本記事の3つのポイントの見出し
- ソフトバンクはロボット分野において、Pepperに次ぐ第2、第3の矢として「清掃」「配膳・運搬」分野に注力
- 近年ではベンチャー企業への出資などを通じて、物流関連での事業拡大にも関心を寄せている
- また、AI分野に集中投資を行っており、AIと親和性の高いロボットへの重要性が今後高まっていくことが予想される
4~5月にかけて2020年度の決算が多数発表された。そのなかでもっとも注目を集めた発表の1つがソフトバンクグループだろう。純利益が4兆9879億円を記録し、国内企業として過去最高となった(これまでの最高はトヨタ自動車が17年度に2兆4939億円を計上)。グローバルでみても、20年度の純利益ランキング1位の米アップル、2位のサウジアラビア国策石油会社サウジアラムコに続く世界3位であった。投資事業の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」において、投資先企業のIPO(新規株式公開)が相次いだことが牽引役となった。
現在、ソフトバンク・ビジョン・ファンドだけでも224社に出資しており(20年度末時点、ソフトバンクラテンアメリカファンド出資分も含む)、ソフトバンク・ビジョン・ファンド以外でもソフトバンクグループ傘下の企業が出資しているケースも多数ある。その出資先をみるとロボット関連企業も多くあり、その出資企業からソフトバンクグループ傘下でロボット関連事業を展開するソフトバンクロボティクスの戦略も見えてくる。
ロボット製品群を着実に拡大
ソフトバンクロボティクスは、ソフトバンクグループにおいてロボット製品・サービスを提供する事業会社として14年7月に設立され、これまでに2500社以上に導入されている人型ロボット「Pepper」(ペッパー)をはじめ、AI清掃ロボット「Whiz」(ウィズ)や配膳・運搬ロボット「Servi」(サービィ)などを展開。2月にはアイリスオーヤマ㈱(仙台市青葉区)と、合弁会社のアイリスロボティクス㈱を設立するなど、法人向けのサービスロボット事業を強化している。
もともとソフトバンクグループがロボット事業に参入したのは、12年に仏アルデバランロボティクス社(16年5月にソフトバンクロボティクスヨーロッパへ社名変更)に出資したのが始まり。アルデバランは05年設立のロボット開発会社で、同社が開発した小型2足歩行ロボット「NAO」(ナオ)は、研究や教育用途で5000体以上出荷されている。そのNAOの技術をベースに、ソフトバンクとアルデバランは12年から共同開発を開始し、14年にPepperを発表した。
そしてPepperに続く2種目のロボットとして19年5月より出荷されているのが、AI清掃ロボット「Whiz」である。Whizの中核技術となっているのがブレイン・コーポレーション(米カリフォルニア州サンディエゴ)のAIソフトウエア「Brain OS」という技術。既存の商用機器に同社のOSを組み込むことで、周辺環境を検知しながら自律移動できる知能ロボットへと進化させることができる。Whizは、日本のみならず、香港、マカオ、シンガポール、米国などでも販売されており、20年6月末には世界販売台数が累計1万台を突破し、業務用自律清掃ロボット販売数で世界シェアNo.1(Grand View Research社調べ)を獲得した。
そしてソフトバンクロボティクスが直近で最も注力しているのが、配膳・運搬ロボット「Servi」だ。ロボットベンチャーのBear Robotics(米カリフォルニア州)と共同で開発し、2月から出荷を開始した。現在までに約100ブランドでの採用が決定しており、「焼肉きんぐ」などを運営する大手飲食チェーンの㈱物語コーポレーションが310店舗に計443台のServiを導入する方針を示すなど、飲食店を中心に、小売店、宿泊、商業・娯楽、倉庫、オフィスなどでも導入が進んでいる。
出資企業の技術をロボ開発に活用
Pepper、Whiz、Servi、この3製品には共通点がある。それはソフトバンクロボティクスが単独で開発したものではなく、ロボット関連ベンチャーの技術を活用しているという点だ。先にも述べたとおり、Pepperにはアルデバラン、Whizにはブレイン・コーポレーション、ServiにはBear Roboticsの技術が活用されている。そしてソフトバンクグループは、この3社にすべてに出資している。
