三井住友銀行で巨額詐取事件が発覚

先週、三井住友フィナンシャルグループ(8316)傘下の三井住友銀行における巨額詐取事件が明らかになりました。逮捕された容疑者(54歳)は、同行の元行員で都内支店の副支店長を務めていた人物です。逮捕時は既に懲戒解雇となっていたため「元行員」ですが、犯行時は現役バリバリの行員ですから、完全な内部犯行ということになります。

金融機関は、まずは厳格な社内調査を実施すべき

報道されたところによれば、同容疑者は、外貨取引のオンラインシステムを不正に操作することで、2007年頃から合計約11億円を詐取していたということです。金額も巨額ですが、約10年間にわたり、毎年のように何回も実行されてきたというのですから、あきれて開いた口がふさがらないとは、まさにこのことではないでしょうか。

メガバンクである同行を含めた各銀行は、一般預金者や取引者に対しては、振り込め詐欺被害に対する厳重な注意を喚起しています。そして、振り込め詐欺被害の未然防止策の一環と称して、1日の預金引き出し額や、現金による振込時に対して上限設定を実施しています(注:いずれもATM使用時)。

そんなことよりも、先ずは行内の内部調査をしっかりやれ!と言いたくなるのは筆者だけではないでしょう。

詐取した資金のうち約3億円が“タンス預金”として自宅に

ところで今回、筆者が下世話にも注目したのは、その詐取した巨額資金の用途です。過去、このように詐取された大金は、投資失敗の損失補填、ギャンブルなどの遊興費、愛人への供与などに使われ、犯行が明るみになった時点では残額がほとんどないようなケースが多かったように思われます。

様々な報道によれば、約11億円は借金返済や遊興費、交際女性(愛人)への高級マンション供与といったお決まりのパターンに加え、子供の教育費にも充当されていたようです。そして、最大の注目は、残額が約5億円もあり、そのうち約3億円を“タンス預金”として自宅に隠していたということです。

“騙し取った金だから、バレることを恐れて隠していたのだろう”と思う人もいるでしょう。しかし、残額5億円のうち2億円は、本人名義の口座にちゃんと預金されていたようです。ということは、あえて“タンス預金”を選択したのでしょうか。

実際、同容疑者は取り調べの中で「将来のために残しておいた」と供述している模様です。昨今の不透明な世相が、タンス預金に向かわせているのでしょうか?

「日本国内のタンス預金は40兆円超」は本当か?

ところで、銀行など金融機関に預けられずに、自身の手元に置いてあると見られる資金、いわゆるタンス預金はどのくらいあるのでしょうか。諸説様々ですが、当然、正確なデータは存在しません。しかし、日銀の銀行券発行残高(約92兆円)と、通常の流通銀行券残高(約51兆円)の差額である約40兆円が、最も信頼できる数字と考えられています。

冷静に計算すると40兆円は的外れの数字ではない

“えっ、40兆円? そんなバカな”と思う方も少なくないと思います。これを人口で割ると、1人当たり30万円強となります。もちろん、幼年・若年世代も含まれているので、あまり意味のない数字かもしれません。しかし、国民年金第2号被保険者(厚生年金被保険者)である約4,000万人で割ると1人当たり100万円となり、一気に現実味が増してきます。

100万円くらいなら場所も取りませんから、自宅の机の引き出しに入れておいても不自然ではないでしょう。実は、それくらいのタンス預金をお持ちの方もいるのではないでしょうか?

また、既に年金受給者である高齢者を含めれば、タンス預金40兆円超は全く不思議な数字ではありません。むしろ、それ以上の金額である可能性も高いと言えましょう。ちなみに、タンス預金40兆円超となれば、日本の年間国家予算(一般会計)の約42%に相当する金額となります。

タンス預金は危険、最大限のリスクヘッジを!

タンス預金が増え続けている背景には、低金利の長期化に伴う利息収入の減少や、バブル崩壊後に続出した金融機関の経営破綻などもあると考えられます。そして、今回のような巨額詐取事件を見ると、金融機関に対する信頼が大きく低下している可能性も排除できません。

しかし、金融機関には預金保険制度というものがあります。これは金融機関が破綻した時にも一定の金額が保護されるというものです。一方、タンス預金は、盗難や紛失などに際して一切の補償がありません。

東日本大震災の時に津波で家屋が流されて、仮設住宅での生活を余儀なくされた高齢の女性のインタビューを思い出します。その女性は“家にあったお金も流されてしまった、一生働いて貯めたお金なのに…”と呆然としていました。

やはり、タンス預金は危険です。万が一に備えたタンス預金に、万が一のことがないようにして下さい。

 

LIMO編集部