新型コロナウイルス感染症は、国内でも現在「第3波」が押し寄せていると言われ、感染者数や重症者数が過去最高を更新しているような状況です。まだ収束の方向性も見えていない状態で、さまざまな業種で「売上減少をどう乗り切るべきか」「この状況がいつまで続くのか」と自社の経営に不安を感じている方は多いはずです。
書籍『儲かるSDGs』の著者で、コンサルタントとして阪神大震災や東日本大震災、木曽御嶽山噴火の被災企業・自治体とも数多く仕事をしてきた三科公孝さんは、「危機のときこそ『不満』や『不足』を感じている人が多く、そうした方々のお役に立てる商品・サービスが自社にないかを探すことで、結果的に伸びるチャンスがあります」と話します。
この記事では、同書をもとに、三科さんに具体的な事例を挙げてもらいつつ、「危機をどう乗り越え、事業の回復・伸長につなげるべきか」を解説してもらいました。
少しでも地元の経済を回す
現在のような危機にあたってお伝えしたいのは、「苦しくとも、危機がまだ収まっていないうちに動くことが復興につながる」ということです。「復興」は危機の最中から始まっています。非常に大変な状況にあるのはもちろんですが、早く動ければ動けるだけ、復興も近づきます。
コロナ禍で大きな被害を受けている飲食業界で、数少ないと言っていい「明るいニュース」が、テイクアウトやデリバリー営業を知らせるポータルサイトやブログなどが次々に生まれたことだと思います。
「非常時にこそ誰かのために貢献したい」と考える人は非常に多く、そのような方々が力を合わせて何かを成す姿は胸を打ちます。東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」が、オープンソースで、プログラマーのみなさんの集合知で作成されたことも話題になりました。
私がそのようなサイトを最初に見かけたのは、緊急事態宣言の約1週間後にオープンした、埼玉県寄居町(よりいまち)の商工会による、会員企業のテイクアウト・デリバリー実施店のポータルサイトでした。
この取り組みに感激した私がフェイスブックでその情報をシェアすると、コンサルティングが縁でつながっていた京都府与謝野町の商工会もすぐにこの動きに追随しました。私の身の回りでもこうした「正の連鎖」が起こっていったのは感動的でした。
もちろん、テイクアウトやデリバリーだけで飲食店が救われるわけではありません。私が見聞きする限り、緊急事態宣言期間中は、だいたい平時の1割の売上をカバーできればよいほうで、成功しているところでも5割といった印象です。しかし、少しでもプラスを加え、止まっている経済を動かそうとする意識は大切です。
そして、当事者としても、「できることがある」のが大切です。そう思えないと、心が折れてしまいかねません。
「平時にできていなかった何か」を始める
これまで手をつけていない施策なら、平時に戻れたときに店内の売上とテイクアウトを加えれば、前年比プラスを達成できる可能性もあります。飲食店に限らず、どうか、非常時だからこそ、「平時にできていなかった何か」を始めるという意識を大切にしてください。
加えて、現在は、みなさんの強みをあらためて考えるタイミングだと私は考えます。
飲食関係のクライアントや知人によくお伝えしているのが、現状のテイクアウトやデリバリーは、飲食店がこれまでお客様に提供してきた、①商品、②コミュニケーション、③場、のうち、①の「商品」しか提供していないという点です。
私は、最新の技術・ツールを活用することによって、②や③を提供することも不可能ではないと考えています。
たとえば、ワインバーでボトルをテイクアウトしていただいたお客様に、Zoomなどのウェブ会議アプリで、そのワインに対する知識や、おすすめのペアリングをお伝えする、といった施策もできるかもしれません。
飲食店に限らない言い方をするなら、「自らの強みを、最新のツールでも売っていく」という意識で、非常時のうちから、思いつく限りの工夫を試してみることが大切です。
コメダ躍進の鍵になったのは「スタバへの不満」!?
