基づくものです。

ゼロ災プロジェクト

スライド左側の図のとおり、安全管理についての推進体制を構築しています。また、2014年からは「ゼロ災プロジェクト」を立ち上げて、グループ全体の安全衛生基盤の強化に取り組んでいます。

このプロジェクトでは休業4日以上の災害ゼロを目標としていますが、スライド右側のグラフのとおり、年間10人から30人ほどの罹災者を出している状況です。そのため、さらなる取り組み強化が必要だと考えています。

リスクアセスメントによる設備安全化の徹底(2021年度重点実施事項)

現在の施策としては、リスクアセスメントによる設備安全化に取り組んでいます。これは、各事業拠点において実施計画を策定し、リスクを拾い上げて是正処置を行い、それに対してレビューするというサイクルです。また、その活動の結果を全社視点でモニタリングして、新たな気づきを得た上で全社のPDCAサイクルも回しています。

安全衛生教育活動の推進

それに加えて、社員一人ひとりの安全教育もしっかり行う必要があると考えています。実際に機械を使う人は、その操作方法については十分に教育を受けていると捉えていますが、その機械の中にどのような危険があるのか、あるいはどのように災害につながるのかについても、知識としてしっかり維持してもらうのが大事だと思っています。

このような全社的な教育のために、スライド左側の写真のとおり、2017年にさいたま市に安全衛生教育センターを設立しました。資料を見ながら進める座学に加え、危険意識への訴求力が強い体感教育を行う50種類の設備を整えています。また、講師についても専門知識に長けた人材を複数名配置し、質の高い教育レベルを担保しています。

さらに、スライド中央の写真のとおり、2018年にはVRによる危険体感教育システムも導入しました。スライド右側のグラフのとおり、年間のべ4,000人ほどの社員が受講している状況です。

安全・安心DXへの取り組み

DXの活用による取り組みも検討中です。データの利活用、危険の感受性の高い人材の育成、ヒトの五感のサポートという視点で具体策を検討しています。

先ほどもお伝えしましたが、安全管理についてはさらなる強化策が必要だと考えているため、これまでとは少し異なるアプローチも実施しています。これらの具体策の効果について期待しながら、今後も取り組みを進めていきます。

品質管理体制について

品質管理戦略についてです。当社では「顧客の要求に合致し、顧客に満足していただける一級品の品質の製品を製造し、提供する」を当社グループの品質方針としています。

製品の製造は各カンパニー、事業部門で行っており、スライドの図のとおりに品質マネジメントが回っています。そして、これらの適正維持のために、コーポレート部門の安全環境品質部が支援・指導しています。

品質問題再発防止策への取組み

2017年に品質問題が判明し、その再発防止策として、スライドの表に記載の①から⑥の施策を実施してきました。その結果、現在では不適合な製品を流出させない体制の基礎固めはできていると認識しています。

検査設備自動化の推進状況

品質問題再発防止策の1つである検査設備自動化の推進については、2018年度からの3ヶ年で実施し、2021年3月に計画を終了しました。スライド左側のグラフのとおり、4,500式以上の検査設備の自動化が完了し、目標を達成しました。

この自動化とは、主に最終検査工程でのデータの自動転送のことを指しています。人の手を介さずにデータを扱えるため、書き換えなどの不正行為は防止できていると考えています。

攻めの品質へ

また、これからは「攻めの品質」、すなわち当社グループのブランド資産としての「品質」を確立すべく、不適合品を発生させない設計・設備・工程の最適化に向けて取り組んでいきます。2025年度までにはモデルラインでの完了を目指しています。

「ものづくり力別格化」の実現にむけて

ものづくり戦略についてです。当社にはプロセス型とプロダクト型の事業があり、どちらも「ものづくり力別格化」を目指して日々活動しています。

その実現のために、スライドの図のような全体像を描いて取り組んでいます。スライド左側には、コーポレート部門による研究開発や生産技術の支援を行う機能を示しており、スライド右側には各事業部門・各製造拠点での取り組みを示しています。

