田舎はよそ者に冷たいとか、噂話がすぐ広まるという話を一度は耳にしたことがあるはずです。こうした息苦しさは昔のことと思いきや、「実は今でも変わっていないのでは?」と思わせる話が、今回のコロナ禍でたびたびSNSなどを介して広まっています。

「コロナになったことで村八分状態」「夜逃げ同然で家を出たらしい」という噂の真偽のほどは不明ですが、なぜ田舎は都市で生活している人の感覚が通用しないのでしょうか。今回は、母方の実家がひなびた農村地域にある筆者が、泊まるたびに不思議に感じていた田舎にまつわるエピソードを紹介します。

本名でなく通り名で呼び合う田舎の人たち

まずは、田舎にはよくあって街中ではほぼ聞かない、人の呼び方の話をしていきましょう。県庁所在地の街中で育った筆者の父にはなく、育ちも生まれも田舎の母が持つ癖があります。それは、兄弟姉妹や親戚をあだ名のような通り名で呼ぶことです。

幼少期から母は自分の兄弟姉妹や親戚の本名をほぼ口にしたことがありません。たとえば伯母に関して言うと、筆者が物心がついた頃からずっと「タケダの幸ちゃん」と呼んでいます。

タケダが苗字だと信じて疑わなかったのですが、それが事実ではないことに気がついたのは小学3年生のお正月でした。届いた年賀状を見ると、見覚えのない差出人夫妻の名が書いてあったのです。「この丸山さんて誰?」と母に尋ねると、「幸ちゃんよ。タケダの」と当たり前でしょと言いたげな表情を浮かべながら答えました。