高齢者の運転による自動車事故が社会問題に
昨今、深刻な社会問題になりつつあるのが、高齢者の運転による自動車事故です。
このわずか1~2か月間を振り返ってみても、全く無関係の人が巻き込まれる事故が相次いでおり、とりわけ、幼い子供や将来ある若者が巻き添えになって命を落としたニュースには、心を痛めずにはいられません。
“過失”と判断し難い高齢者特有の原因も
こうした最近の高齢者運転による事故を見る限り、故意でないのは当然として、過失とも言い難いケースが散見されます。具体的には、高齢による判断力の衰えのため、運転者本人は正常な意識を持っていたにもかかわらず、結果としては過失と見られる行動に繋がっていることです。
たとえば、本人は通常にブレーキを踏んだつもりでも、その反応が遅くなったため間に合わなかったことや、間違えてアクセルを踏んだことが挙げられます。
また、認知症など高齢者特有の病気を患って起こした事故も、過失と言えるのかどうか判断が難しいところです。いずれにせよ、高齢者の運転による痛ましい事故が増加しており、早急に何らかの対応が必要であることは間違いありません。
今に始まったわけではない高齢者運転による事故
ところで、高齢者の運転による自動車事故は、決して今に始まったわけではありません。しかし、一昔前は、昨今のような事故多発のニュースを聞いた記憶が少ないと言えます。
自動車の性能という観点から見れば、衝突時の安全性は年々高まっており、また、高齢者にも運転しやすくなっているため、クルマそのものに原因があるとは考え難い状況です。
高齢者の運転による事故頻発の背景には何があるのでしょうか?
75歳以上の運転免許保有者は直近10年間で倍増
ところで、高齢者が運転しているということは、当然ながら運転免許を保有しているということです。そこで、高齢者の運転免許保有状況(警察庁資料)を見てみると、昨今の高齢者による自動車事故が増えた要因を垣間見ることができます。
まず、高齢者の定義ですが、ここでは一応、75歳以上としておきましょう。75歳以上の運転免許保有者は平成27年末で約478万人います。全保有者が8,215万人ですから、高齢者が占める割合は5.8%です。ザックリ言うと、運転免許保有者の100人に6人が高齢者なのです。
さらに注目すべきは、その増加率です。実は、平成17年末における75歳以上の運転免許保有者は約237万人でした。つまり、この10年間で、高齢者の運転免許保有者が2倍以上になっているのです。なお、平成17年末の全保有者(約7,880万人)に占める割合は3.0%でした。
運転免許保有者の100人に2人以上が80歳超という現実
何となくですが、感覚的には、これだけ高齢者の保有者が増えれば自動車事故も増えて当然かもしれないと納得する人も多いでしょう。さらに、もっと高齢の80歳以上の運転免許保有者の状況を見てみましょう。最近も80歳超の高齢者の運転による痛ましい事故が相次ぎました。
平成27年末における80歳以上の運転免許保有者は、何と約196万人もいます。平成17年末には約75万人でしたので、10年間で約2.6倍に増加しました。なお、全保有者に占める割合は、平成17年末が1.0%、平成27年末が2.4%です。つまり、現在は、運転免許保有者の100人の2人以上が80歳以上となっているのです。
ここ数年、地方自治体は高齢者に対して、様々なクーポン券配布等により運転免許証の返納を奨励しています。そして、その効果で返納者数は着実に増加していると言われています。しかし、それでもなお、高齢者の運転免許保有者数が増加している現状があるのです。
意外に高い? 高齢者の運転免許の稼働率
一方で、こうした高齢者の運転免許保有者は、いわゆるペーパードライバーなど、実際には運転していない比率が高いという見方もあります。確かに、それは一理あるでしょう。しかし、日本国内の自動車保有台数が7,800万台弱、運転免許保有者数が8,200万人強であることからも、高齢者による“稼働率”は意外に高いかもしれません。
昨今のこうした現状を踏まえ、政府もようやく対策に乗り出したようです。しかし、どのような施策になっても、各種法律の改正が必要になるため、相応の時間を要しましょう。早期の対応が待たれます。
LIMO編集部