工場の実力評価を行い、課題設定をする経営フレームワークと、事業戦略に基づくビジョン策定を連携させます。これにより、ものづくり力を別格化し、事業競争力を高めていくという取り組みです。

生産プロセス高度化の概要

また、生産プロセス高度化というスキームも用意しています。工場単独では対応できそうもない難易度の高い課題や、事業をまたぐ共通課題などの解決のために、本社主導で最新技術を活かしたシステムや設備を開発・導入しています。

生産プロセス高度化の活動状況

具体的には、スライドの表に記載のとおり、重要設備の予知保全、AI画像処理による製品外観検査の自動化などのテーマを設定しています。参考値として投資額も記載しましたが、まだそれほど大きなものにはなっていない状況です。

今後は、このようなテーマをどんどん拡大し、我々の技術レベルを上げていきたいと思っています。また、スライド下部にあるとおり、ものづくりに必要な要素技術の自前化にも並行して取り組んでいきます。

私からの説明は以上です。ご清聴ありがとうございました。

【IR Day】ガバナンス・人的資本

長野潤氏(以下、長野):長野と申します。よろしくお願いいたします。本日は、ガバナンスと人事に関する5つの事項についてご説明します。

ガバナンス・コンプライアンス体制の強化

まず、ガバナンスに関する取り組みについてです。当社グループにおいては、2017年の品質問題以降も、2019年の独禁法違反に対する課徴金納付命令などの行政処分や、2020年の利益相反取引事案といったコンプライアンス違反が判明している状況です。

それぞれの事案については、原因の究明と再発防止対応の徹底を図っています。加えて、グループ各社への横展開を図り、グループとしてのコンプライアンス・ガバナンス体制の強化にも取り組んでいます。しかしながら、コンプライアンス違反事案の発生を根絶できていない現状を踏まえ、引き続き再発防止対策の徹底とコンプライアンス・ガバナンス体制の強化に取り組む必要があると認識しています。

独占禁止法遵守に向けた当社グループの施策

独占禁止法遵守に関する当社グループの施策についてです。国内の事業所長やグループ会社社長が集うグループ経営会議だけでなく、海外子会社の社長および経営幹部層の会議である海外代表者会議においても、競争法の遵守を徹底するようトップメッセージを発信しています。

今年度以降は、国内においては個別の施策の運用強化と、施策内容のブラッシュアップを図るとともに、各社での遵守体制の実効性の向上に取り組みます。また、海外においては、各国・各地域の法制に即した遵守体制の構築強化に取り組むこととし、競争法遵守規定とガイドラインの設定、そして教育プログラムの整備を中心とした体制を構築していきます。

内部統制強化策の実施状況

米国のロバートソン・レディ・ミックス社の利益相反取引事案の再発防止策として、海外子会社も含めてグループ展開している施策については、スライドに記載のとおりです。

取締役会等の開催状況

取締役会の実効性向上に関する取り組みをご説明します。まず、取締役会の開催状況についてです。毎月の定例取締役会に加えて、決算などのために開催する臨時取締役会を含めて、4月から11月までの間に14回の取締役会を開催しました。ちなみに、昨年度は年間で20回開催していました。

各委員会については、スライドに記載のとおりです。スライド右上にあるとおり、報告事項が108件、決議事項が24件でした。

当社では決議事項・報告事項とは別に、取締役が自由に意見交換することを目的とした協議事項という議題を設定しています。サステナビリティ、重要な経営戦略、取締役会の実効性評価などについて審議・協議を行っています。

また、重要な決議事項案件に関して、事前に十分な審議・議論を行う場としても活用しております。個別の議題と内容、審議の回数などについては、スライドの表に記載のとおりです。

社外取締役による監督機能の強化

取締役会以外での社外取締役の活動についてです。社外取締役の方には、社長との個別のミーティング、機関投資家のみなさまとのスモールミーティング、社外取締役間での情報共有・意見交換、そして従業員との対話機会などに対応していただいています。

