シーメンスがモーターシステム搭載小型機の初飛行に成功

2016年7月4日、ドイツの総合電機メーカーであるシーメンスは、同社のモーターシステムを搭載した小型飛行機が約10分間の初飛行に成功したと発表しました。エンジンを代替する電気モーターは、自動車の世界では開発が進んでいますが、飛行機の世界でも同様な動きが活発化していることを象徴するニュースとして注目されます。

ちなみに、飛行機本体はドイツの小型飛行機メーカーであるエクストラ・エアクラフト社の2人乗りアクロバット用軽飛行機(Extra 330LE)が使われ、エンジンの代わりに、シーメンス製の電気モータやインバータシステムが搭載されています。今後、両社は実用化に向けた実験に取り組む予定です。

シーメンスはエアバスとも飛行機用モーターを開発

シーメンスは、エクストラ・エアクラフト社以外に、ボーイングと並ぶ大手飛行機メーカーであるエアバス・グループ(本社フランス)とも、飛行機用モーターの開発に取り組んでいます。

両社は2016年4月に約200人のエンジニアを投入し、2020年までに電気もしくはハイブリッド技術を用いた機体の飛行試験を目指すと発表しています。また、2030年までに100席未満のハイブリット型旅客機の実用レベルの試作機をぜひ完成させたいとしています。

ちなみに、シーメンスは、創業年の1847年にちなんで「ネクスト47」と呼ばれる新規事業を立ち上げるための専門組織を今年10月に発足させる予定です。その専門組織で、AI、ブロックチェーン、自動運転といった新技術を差し置いて、まず第一弾として取り組まれるのが、エアバスと共同開発を行っている電気で飛ぶこの飛行機の開発です。

アメリカではNASAが「空飛ぶテスラ」を開発

こうした電気飛行機の開発の動きは、欧州に限ったものではありません。アメリカの米航空宇宙局(NASA)も、電気飛行機の開発に取り組んでおり、2016年6月には、14個のモータ駆動のプロペラを両翼に取り付けた新方式の電気飛行機「X-57(Maxwell)」を発表しています。

試験飛行はこれからですが、現地メディアでは、「空飛ぶテスラ」という表現で注目されています。また、パイロットの訓練飛行機を製造するエアロ・エレクトリック・エアクラフト社 も、電気モーターによる訓練機の開発に取り組んでいます。

ボーイングについては具体的な発表はありませんが、離陸時はエンジンで、飛行中は電力に切り替わる飛行機が開発中であることが報じられています。

日本電産の永守社長は”ほら吹き”ではなかった

一方、日本電産(6594)の永守重信会長兼社長は、上述のようなニュースが報道される以前から、決算説明会において何度も「自動車の次は飛行機にも大量のモーターが使われる時代が訪れる」とコメントしていました。

これまでの成長を牽引していたHDDモーター市場が成熟する中で、苦し紛れに将来の成長イメージを高めるための、“ほら吹き”ではないか、と捉える向きもあったかもしれませんが、改めて永守氏の先見性の高さに驚かされます。

破壊的イノベーションになる可能性に注意したい

出力密度、エネルギー効率、耐久性など、まだまだクリアすべき課題は多いものの、化石燃料を燃焼させるエンジンに比べると、モーターは環境に優しく、また、飛行機エンジンの騒音問題解消にも役立つ可能性があるため、長期的に取り組むべき価値が大いにある技術です。

一方で、モーター駆動がエンジンに取って代わるようになると、エンジンを製造するメーカーや、その製造装置を作る工作機械メーカーなどは長期的には大きな打撃を被る可能性があります。また、これまで大型機中心であったエアバスが新たに参入することで、これから三菱重工(7011)がMRJで参入しようとしている100席未満の小型旅客機市場の競争がさらに激化する可能性もあります。

日本ではあまり話題になっていない電気飛行機の動きですが、上記のような”破壊的なイノベーション”となる可能性が隠れていることに注意しながら、今後の動向を注視したいと思います。

LIMO編集部