世界の人身売買の実情

ここからは世界全体に目を移してみましょう。貧しい国や地域から先進国へいわゆる出稼ぎを希望する方々が、実際には正規のかたちで就業できず、人身売買の被害者となるケースは珍しくありません。世界には、不当な労働等で苦しむ方々が、検知されているだけでも2,500万人超もいらっしゃるといわれています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延の影響により、人の移動が困難になった最中でも、こうした悲劇は繰り返されています。たとえば、2020年4月には、ミャンマーの少数民族であるロヒンギャの難民300人以上が、人身売買業者によって連れ出された後、新型コロナウイルス感染の可能性を理由に入国を断られたことから、食料もない状態で海洋上に放置され、30人以上の方々が亡くなりました。

このように、人身売買は違法な取引や密入国が前提となっているため、人の移動が制限されている現在であっても、被害者数が減少するわけではありません。むしろ、不況により苦しい生活をする方々が増加すると、そうした人の弱みに付け込み、被害が増加する恐れのほうが大きいのです。

人身売買をなくす方法~悪い資金の流れを断ち、誰もがまともに働ける社会をつくる~

人身売買は、当然のことながら、必ず手数料を得ている人や、支払うべき給与を中抜きしている人がいます。このような取引を減少させるには、悪い資金の流れを断ち切る必要があります。たとえば、金融インフラを整えて現金取引を少なくすることで、悪い資金の流れを一定以上減らすことができます。また、誰もが口座を保有している状況をつくることができれば、困窮している人に中抜きされないかたちで支援を届けることも可能となります。

さらに、教育や就業の機会を平等に整えることも重要です。貧しい家庭に生まれると日々の生計を維持することが最優先となり、情報格差や教育格差が生じて貧しさから脱却できない、いわゆる「格差の再生産」に陥るおそれがあります。これを防ぐ方法の1つは、電気やインターネット、家電など、生活のインフラとなっているサービスを提供する事業者が、割賦販売やリース、シェアリング等といった方法で、主に貧困層を顧客にすることです。