2020年1~3月期のFPD(Flat Panel Display)露光装置の販売台数は、ニコン、キヤノンの主要2社で5台にとどまった(前年同期は31台)。新型コロナウイルスの影響で、主要市場である中国でFPDメーカーへの出荷・搬入・据え付け・立ち上げ作業が行えず、延期になっていることが影響した。2010年以降でもっとも四半期ベースの出荷が少なかったのは12年7~9月期の6台(ニコン、キヤノンともに3台)だったが、これを下回った。

ニコンは3台にとどまる

 ニコンは1~3月期に当初8台の販売を計画していたが、結果は3台にとどまった(前年同期は16台)。内訳は、第10.5世代(10.5G)用が2台、5G/6G用が1台。技術者の渡航制限などによって5台の出荷・据え付けが完了できず、次期以降へ繰り延べになっている。

 この結果、19年度(20年3月期)の販売台数は27台となり、18年度実績の70台から大幅に減少した。27台の内訳は、10.5G用が18台(前年度は17台)、7G/8G用が5台(同37台)、5G/6G用が4台(同16台)。FPDメーカーの6Gおよび8.5Gへの投資が一巡した影響を受けた。

一部は21年度に繰り延べ必至

 20年度については、見通しの公表を控えている。底堅い需要が確認できているが、顧客や協力会社と据え付け時期などを協議しているものの、技術者の渡航が困難な状況が続いており、再開のタイミングが遅れることで、20年度に予定していた装置の一部は21年度に繰り延べざるを得ない状況だと説明した。

 一方で、21年度の中小型パネル用露光装置の「商談が具体化し始め、競合に対して優位に交渉が進んでいる。高精細化需要を確実に捉えて収益拡大を図る」(社長執行役員CEOの馬立稔和氏)と述べた。

キヤノンも2台に

 キヤノンも、1~3月期の販売台数が2台にとどまった(前年同期は15台)。FPDメーカーが集中する中国で移動が制限され、顧客の工場への設置に時間を要した。

 ニコンと同様、新型コロナウイルスの終息が見通せないため、通期(20年12月期)見通しは開示していない。FPD露光装置は終息後に挽回を図っていくが、設置作業の長期化で年内に設置をすべて完了するのが難しく、20年の年間販売台数は当初見込みの54台から減少すると説明した。

 ちなみに、有機EL蒸着装置については、有機EL搭載スマートフォンの機種数増加で1~3月期は増収になったが、客先へ渡航できない状況が続いており、設置の後ろ倒しを余儀なくされている。今後、渡航できる環境が揃い次第、迅速に設置作業を再開できるよう要員の準備を進め、年間の影響を最小限にとどめる考え。

装置の代金は「立ち上げ完了」で全額受け取れる

 日本人の入国の可否は中国政府が決めるが、可能になるには、日本で新型コロナウイルスへの感染者が減少している必要がある。日本政府は5月25日に緊急事態宣言を解除したが、6月に入ってすぐに中国への渡航が解禁されるとは考えづらく、日本人技術者が中国で製造装置の搬入や立ち上げ作業に携われるようになるのは7月以降、渡航後に2週間の隔離が求められる場合は8月に入ってからになる、と考えられる。

 製造装置メーカーは、たとえ装置を出荷できたとしても、据え付け~立ち上げが完了しないと代金のすべてを回収できない。冬場には中国で新型コロナウイルスの感染拡大が再発するリスクも考えられるため、業績への影響を考慮すると、装置メーカーとしては、できるだけ夏~秋に集中的に立ち上げを進めたいところだ。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