本記事の3つのポイント
- 調理ロボットの導入が加速。センシング技術やAI技術などの進化により、スタートアップ・ベンチャー企業を中心に開発が進んでいる
- 日本ではTechMagicが調理ロボットの開発を進めており、大手外食チェーンのプロントコーポレーションとパスタ商品を自動で調理するロボットを開発
- 20~28年において調理ロボット市場はCAGR(年平均成長率)16%で成長し、28年末までに3億2257万ドルに達すると予測
少し前までロボットが活用される場所は、製造現場が大半であったが、近年では物流施設での活用が増えているほか、医療、農業、警備、配送、教育、エンターテインメント、建設などの分野でもロボットの活用が進み始めている。そして最近、少しずつ発表が増えているのが調理ロボットだ。
調理作業は非常に複雑で、また「料理人の勘」といった数値化が難しい要素も多分に含まれることから、これまでロボット化が進んでこなかった領域であるが、センシング技術やAI技術などの進化により、スタートアップ・ベンチャー企業を中心に開発が進んでいる。その1つが、モーリー・ロボティクス(Moley Robotics)。英ロンドン在住のコンピューターサイエンティストが2014年に立ち上げた企業で、20年末に自動料理ロボット「Moley R」の受注を開始した。
Moley Rは、ロボットアームや調理機器のほか、食材の賞味期限切れが近いことや食材不足などを通知するIoT冷蔵庫、収納、IHコンロ、オーブン、シンクなどで構成。2本のロボットアームが人間の手の動きを再現し、冷蔵庫からの食材の取り出し、コンロの温度調整、フライパンの操作、材料の撹拌、皿への盛りつけなどを行う。
Moley Rには自動洗浄システムも備わっており、調理の前後にロボットが調理台を掃除し、紫外線ランプによる消毒作業も行う。Moley Rには、有名料理人の動きを独自のアルゴリズムでデジタル化したデータが組み込まれており、現在30以上のレシピに対応でき、最終的には5000種類以上のレシピに対応していく予定だという。
21年内にプロントの店舗で導入
日本では、18年設立のスタートアップ企業であるTechMagic㈱(東京都江東区)が調理ロボットの開発を進めており、20年12月に大手外食チェーンの㈱プロントコーポレーション(東京都港区)と、パスタ商品を自動で調理するロボットを開発した。
パスタの調理は「麺を茹でる」「ソースや具材とともに麺を混ぜながら鍋で加熱する」「皿に盛りつける」「使い終わった鍋を洗浄する」といった作業を連続的に行う必要があるが、開発した調理ロボットは、保存された麺や具材を注文に応じて自動で選んで正確に供給し、茹で調理器や炒め調理器を独自のロボットアームによって協調させることで、パスタの調理作業を完全自動化することに成功。人手による作業と同等のスピードで、熟練の調理技術を再現することが可能で、1システムで複数のメニューに対応でき、新規メニューの追加にも柔軟に対応できる。現在、店舗導入に向けた最終開発を進めており、21年にプロントの店舗に導入する予定だ。
複数の調理ロボットサービスを開発しているコネクテッドロボティクス㈱(東京都小金井市)では、「そばロボット」の開発を推進。AIと汎用のロボットアームなど組み合わせ、「茹でる」「洗う」「締める」といった一連のそば調理プロセスを自動化するもので、ショッピングセンター「ペリエ海浜幕張」の「そばいち」に3月から本格導入される。
DoorDashが調理ロボ企業を買収
こういった調理ロボットスタートアップに注目する企業も増えており、直近ではフードデリバリーサービスを展開するDoorDash(米カリフォルニア州)が、サラダ調理ロボットを手がけるChowbotics(カリフォルニア州)を2月に買収した。
Chowboticsは、サラダ調理ロボット「Sally」を展開するスタートアップ企業。Sallyは自動販売機のような筐体に食材を入れた筒状の容器が搭載されたロボティクス機器で、約1分でサラダを作ることが可能。1台で最大22種類の食材を組み合わせ、1万パターンのサラダに対応できる。また、Sallyを改良することでフルーツボウルなどの軽食のほか、地中海料理、インド料理、ラテンアメリカ料理などにも対応できる。
DoorDashはChowboticsをグループに加え、提携するレストランへSallyの提案する方針を掲げている。これにより提携店舗はSallyを設置するだけでメニューの幅を広げることができ、店舗の価値向上につなげられるとDoorDashではみている。
28年までCAGR16%の予測
上記以外の企業では、㈱QBIT Robotics(キュービット ロボティクス)、㈱モリロボ、Cafe X、 Miso Robotics、 Mechanical Chef、Picnic、Admatic Solutions(RoboChef)、 The Wilkinson Baking Company、Karakuri、Creator、Briggoなどが調理ロボットの開発を進めている。調査会社のKenneth Researchでは、19年における調理ロボットの世界市場規模を8617万ドルと評価しており、それが20~28年において16%のCAGR(年平均成長率)で成長し、28年末までに3億2257万ドルに達すると予測している。
現在、一般的な飲食店舗では人件費と食材原価が運営コストの60~70%を占めるとされる。また、新型コロナウイルスの拡大により、調理現場におけるソーシャルディスタンスの確保といった感染症対策も求められている。こういった課題解決策としても、調理ロボットへの期待値が上がっている。
ここで話は少しずれるが、現在、自動車メーカーではロボットカーとも呼ばれる自動運転車の開発が進んでいる。そして自動運転車が普及した社会では、運転する人はほとんどいなくなり、ハンドルを握る人は趣味として運転する人だけになるともいわれている。
これを調理ロボットで考えてみると、調理ロボットが普及することで料理をする人はほとんどいなくなり、包丁を握る人は趣味だけになると言い換えることができる。少し前であれば遠い未来のSF世界でしか考えられなかったようことが実際はかなりのスピードで動き出しており、ロボットが日常的に調理をする未来が、自動運転車が街中を走る未来よりも早く訪れるのかもしれない。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志
まとめにかえて
ロボットの応用分野が製造現場だけでなく、調理現場にも広がりつつあります。一見、複雑な作業に見える工程が多いですが、AI技術の進展やセンシング技術の向上により、徐々に採用が増えています。日本では飲食業における人手不足にも直面しており、問題解決に向けた切り札となる可能性もありそうです。
電子デバイス産業新聞