金利低下に苦しむ銀行の業績

主要銀行の2016年4-9月期の決算が発表されました。なかなか厳しい決算です。

その第一の要因は、最大の収益源である資金利益の減少です。銀行は基本的に預金を集めて貸出や国債などの有価証券で運用し、利ざやを上げるのが本業です。銀行にとって資金を集める(資金調達する)コストである預金金利は既にゼロに近いレベルにあります。調達コストが下げられない中、貸出金利や有価証券の利回りの低下が続き、そのさやが縮小しているのです。

たとえば、三菱UFJフィナンシャル・グループの中核である三菱東京UFJ銀行と三菱UFJ信託銀行の合算ベースを見ると、国内業務部門の貸出金利回りは0.81%で対前年同期比▲0.09%ポイント低下しています。これに対して預金等利回りは0.02%で同▲0.02%ポイントの低下にとどまり、その差である預貸金利回り差は0.79%、同▲0.07%ポイントの低下になっています。

利ざやが縮小しても貸出金が大きく伸びれば資金利益は増えるのですが、マイナス金利政策を採用しても残念ながら貸出の伸びが加速しているとは言えません。

銀行は、このような利ざやの減少に対応して営業費用を柔軟に変動させることが今のところできません。店舗、システム、人員などを簡単に減らすことは難しいのです。その結果、粗利の悪化が利益の悪化に直結しやすいと言えます。

三菱UFJフィナンシャル・グループの連結決算は、先に述べた資金利益の悪化を主因として業務粗利益が19,694億円で同▲1,397億円減少し、業務純益が7,254億円で同▲948億円減少、経常利益は7,948億円で同▲1,750億円減少する結果になりました。

ゆうちょ銀行も金利低下に苦しむ

利ざやの低下に苦しんでいるのはゆうちょ銀行も同様です。

2016年4-9月期、業務粗利益は7,163億円で同▲431億円減少しましたが、この主因は資金利益の減少▲701億円です。この結果、業務純益が1,853億円で同▲425億円減、経常利益が2,124億円で同▲392億円減となりました。

しかし、ゆうちょ銀行に逆風だったのは国債からの受取利息の減少です。貸出はごくわずかですので、国債の金利低下が業績に響いているのです。

ゆうちょ銀行は貸出よりも有価証券の運用力強化に進む

これまで貸出がほとんどなかったゆうちょ銀行が、メガバンクや地銀が行っている貸出業務を行うのはなかなかハードルが高いと思います。貸出先との関係を築いて審査力を培うことには時間を要するからです。

金融バブル崩壊後、いくつかの銀行が外資系の手に渡りましたが、それほど業容を拡大することなく今日に至っています。それだけ参入障壁が高いと言えそうです。マクロ的に言っても高齢化、人口減少が進む日本で総貸出額が今後急増するとは考えにくいと思います。

したがって、貸出業務を無理に拡大するよりも、有価証券の運用力を高めて国債の低金利時代を乗り切ろうとするのは理にかなっているように思われます。

しかし、たとえば外債や株式、デリバティブなどで運用収益を高めるということは、それだけリスクも増え複雑化するということになります。しかも、ゆうちょ銀行の資産規模が大きいため、本格的に市場で動けば自分自身の売り買いで自分のポジションを痛めることも考えられます。

群雄割拠の資本市場で勝ち残るのは簡単ではありません。ゆうちょ銀行の株主にとってみれば、増えるリスクに見合うリターンをゆうちょ銀行がしっかり上げられるのか、大変気になることでしょう。

フィンテック:ゆうちょ銀行にいま貸出がないことを逆手に取るチャンス

ゆうちょ銀行はいま貸出がほとんどないことを逆手に取るべきではないでしょうか。

今、流行のフィンテックですが、この中での重要な試みの1つが、個人等のインターネット上での様々な振る舞いをもとにその信用データを作り、貸出に適用するという試みです。

従来、このような信用情報は決済情報として銀行が独占的に蓄積してきました。しかし人々の取引がインターネットで行わるようになると、こうした情報はさまざまなところで収集できるようになります。

わかりやすい例はECサイトでしょう。アマゾン、楽天、ヤフーなどでは個人個人がどのような購買履歴を持っているのか手に取るようにわかります。一方、出店者側は商品がどの程度のサイクルで売れていくのかわかりますので、運転資金がどの程度かかるのか把握できます。さらに口コミ情報から出店者の業務の質も捕捉できます。

仮に、ある消費者の購買履歴がわかったうえで、インターネット上の振る舞いから信用プロファイルが特定できたとしましょう。すると、たとえば「こんな素敵な商品があります、買ってみませんか。クレジットカードのリボ払いの金利よりお得な条件で資金を手当てします」というような、ECプラス貸出のチャンスができ上がります。さらに、出店者側には新しい販売機会を提供し、その運転資金も用意するのです。

実は、フィンテックの貸出が普及するカギは、借り手が従来よりも低コストで資金を調達できるかどうかにかかります。今のようにマクロ的に低金利の時代には難しいかもしれませんが、いつかは金利が上がる時もくるでしょう。その時、フィンテックによる貸出は、銀行よりもきめ細かくフレッシュな信用情報で貸出条件を設定できます。既存の銀行にはやっかいな存在になるのです。

その点、ゆうちょ銀行は貸出がわずかしかありませんから、失うものがありません。攻め込みやすいポジションにいると言えるでしょう。

ゆうちょ銀行は貸出業務を展開する際にしがらみがないので、これを活かさない手はありません。せっかくですので、物流機能を持つ日本郵政が、たとえば米ヤフーの持つ日本のヤフー株の買い取りに手を挙げてみると、フィンテックとECに足掛かりができます。

日本郵政グループにはそのような大胆な戦略を期待したいところです。

 

LIMO編集部