ビジネスとはつまるところ、人間の「不安・不満・不足・不快」を解消するものです。非常時は、これらの「不」が否応なしに膨らみます。
私はこれまで、「大手への不満を解消すれば、中小企業も一気に伸びる」と考えて仕事をしてきました。大きな企業であればあるほど、そうした企業のユーザーが持つ「不」の総量も大きいからです。1990年代後半、IT業界における圧倒的巨人であったマイクロソフトのユーザーの不満を、Googleが革新的な検索・ウェブ技術で解消していくことで飛躍的に成長したのは、そのわかりやすい例かもしれません。
東海地方で知られていたコメダ珈琲店が、近年は首都圏などにも拡大して人気を博していますが、これもカフェ界の巨人・スターバックスコーヒーあってのものと考えています。
スターバックスは47都道府県の出店を達成しています。そこまでの規模になると、もっと別の機能をカフェに求める方にも、「近場の選択肢がスタバ(やそれに近い業態)しかない」という状況になり、不満を覚える方もそれなりの数になります。
「お腹が空いているときに安くて量が多いものを食べたい……」
「席まで注文を取りに来てほしい……」
「個人店の喫茶店みたいに新聞や雑誌も読みたい……」
コメダの躍進は、そんな不満を解消できるポジションにあったことが大きいのではないでしょうか。
混乱期に限った話ではありませんが、いまの社会・地域にある「不安・不満・不足・不快」を解消できる、自分たちの武器はないかと考えてみてください。何かできるものがあれば、それに取り組むことで、消費者に大きなインパクトを与えられます。
「ライブハウスの役に立ちたい!」という会社が始めた施策
たとえば食品や生活必需品、衛生用品などを扱う企業はわかりやすいのですが、「現在、不安の真っ只中にある方々を直接いたわることが可能な商品・サービス」を持つ方に強くおすすめしたいのが、その商品やサービスを、決して消費者の足元を見ることなく、可能な限り広く、より手軽に提供することです。
私が見て素晴らしいと感じたのが、除菌・抗菌コーティングを行う東京クリーン消毒株式会社の施策です。
同社の社員には、これまでの人生の中で「音楽に救われた」と考える方が多かったそうで、新型コロナウイルスの感染拡大により、飲食業界や旅行業界と同等、あるいはそれ以上のダメージを被るライブハウスの助けになるために、東京都の休業要請が解除されたタイミングで、2020年6~8月の期間、1都3県のライブハウスの予防除菌施工を無料で行うと発表しました。
すでに数多くのライブハウスが閉店に追い込まれてしまっており、今後も予断を許さない状況ですが、ライブハウス関係者や音楽好きは、このとき同社に感じた思いを忘れることはないでしょう。
同じように、コロナ禍で困っている人の「不」を解消できるビジネスに携わっている方は、ぜひ同社のようにアクションを起こされてはいかがでしょうか。
ただ、この施策を「無料」でできるのは、おそらく同社がコロナ禍によって仕事が増加した数少ない業種だからであり、普通の会社は無料にする必要はありません。もし余裕があるならディスカウントすればさらに喜ばれると思いますが、日頃の価格でも十分です。赤字を出すことで、多くの人を助けられる大切な事業の持続可能性を損ねてしまうようでは本末転倒です。
人々の「不安」を解消する仕事の価値
「SDGs」とは、2015年の国連でのサミットで採択された「持続可能な開発目標」のこと。「すべての人に健康と福祉を」「住み続けられるまちづくりを」「産業と技術革新の基盤をつくろう」など、日本も含めて世界中が2030年までに達成を目指している17の国際的な目標です。……などと言うと、ものすごく高尚で難しそうな話に思われますが、そんなことはありません。
他社や業界全体、ひいては地球や環境のことは考えず、「とにかく自社だけが成長すればそれでいい」「自国が成長するなら多少は環境を汚しても仕方ない」と考えていては、これからはもう発展できない。そういうことです。
その意味で、「人々の不安を解消する仕事」は、社会を守ることにつながり、それだけでSDGs的と言えます。みなさんご自身もいま、不安の中におられるかと思います。しかし、その手の中にあるスキルや商品・サービスが、ほかの誰かの不安を解消できるかもしれません。何か、社会のためにできることはないかと考えてみてください。
■ 三科 公孝(みしな・ひろたか)
株式会社ノウハウバンク 代表取締役。1969年山梨県生まれ。立命館大学文学部哲学科を卒業後、株式会社船井総合研究所を経て2000年より現職。中小企業の集客・売上アップ・販路開拓などの企業活性化プロジェクト、地域資源活用によるヒット商品開発や観光集客・PRなどの地方創生プロジェクト、研修・講演活動などを行う。企業・官公庁・公的団体など組織形態を問わず、実践的で確実に売上・集客につなげるコンサルティング手法に定評があり、特に近年は全国でSDGsに関する講演・セミナーを行っている。
三科氏の著書:
『儲かるSDGs ――危機を乗り越えるための経営戦略』
三科 公孝