また、取締役に就任した後も継続的に各事業やコーポレート部門の施策に関する理解を深めていただくことを目的として、各事業やコーポレート部門の業務についての説明の場を設けています。

技術開発見学会や開発戦略会議にも出席いただき、技術開発・研究開発に関する状況把握や知見を深めていただく機会も提供しています。

取締役会のさらなる実効性向上に向けた2021年度の主な取り組み

取締役会の役割と責務を十分に果たすための施策についてです。2021年度は、スライドの表に記載のとおりに対応しています。

2021年度の取締役会の実効性評価については、第三者評価を行うこととしています。従来は取締役会事務局が作成したアンケートに基づいて評価を行っていましたが、取締役会のさらなる実効性向上対応の一環として、外部コンサルタントを起用して実施することとしました。

コーポレートガバナンス・コード改訂の対応

コーポレートガバナンス・コード改訂の対応についてです。今回の改訂において、取締役会の機能発揮やグループガバナンスに関する要請については、当社として概ね対応できていました。一方、サステナビリティと多様性の確保は追加対応が必要だったため、この2つを中心に体制を整備してきました。

改訂コーポレートガバナンス・コードに対応したCG報告書については、12月1日付で東証に提出する予定ですので、詳細についてはそちらをご覧いただければと思います。

サステナビリティ基本方針の制定とコーポレートガバナンス基本方針の改訂を実施し、それに関連する行動規範、人権方針、環境方針、調達方針、そして女性活躍推進基本方針などの各規程を制定・改訂します。

政策保有株式の縮減

政策保有株式の縮減状況についてです。9月末時点の実績ですが、スライド左側に売却額、スライド右側に保有残高と連結純資産比を記載しています。

ヒューマン・リソース・トランスフォーメーション(HRX)

人的資本に関する取り組みについてご説明します。現在取り組んでいる一連の人事改革は、ヒューマン・リソース・トランスフォーメーション(HRX)と称し、従業員への周知と浸透を図っています。

中期経営戦略における人事人材戦略は、変化に適応する人材の確保・育成と健全な組織風土の形成により、グループ経営の強化を図るとともに、社会的価値向上に沿った施策を展開し、当社グループの持続的成長を促進することを目標としています。人、組織風土、社会的価値向上の3つの視点から戦略を展開しています。

HRXの施策としては、スライドの図にある①のとおり、事業競争力の強化と役割の明確化を目指して、来年4月から管理職における職務型人事制度を導入予定です。そして、完全カンパニー制におけるグループ経営を見据えた次世代経営人材の育成制度を刷新します。

また、スライドの図にある②のとおり、自律的なキャリア形成に関する環境整備の一環として社内公募制度を導入します。加えて、職務型人事制度にマッチした新しい研修体系を構築します。

完全カンパニー制における円滑な人材マネジメントの運用については、各カンパニーにHRBPを配置し、全社横断的な組織として人材委員会を設置します。また、システム面の基盤の整備として、来年2月からタレントマネジメントシステムを稼働させます。これにより、人材情報の見える化やデータに基づくキャリア管理、人材活用の仕組みを強化します。

そして、スライドの図にある③のとおり、改訂CGコードの要請を踏まえた中長期的な企業価値向上に向けた基盤作りの一環として、今後もダイバーシティ&インクルージョンを推進してまいります。

ダイバーシティ&インクルージョン

ダイバーシティ&インクルージョンについてです。特に女性活躍に関しては精力的に取り組んでいます。

従来の女性活躍推進基本方針を「女性活躍支援に関する指針」として再定義し、意思決定層である管理職における女性の割合について、2025年度までの目標値を設定しています。また、多様性に関する測定可能な目標については、スライド左下に記載のとおりです。

ダイバーシティ&インクルージョンに関する主な取り組み

ダイバーシティ&インクルージョンの個別の対象における取り組みについては、スライドに記載のとおりです。私からのご説明は以上です。ご清聴ありがとうございました。

質疑応答:取締役会の実効性について

質問者1:取締役会の実効性に関して、実際の状況をお伺いします。社外取締役にはMUFGグループ出身の方もいらっしゃると思うのですが、そのような方々がいる中で、企業価値の向上についてモニタリングに特化した活発な議論ができているのでしょうか?

