有機EL用燐光発光材料メーカーのユニバーサルディスプレイコーポレーション(UDC、米ニュージャージー州)は、2月に公表した2020年の業績見通しを撤回した。当初は前年比6~16%増となる売上高4.3億~4.7億ドルを計画し、2月時点では新型コロナウイルスが年間で売り上げの約10%(4000万~5000万ドル)の押し下げ要因になると想定していたが、状況がさらに悪化した。
1~3月期は28%増収と好調
業績の前提として、同社は「21年末までに世界の有機ELディスプレーの生産能力がインストールベースで19年末比5割増加する」と見込んでいた。この見方は変えていないものの、コロナ禍で「タイミングに影響を受ける可能性があり流動的」と述べた。
このほど発表した20年1~3月期の業績は、売上高が前年同期比28%増の1.12億ドル、営業利益は同30%増の4451万ドル、純利益は同21%増の3816万ドルと好調だった。このうち発光材料の売上高は同22%増の6658万ドル、ライセンス収入は同42%増の4308万ドルだった。発光材料のうち、黄緑色を含めた緑色発光材料の売上高は同26%増の約5260万ドル、赤色発光材料は同9%増の約1390万ドルだった。
前倒し需要が業績を押し上げ
20年1~3月期の売り上げに関して、19年10~12月期に中国最大のディスプレーメーカーであるBOEが安全在庫として購入した2400万ドル分があったことに加え、20年1~3月期にも顧客が備蓄のために約2000万ドル分を先行購入した。これらが20年1~3月期の業績を押し上げる要因になった。
また、5Gスマートフォンの増加に伴う需要増に備え、数カ月前から香港に新オフィスを開設し、韓国ではアプリケーションラボを立ち上げて認定の初期段階にきている。青色の燐光発光材料の開発および有機蒸気ジェット印刷技術「OVJP(Organic Vapor Jet Printing)」に関しては「すばらしい進歩を遂げている」と説明するにとどめ、商品化時期には言及しなかった。
テレビの台数減少が有機EL材料需要に影響
有機ELディスプレーの需要に関しては、新型コロナ禍によって、有機ELテレビとスマートフォンの需要見通しが下方修正されていることが、UDCの業績に今後影響を与えるとみられる。
有機ELテレビに関しては、テレビ用パネルを韓国のLGディスプレー(LGD)が世界で唯一製造している。LGDは当初、20年に700万台のテレビ用有機ELパネルを販売する予定だったが、19年秋に稼働する予定だった中国広州の8.5世代パネル新工場の稼働が遅れ、これを600万台に下方修正した。
さらに、新型コロナ禍で広州新工場の立ち上げに携わるエンジニアを現地になかなか派遣できなかったことに加え、東京オリンピックやサッカー欧州選手権(UEFA2020)といった大型スポーツイベントが相次いで延期になったことでテレビの需要見通しも低迷し、20年1~3月期決算時に「10%減少する」と述べて、500万台へ目標をさらに下方修正したことを明らかにしている。
スマホ出荷台数の減少も下押し要因に
スマートフォンについては、調査会社のInforma Techが20年の出荷台数の見通しを当初の13億8500万台から12億400万台へ、大きく下方修正している。当初は中国での感染が終息すれば生産が戻り、需要回復も早いとみていたが、その後の世界的な蔓延に伴う販売店の休業や経済・雇用情勢の悪化を鑑み、減少した需要の穴埋めは容易ではないと判断している。
調査会社TrendForceによると、有機ELパネルを搭載したモデルの比率は、19年の31%から20年は35.6%に増加する見通しだが、出荷台数の減少に伴って、有機EL搭載モデルの台数は横ばい~微減になる可能性が高く、これもUDCの業績を下押しする可能性がある。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