2016年という年は、ヘッジファンド業界にとって厳しい1年でもありました。トランプ氏が大統領選を制したことで息を吹き返したヘッジファンドもあった一方で、大口の機関投資家がヘッジファンド投資から一切撤退したり、パフォーマンスの不調が報じられた大手ヘッジファンドなどもありました。
しかし、ヘッジファンドはまだまだ注目を集める存在であることに変わりはないようです。
ヘッジファンドは大きいのか小さいのか?
そもそもですが、皆さんはヘッジファンド業界がどのぐらいの大きさかご存知ですか? 「市場に影響を与えると言われているのだから、かなり大きな業界のはずだ」と思われているかもしれません。
2016年のヘッジファンド業界全体の運用資産残高について見てみますと、様々なリソースによると約3兆ドルという数字が出てきます。1ドルを単純に100円換算すると300兆円となります。
この数字だけ見ると巨額であることに違いないですが、世界最大の資産運用会社(米国のブラックロック社)1社の運用資産残高よりも少ないと聞くとどうでしょうか。「そんなに大きくないんだな」というのが正直な感想かと思います。
特定の資産クラスでヘッジファンドの活動シェアが高い場合があったり、著名なヘッジファンド運用者の発言がメディアに大きく取り上げられたりしますが、業界としてはまだまだ小さいのです。
ヘッジファンドのレバレッジはどのくらいの倍率?
「ヘッジファンドはレバレッジを使っているから300兆円程度の運用規模では済まないはず」と考える方もいるでしょう。正しい認識です。
また、レバレッジというとFX取引のイメージで数十倍のレバレッジを取ることが普通と考えるかもしれません。従前はそのような高水準のレバレッジを形成したことで命取りとなったヘッジファンドがあったのも事実ですが、現在はそのような無謀とも言えるレバレッジを取るヘッジファンドを見つけることは困難です。
統計によると、ヘッジファンドのレバレッジは1.5倍から2倍程度が中心と言われています(出所: National Bureau of Economic Research 2011年2月)。筆者の肌感覚としてもズレはありません。
少々話がそれますが、「レバレッジなんて怖い、自分には縁がない」と思う方も多いはずです。ただ、レバレッジは我々の生活の中にも存在しています。たとえば、住宅ローンもレバレッジを利用した取引です。6,000万円の物件に自己資金600万円で残りは住宅ローンを利用すると、10倍のレバレッジを取ったことになります。
ヘッジファンドで注視すべき点は?
このように、「ヘッジファンド業界は世間で言われるほど大きくはないんだな」ということが見えてきますが、注視すべき点もあります。
ヘッジファンド運用者には、投資銀行のプロップ部門(いわゆる自己売買部門)に所属していたメンバーが多く、思考や行動の特性、情報交換ネットワークなどの点で共通点があり、複数のヘッジファンドが意図せずとも似たようなポジション構築となる現象を指摘する人たちがいます。
また、コンピュータシステムで運用するヘッジファンドは、市場トレンドを追随する中でトレンド形成自体を強化する要因になりうると報告する研究結果もあります。
ヘッジファンドについてはまだまだ誤解が多いのが現状ですが、ぜひ実際の姿を正しく知っていただきたいと思います。
小田嶋 康博