緊急会見当日の急落に続き株価はストップ安に

暮れも押し迫った2016年12月28日、東芝の株価はストップ安で始まりました。前日に緊急会見を開催し、米国の原子力関連子会社の買収に伴うのれんの巨額減損リスクが明らかにされたためです。

とはいえ、減損の可能性は前日のテレビや新聞で既に報道されており、27日の株価も大幅安で引けていました。そこで、“なぜ、2日連続での大幅安となったのか”、会見内容を振り返りながら考えてみたいと思います。

減損額は数千億円

会見において東芝は、2016年12月に買収した原子力の建設等を行うCB&I社傘下のCB&Iストーン・アンド・ウエブスター社(以下S&W社)の、のれんが当初想定の105億円とは一桁違う数千億円に達する見込みであることを認めました。

ちなみに、数千億円という曖昧な表現になっているのは現在もなお精査中であるためで、正式な数値は来年2月中旬の2017年3月期第2四半期決算で発表される予定です。なお、会見では「数千億円の上限は5,000億円か?」という質問がありましたが、会社側は否定も肯定もしませんでした。

以前から”要注意会社”だった震源地のS&W社

実は、今回問題となっているS&W社については、以前から業績の攪乱要因になる可能性がある事業として株式市場から関心を集めており、会社側も2017年3月期第1及び第2四半期の決算説明資料で内容を開示していました。そのポイントを簡単にまとめると以下のようになります。

  • 東芝の子会社であるウエスチングハウス(以下、WEC)とCB&I社は、東芝が買収するS&W社の運転資本の金額について、契約上の金額と実際の金額との差異について協議中。
  • WECは、運転資本額は契約上合意済の金額である1,174百万ドルを2,151百万ドル下回る▲977百万ドルと認識。
  • 一方、CB&Iは契約上合意済の金額である1,174百万ドルを428百万ドル上回る1,602百万ドルと認識。
  • 運転資本額が契約上合意済の金額を下回った場合には、契約上、その差額をCB&IがWECに対して即時支払う(東芝・WECの主張)。
  • その反対の場合は、米国での4基のAP1000建設完了後にWECがCB&Iに対して支払う(CB&Iの主張)

このように、両者の間には大きな見解の隔たりがあったことは以前から周知の事実です。そのため、S&W社は株式市場からは要注意会社と見られていました。

問題は運転資本評価額の差異だけではなかった

最初の報道を見た筆者も、数千億円の減損は、“CB&Iが契約を反故にして、運転資金の差額を支払わないためではないか”、と推測していました。

ところが、会見では、減損が発生する理由は2016年12月末までに完了しなくてはいけない米国会計基準に従って資産、負債を精査した結果、コストの大幅な増加により資産価値が当初の想定を大幅に下回ったためとされ、上述した運転資本の調整の影響だけではないことが明言されました。

平たく言えば、既に売掛金として計上されている流動資産の資産価値、つまり過去に計上されたコストだけではなく、将来発生する可能性が高いコスト(受注損失引当金)も資産価値の低下に影響を与えるリスクが高いと認めたことになります。

財務体質の悪化だけではなく内部統制の不備も大きな懸念

この点に関しては、これまで決算では全く開示がなされてこなかったため、大きなサプライズであることは当然です。

しかし、それ以上に気になることは、WECのデューディリジェンス(DD:買収時に相手側の資産内容を精査する活動)の不備を東芝が見抜けなかったのではないか、という疑念をもたらすことです。買収からたった1年間でこれだけの差額が発生することは通常では考えられないからです。

そのため、巨額減損の計上により過小資本の状態がさらに悪化するという危惧は当然にせよ、それを上回る懸念として浮上するのが、現在東証から「特設市場銘柄」に指定されている東芝が内部統制の改善を認められその指定が解除されるかどうかということです。

というのは、東証は12月19日に東芝に対して特設注意市場銘柄の指定を継続すると発表し、2017年3月15日以後に東芝から再提出される内部管理体制確認書の内容等を確認し、内部管理体制等について改善がなされなかったと認められた場合は、同社株式は上場廃止とするとしているからです。

よって、「今回のような事案が明らかになったことで上場廃止の可能性が拡大することは避けられない」という懸念の高まりが、2日連続の大幅安の大きな一因ではないかと筆者は考えます。

 

和泉 美治