本記事の3つのポイント

  •  新型コロナの感染拡大で、中国での太陽電池サプライチェーンへの影響も懸念されるが、今のところ大きな混乱には至っていない
  •  生産・出荷量ともに中国は世界トップを堅持しているほか、近年は技術開発でもリードする
  •  足元では増産投資も加速。ただ、世界規模で感染が広がる中、20年の導入予測は下ぶれリスクが高まっている

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が止まらない。発端は中国・武漢市だったが、今では世界中で感染が広がっており、各国が対策に苦慮している。そして、新型コロナウイルスは産業界にとっても大きな脅威となっている。

 中国は世界最大の太陽電池(PV)の生産国かつ消費国で、今回のパンデミックによるサプライチェーンへの影響が懸念されているが、これまでのところ、供給不安といった混乱はないようだ。それどころか、生産能力の増強など、規模拡大に向けた取り組みが活発化している。

19年も導入&出荷でトップ

 2019年もPV市場は大きな成長を遂げた。19年のPV導入量については、台湾EnergyTrendが123GW、英IHS Markitが124GWという数値を発表している。いずれにしろ、前年比2割増と大幅に伸びたようだ。最大市場である中国の成長が鈍化したが、発電コストの低下などを背景に世界市場で導入が加速している。

 成長が鈍化したと言っても、中国は今でも世界最大の市場で、19年は2位の米国の2倍強に相当する36.9GWを導入した(EnergyTrend調べ)。累積導入量も200GWを超えており、PV導入量の世界シェアは3割に達している。

 生産となると、そのシェアはさらに大きくなる。IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、18年におけるポリシリコン(ポリSi)のシェアは5割強で、PVセル&モジュールはいずれも7割を超えている。

 ちなみに、19年のPVモジュール出荷トップは中国Jinko Solarで、以下、JA Solar、Trina Solar、LONGi Solar、Canadian Solarと中国勢が上位を独占している(英GlobalData調べ)。トップ10のうち、8社が中国企業という有様だ。

技術でも世界をリード

 PVの生産&導入に加えて、中国は技術開発でも世界をリードしている。結晶Siでは、モジュール出力が500Wに達している。

 Trina Solarはモジュール変換効率21%、出力500Wの新型モジュールの量産を開始しており、20年末までに5.5GWの生産体制を構築する。Risen Energyも50セルで出力500Wの新型モジュールを20年から量産する。

 Jinko Solarはハーフカットセル、9本バスバー、TR(タイリングリボン)技術を採用した新型モジュール(出力475W)を生産しているが、出荷量はすでに1GWに達しているという。

 セルサイズの大型化も進んでいる。単結晶SiセルのサイズはM2(156mm角)が一般的だったが、現在はG1(158mm角)へのシフトが進んでいる。セルサイズが大きくなれば重量は増えるが、製造コストを下げつつ発電量が増加するという利点がある。

 G1セルはJinko Solar、Trina Solar、Canadian Solarなどが採用しているが、LONGiはM6(166mm角)セルを開発しており、江蘇省で稼働を開始した新工場(5GW)でM6セルを用いた高出力モジュールを生産する。

 さらに大型の210mm角セルの市場投入も始まる。Trina SolarおよびRisen Energyは出力500Wの高出力モジュールに210mmサイズの大型セルを採用しているが、GCLも210mm角の単結晶Siウエハーを開発している。

210mm角Siウエハー(GCL)

 中国はペロブスカイト太陽電池(PSC)など次世代技術の開発にも力を入れており、19年には中国科学院が23.7%の世界最高効率(当時)を達成した。中国企業のPSC関連特許のシェアは世界トップ(47%)と言われている。

 有機薄膜太陽電池(OPV)ではノンフラーレンアクセプターが注目されているが、中国科学院は独自に合成したノンフラーレンアクセプターを用いたOPVで17%の世界最高効率を達成した。