長野:お伝えしたとおり、取締役会・委員会は数多く開催しています。議論の内容は、決議事項・報告事項などに限らない協議事項として、さまざまな議論をしていただいています。社外取締役のみなさまのキャリアに基づいた多様な意見が出てきますので、活発な議論は行われていると認識しています。

質疑応答:取締役のスキルマトリックスについて

質問者2:御社の株主総会の招集通知に記載されている取締役のスキルマトリックスを見ると、法務と財務の専門家は多いのですが、他社と比べて多様性が少ない印象を受けます。御社の経営課題に即した専門性を持つメンバーがいることがわかる見せ方をしたほうがよいと思ったのですが、そのあたりについてのご意見をお聞きしたいです。

小野直樹氏(以下、小野):小野からお答えします。当社の社外取締役は、他社の企業経営経験者が多いです。そのため、バランスを保つ意味でも、研究開発やプラントの運営などの技術・ものづくり系に強い方も2名ほど入っていただいています。

また、企業経営のみならず、別の組織の運営経験がある方も入っています。このような状況ですので、著しく偏ったメンバーだとは私自身は考えていません。

質問者2:私もそのようには思っていないのですが、見せ方はもう少し工夫できるのではないかと思いました。

小野:スキルマトリックスのカテゴリのわけ方ですかね。

質問者2:例えば、企業経営、国際性、法務、財務に丸がついている人が10人中7人いるのですが、このパターンは珍しいと思います。少しでも違う見せ方ができるとよいのかもしれません。

小野:企業経営・組織運営が非常に広いカテゴリになってしまっているため、そのあたりの違いをうまく表現できていないのはご指摘のとおりだと思います。来年に向けて、少し検討してみます。

質疑応答:海外でのガバナンス・コンプライアンスの強化について

質問者3:御社のように多角化が進んでいて、かつグローバル展開している企業にとって、内部統制やガバナンス体制の強化は難しい部分もあると思います。昨年のロバートソン・レディ・ミックス社の件もあり、例えば、社外取締役の比率は同業の中では一番高く、ガバナンス体制の強化も形式的にはきちんと進んでいるように見受けられます。

しかし、これらの取り組みをグローバルでも徹底していくための工夫こそが重要だと思います。海外内部通報制度などのお話もありましたが、グループ全体、特に海外拠点も含めた体制の変化・強化を徹底させるための工夫をお聞かせください。

長野:ご指摘のとおり、ガバナンスの体制については指名委員会等設置会社の移行なども含めて、形式的には整ってきています。しかし、依然としてさまざまな不祥事を起こしている現実はきちんと認識しなくてはいけないと思っています。

まずは、事象が起こった際にきちんと分析して、原因を究明して、再発防止策を行い、それをグループ展開していくというように、地道に一つひとつこなしていくことが大事だと思っています。このような地道な活動を積み重ねることで、グループ全体での意識の向上を図ることが重要だと考えています。

特に、ロバートソン・レディ・ミックス社の件にみられるように、海外子会社に対するガバナンス・コンプライアンスが手薄になっていたところもあると思います。今後は漏れがないように進めていきたいと考えています。

小野:監査部は私が直接担当していますので、少し補足します。昨年から今年の前半にかけては、新型コロナウイルスの影響でなかなか海外子会社にリーチできませんでした。しかし、この秋以降は米国に監査部の人員を駐在させており、そこから北米内あるいは欧州内へと、必要に応じて機動的に監査を行えるように体制を整えました。これにより監査の回数を増やすことも可能になりました。

このように監査体制はかなり強化していますが、監査だけですべてをカバーできるわけではありません。そのため、先ほどお伝えした内部統制策をそれぞれの会社の中で実施しています。監査と内部統制の両面から、ガバナンス・コンプライアンスの強化を進めていきたいと考えています。

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