終息が見えないコロナ禍によって、業種にかかわらず、多くの企業が打撃を受けています。そうした中で、どうすれば売上を安定させられるか、自社の商品・サービスを知ってもらえるか、日夜、苦悩している会社も多いでしょう。特に中小規模の会社は、豊富に経営体力を持っているわけではないだけに、悩みも深いかもしれません。

 書籍『儲かるSDGs』の著者で、中小企業の集客・売上アップや自治体・公的団体などの地方創生プロジェクトなどにも数多く関わってきた経営コンサルタントの三科公孝さんは、「大きな会社が取り組んでいるイメージが強い『SDGs』ですが、この考え方を中小企業経営に採り入れることで、特にいまの時代は経営の強力な後押しになります」と話します。

 この記事では、同書をもとに、三科さんに具体的な事例を挙げてもらいつつ、「小さな企業・組織がSDGsに取り組むメリット」を解説してもらいました。

江戸時代から続く栽培方法に立ちはだかる気候変動

「SDGs」というのは、2015年の国連でのサミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のこと。2030年までに達成を目指す国際的な目標です……と言っても、難しいものではありません。私がここでご紹介したいのは、京都府宇治市で抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)の栽培・製造を行っている、知る人ぞ知る茶農家・茶園清水屋の取り組みです。

 茶園清水屋は、その名の通り、清水家の方々が経営する小規模な茶農家です。その歴史は長く、宇治の歴史をまとめた書籍には飛鳥時代からその名が見られ、江戸時代前期の元禄年間に茶の栽培・製茶業を始めたとのこと。つまり、茶農家としてだけで見ても300年以上の歴史を持っているわけです。300年間のノウハウを蓄積した碾茶の質は非常に良かったものの、そこに立ちはだかったのが、近年とみに目立つ気候変動の影響でした。

 最近でも、今年は大変な大雨が降ったと思ったら、さらにその翌年には、今度はお茶の木が枯れるほどの日照りが続いた……ということがありました。このとき、日照りと高温による「葉焼け」への対策にかかる水道料金が、実に月60万円にも達してしまったといいます。金銭的にも、環境負荷的にも、大変な負担です。

水資源と陸の豊かさを守る茶農業を模索

 できるだけ先祖代々の栽培方法を維持したい。しかし、このような日照りが定期的に発生するようでは経営が成り立たない……。

 そんな状況で模索を続けた清水家の人々は、砂漠の緑化などに使われる「点滴チューブ」の導入に至りました。点滴チューブによる注水はコンピューターで管理できます。無駄な水の消費を抑えるだけでなく、天気予報に合わせて注水量を細かくコントロールできるようになりました。

 その結果として、節水とそれによる水道代の抑制だけではなく、品質の安定にもつながったのです。

 以降もこつこつと工夫を重ね、伝統農法と最新技術を融合させる「ハイブリッド茶農家」を標榜し、その高い碾茶の品質で評価を受けています。

「シングルオリジン(単一産地)」へのこだわり

 このような地道な取り組みが評価され、茶園清水屋は2016年5月に、宇治市の碾茶農家として初となる、「有機JASマーク」の認証を受けています。このマークは、農薬や化学肥料などの化学物質に頼らず、自然界の力で生産された食品であることを示すものです。

 さらに、「SDGs茶農家宣言」を行い、SDGs経営を積極的に推進しています。

 コンサルティングを通して茶園清水屋について知っていく中で、私が最も驚かされたのが「シングルオリジン抹茶」への強いこだわりでした。

 詳しい方には釈迦に説法ですが、日本茶はブレンドするのが一般的で、高い力量を持つ茶匠が、毎年出来が異なる茶葉をブレンドによって同じ仕上がりにする「合組(ごうぐみ)」が日本茶の美味しさであり、シングルオリジンのお茶は、製品としての評価はそれまで十分ではありませんでした。

 そうした中、清水家のみなさんは当初より、シングルオリジン抹茶の販売への取り組みを行っていました。そして今後、さらにシングルオリジン抹茶のブランディングを行い、ブランド力を磨き上げるという方針を確認しています。

超高級ホテルも注目

 それに加えて、茶園清水屋では最高級ランクの抹茶の原料となる碾茶を、年に一度、手摘みで収穫していました。

 これだけの長い歴史と強いこだわり、高い品質に加えて地球環境への配慮もある。語弊を恐れず言ってしまえば、それをきちんと知ってもらえれば、必ず売上と利益はアップするという自信がありました。

 ただ、そんな私も驚いたのが、ある超高級ホテルに、茶園清水屋の抹茶が採用されるという話が出たことです。名前は出せませんが、最低でも1人1泊15万円、スイートクラスなら50万円以上が当たり前のホテルです。

 このクラスのホテルですと、仕入れ値以上に、商品の品質そのものが重視されます。そして、ここで言う「品質」には、味や、シングルオリジンという特徴だけでなく、「地球環境への配慮」も含まれます。

 なぜなら、地球環境をないがしろにしている、あるいは本当はそうではなくとも、そう受け取られかねないメッセージを発してしまうと、ラグジュアリーブランドほど大きなダメージを受けるからです。

筆者の三科公孝氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

「SDGs経営」に取り組むメリットとは

 ラグジュアリーブランドの愛好者が、商品やサービスに高額な対価を納得して支払えるのは、ブランドそのものに対する信頼・共感があるからです。どれだけ品質が高かろうが、その過程に、過剰な環境への負荷や、人権を侵害する搾取が含まれている場合、多くの消費者はそこに対価を支払う気にはなれません。

 また、だからこそ、家族で営むような小規模の茶農家のお茶が、超高級ホテルのお眼鏡に適うのです。

 SDGs経営の面白さは、持続可能な社会への意識・配慮をしっかりと示すことができれば、従来のビジネスではなかなか見られないような、「一足飛びの大きな動き」が見られることです。

 茶園清水屋にしても、実績をこつこつと積み重ねれば、いずれは富裕層や超高級ホテルの目にも留まるだけのポテンシャルはもともと秘めていたと思います。ただ、気候変動が叫ばれ、持続可能な形での経済発展が望まれるいま、これまで以上に企業や組織の「環境に対する配慮」が注目されています。中小企業でもSDGsの考え方を積極的に採り入れることによって、その「こつこつ」の途中で、大きなクライアントが向こうから来てくれる事例が生まれているのです。このチャンスを逃さない手はありません。

 

■ 三科 公孝(みしな・ひろたか)
 株式会社ノウハウバンク 代表取締役。1969年山梨県生まれ。立命館大学文学部哲学科を卒業後、株式会社船井総合研究所を経て2000年より現職。中小企業の集客・売上アップ・販路開拓などの企業活性化プロジェクト、地域資源活用によるヒット商品開発や観光集客・PRなどの地方創生プロジェクト、研修・講演活動などを行う。企業・官公庁・公的団体など組織形態を問わず、実践的で確実に売上・集客につなげるコンサルティング手法に定評があり、特に近年は全国でSDGsに関する講演・セミナーを行っている。

 

三科氏の著書:
儲かるSDGs ――危機を乗り越えるための経営戦略

三科 公孝