例えば、ブレイン・コーポレーションは17年に1億1400万ドルの資金調達を実施しているが、その際にリードインベスターを務めたのがソフトバンク・ビジョン・ファンド。ブレイン・コーポレーションは20年4月にも3600万ドルの資金調達を実施しているが、その際のリードインベスターもソフトバンク・ビジョン・ファンドだった。Bear Roboticsは、20年1月に3200万ドルの資金調達を実施しているが、その際にリードインベスターを務めたのがソフトバンクグループだった。
つまり、ソフトバンクグループでは技術力の高い海外ロボットベンチャー企業に出資し、その技術を活かしてソフトバンクロボティクスで新たなロボット製品を生み出したあと、ソフトバンクグループのネットワークを活用して販売を拡大する戦略をとっている。これはロボットに限った話ではなく、例えば、ソフトバンクが提供しているスマートフォン決済サービス「PayPay」も、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資しているインド最大の決済サービス事業者「Paytm」と連携して開発されたもので、世界の有力ベンチャーに多数出資しているソフトバンクグループならではの取り組みといえる。
物流ロボット関連企業に出資
そして最近、ソフトバンクグループが出資したロボット企業をみると、大型の屋外型配達ロボットを展開する「Nuro」、物流施設向けの自動搬送ロボットを扱う「クイックトロン」、屋内用の自走式ロボットを手がける「Keenon Robotics」、倉庫型ロボティクス製品を展開する「AutoStore」、物流施設向けのロボットシステムを手がける「Berkshire Grey」などがある。これらの企業に共通するテーマが物流だ。特に物流施設作業の自動化技術に強みを持つ企業が多く、21年4月には、Berkshire Grey、ソフトバンクロボティクス、ソフトバンクグループ傘下でフルフィルメントサービスを展開するSBロジスティクスの3社がパートナーシップ契約を締結した。
Berkshire Greyは、米マサチューセッツ州に本拠を置き、掃除用ロボット「ルンバ」などで知られるiRobotの元CTOトム・ワグナー氏によって13年に設立された企業で、アーム型ロボットを活用した独自のピースピッキングシステム「AUTOPICK」などを展開している。ロボット、AI、コンピュータービジョン、センサー、グリッパーなどを高度に融合したシステムで、ティーチングレスで幅広い商品の仕分けが行える。
同社は、20年に2億6300万ドルという大型の資金調達を実施したことでも注目を集め、その際にリードインベスターとしてソフトバンクグループが名を連ね、2月にはSPAC(特別買収目的会社)との合併を通じて上場することも発表した。
そして、Berkshire GreyはソフトバンクロボティクスやSBロジスティクスと連携し、物流施設向けのロボットシステムなど、最先端の物流関連サービスを日本市場向けに提供を開始。この取り組みの一環として、SBロジスティクスが運営する「市川ディストリビューションセンター」(千葉県市川市)において、ソフトバンクロボティクスがBerkshire Greyのロボットシステムを設置し、人手によるピッキング作業と梱包作業を自動化した。
こういった取り組みはソフトバンクロボティクスならびにソフトバンクグループが物流分野で積極攻勢をかけることを示唆しているともいえ、今後の動きが注目される。また、ソフトバンクグループでは、AI分野に集中投資を行うなか、AIと親和性の高いロボットへの重要性が今後高まっていくことが予想され、ブレイン・コーポレーション、Bear Robotics、Berkshire Greyのような連携事例がソフトバンクグループにおいてさらに増えることになるだろう。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島 哲志
まとめにかえて
ソフトバンクはベンチャー企業への出資やパートナーシップ契約を通じて、ロボット分野の事業拡大を図ってきました。Pepperを皮切りに、AI清掃ロボットや運搬・配膳ロボットなどを手がけており、さらなる事業領域拡大に期待が集まります。豊富な資金力をベースに、今後もロボット分野への投資が続くと見られています。
電子デバイス産業新聞