「国内循環」の鍵は、供給サイドの改革を進めつつ、一段の内需拡大を推進することであると考える。中国には、強靭な産業エコシステム、強力な製造能力、高度な教育を受けた熟練労働力、十分に発達したインフラ、成長著しい中間所得者層を背景とした巨大な国内市場などがある。
内需志向型開発モデルを下支えするには、産業の一段のアップグレード(安全で制御可能な、ある程度の自律的な技術の確保など)、スマートインフラへの投資、大都市圏開発などの新しい都市化戦略、農業の近代化などが必要であろう。
主要技術分野でのグローバルリーダーシップを加速させるため、中国は2025年までの6年間で凡そ10兆人民元(1.4兆米ドル)を投資する予定である。大手民間ハイテク企業の支援を受けながら、 5Gワイヤレスネットワークからデータセンターまで全面展開を図る方針である。これらを通じて、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)テクノロジーは強化されよう。
「国内循環」は鎖国政策ではなく、「国際循環」にて補完
この国内経済への方向転換は、孤立や鎖国政策を意味するものではない。むしろ、この戦略は補完的、相互強化的、相乗的、かつ持続可能である国内および国際的な「二重循環」を特徴としている。これは、中国が国内市場の能力向上を図りながら、国際的な協力および競争での強みを再形成することに繋がる。
リスクのより適切な管理に向けて、中国では貿易・ビジネスパートナーを多様化することに重点を置き始めている。こうした中、対外貿易を促進し、海外からの投資を誘致しつつ、世界的な科学技術協力にかかわることが、依然、重要である。中国は引き続き開放の努力を続け、金融・資本市場の自由化を推進するだろう。
中国は、国内経済、市場、サプライチェーンの強靭性の改善を図る一方、外部リスクのより適切な管理を通じて、国内の潜在力を引き出し、内部のリバランスを加速するために改革のピッチを上げるであろう。
国内消費と従来型の技術開発に基づく成長モデルは課題に直面
しかし、中国の消費へのリバランスは依然として遅く、不均衡である。富の格差は大きい。新型コロナウイルスの感染拡大は、労働市場と世帯収入に打撃を与え、元来、不安定な立場にある低所得者層を一段と困難な状況にさせた。
脆弱な社会的セーフティネットと高まる債務負担により、家計の支出傾向は抑制されている。国内経済への方向転換には、消費者の消費力を強化するための政策・改革(一例として、社会および医療保障の改善、農地・労働市場の改革、富・所得の再分配)が必要であると考える。その実行には、政治的および経済的システムの抜本的な構造変革(国家主導モデルの解体など)が伴うであろう。
加えて、中国の技術的自立への動きには、グローバル・サプライチェーンとの緊密な連携や対内直接投資(FDI)に伴う技術移転からこれまで恩恵を受けていることを背景に、今後、多くの課題に直面する可能性がある。
中国は、テクノロジー・バリューチェーンを急速に拡大している一方、最先端テクノロジーへのアクセスに依然困難があることは、逆風と言えよう。こうした中、中国と米国の経済が完全に分離することは、当面、考えにくいと言えよう。