2020年7~9月期のFPD(Flat Panel Display)露光装置の販売台数は、ニコン、キヤノンの主要2社で10台にとどまった(前年同期は19台)。主要市場である中国で7月から出荷・搬入・据え付け・立ち上げ作業を順次再開しているが、新型コロナウイルスの影響を受けた上期の遅れを通期で取り戻すのは難しく、20年の通年販売台数は50台前後にとどまりそうだ(19年実績は90台)。

ニコンとキヤノンが市場を独占

 FPD露光装置は、液晶ディスプレーや有機ELディスプレーの画素を駆動する薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor=TFT)をガラス基板上に形成するのに使用される。TFTの回路パターンが描かれている原版「フォトマスク」に光を照射し、レンズを介してパターンをガラス基板上に露光する。ニコンとキヤノンの2社で世界市場を独占している。

 ガラス基板の大きさは、製造するディスプレーのサイズによって異なり、大画面のディスプレーを量産するためガラス基板も大型化してきた。その大きさを「世代(Generation=G)」と呼んで区別しており、近年では、スマートフォン用の5インチや6インチを製造する場合は第6世代(6G=サイズは1500×1850mm)、テレビ用の65インチなどを製造する場合は8.5世代(8.5G=2200×2500mm)や10.5世代(10.5G=サイズは2940×3370mm)のガラス基板がそれぞれ使用される。FPD露光装置は、それぞれのガラス基板の世代に応じたサイズの装置が必要になる。

ニコンは5台を据え付け

 ニコンは、20年7~9月期に5台の据え付けを完了した(前年同期は9台)。世代別の内訳は、5/6G用が1台、10.5G用が4台。2月から中断していた据付作業を7月から再開。作業に制約がある状況に変わりはないが、前倒しを進めており、通期(21年3月期)では8月公表値から4台増の22台の販売を目指す。22台の内訳は、5/6G用が9台、7/8G用が2台、10.5G用が11台。

 同社は9月末時点で、FPD露光装置の受注残として大型・中小型合計で約70台を獲得している。大型向けは堅調、中小型向けもシェア拡大傾向にあり、今期~来期に順次納入する。FPD露光装置の収益が好調なうちに、半導体露光装置の見直しやサービス&検査・計測機器などによる周辺機器ビジネスの拡大によって、精機事業全体の収益ポートフォリオを再強化していく方針だ。

キヤノンは新製品を投入

 キヤノンは、20年7~9月期に5台を販売した(前年同期は10台)。新型コロナウイルスの影響で顧客先での設置作業が停滞していたためだが、7月から徐々に設置作業を再開しており、20年10~12月期は22台の販売を見込み、年間(20年12月期)では累計33台の販売となる見通し。

 また、世界トップシェアを誇るキヤノントッキの有機EL蒸着装置も20年7~9月期に設置作業を再開し、売り上げは前年並みになった。設置体制が徐々に整ってきており、20年10~12月期は前年同期の2倍近い水準となり、年間では大幅な増収になる見込みだ。

 さらに、このほど6Gガラス基板に対応したFPD露光装置の新製品として、次世代の中小型向けに解像力1.2μm L/Sを実現した「MPAsp-E903T」を発売した。FPD露光装置として、初めてDUV(深紫外=290~380nm)波長を発光する新光源を搭載し、解像力1.2μmの露光を実現しており、位相シフトマスクなどの超解像技術によって解像力1.0μmの露光も可能にした。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