生産への影響は限定的

 近年、中国のPVメーカーは欧米の輸入課税措置に対抗するため、生産拠点の分散化に取り組んできたが、それでも生産拠点の多くが中国に集中している。ちなみに、PVモジュール出荷トップ10に占める中国メーカーの比率は06年には1割程度だったが、11年には6割を超え、現在は9割強に達している。

 新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込めるため、中国では人やモノの流れが大幅に制限され、PVのサプライチェーンにも大きな影響が出ると懸念されていたが、今のところ、生産への影響は限定的という見方が多い。

 PV関連の調査会社であるInfoLink Consultingによると、新型コロナウイルスの感染拡大でSiパウダーが不足して、ポリSiメーカー2社が供給不足になったが、すでに稼働率が回復するなど、全体的に見れば影響は小さかったと分析している。

 PVモジュールも2月以降は工場の稼働再開が増えており、世界市場でモジュールの供給が回復している。物流システムの回復が大きな課題だが、モジュールの需要は依然として旺盛という。生産への影響はおおむね解消されているが、今後はプロジェクトの遅延など需要サイドで影響が出る可能性があるとInfoLink Consultingは指摘している。

 ちなみに、米First Solarも米国や東南アジアにある工場で生産が継続していることを明らかにしている。

増強投資が加速

 新型コロナウイルスの感染拡大で、PVの生産停止といった懸念があったが、むしろ、中国メーカーは競うように生産能力の増強計画を打ち出している。

 中国のポリSi生産拠点は、新疆ウイグル自治区もしくは内モンゴル自治区に集中するなど、その多くが新型コロナウイルスの流行地から離れたところにあり、春節期間も操業を停止しなかったことから、再稼働の遅れといった問題はなかったようだ。

 現在、中国のポリSi生産能力は51万tに達しているようだが、さらなる増強計画が浮上している。GCL-Polyは18年から新疆ウイグル自治区で稼働している新工場の生産能力を6万tに引き上げ、20年からフル稼働する予定。

 Tongweiは19年に生産能力を8万tに増強したが、21年には倍増し、23年には29万tまで引き上げる計画を打ち出している。

 Daqo New Energyは新プラント(3万5000t)が稼働したことで、19年のポリSi生産量が前年比で8割増加したが、20年は前年比8割増の7万5000t程度の生産量を計画している。

 中国勢が相次ぎ生産増強を加速する一方で、中国以外のポリSiメーカーは軒並み苦戦を強いられている。

 韓国Hanwha Solutionsは21年2月でポリSiの生産を終了し、同事業から撤退することを発表しており、韓国OCIも国内のPV用ポリSi生産を停止した。PV用ポリSiの製造を目的に10年に設立した台湾Powertecも収益悪化で経営が破綻した。

 REC Silicon(ノルウェー)は米国のPV用ポリSi工場(Moses Lake、生産能力2万t)の稼働を見合わせており、独Wacker Chemieは赤字のポリSi事業を立て直すため、人員削減を含めた事業構造改革を発表した。

 SiウエハーやPVセル&モジュールの増強投資も加速している。Jinko Solarは単結晶Siウエハーの生産能力を、現在の11.5GWから20年末には19GWまで引き上げる。

 LONGiは19年末に36GWだったウエハー生産能力を20年末には65GWまで拡大する。さらに雲南省で20GWの新工場を計画しているが、将来的には40GWまで拡張する予定だ。

 JA Solarは浙江省のセル生産能力を10GWまで引き上げる計画で、Tongweiも成都市で30GWのセル生産ラインを新設する。23年までに100GWのセル生産体制構築を目指す。セル専業メーカーのAiko Solarも中国国内の複数の拠点で生産能力増強に取り組んでいる。

 Jolywoodは高効率のn型&TOPConセルに特化しているが、セル&モジュールの生産能力増強を打ち出している。Jinko Solarは需要が旺盛な単結晶へのシフトを加速しており、20年末の生産能力はセルが11GW、モジュールが25GWになる。Canadian Solarも20年末にはモジュール生産能力を16GWに増強する。

 GCL-SIは安徽省合肥市に60GWのPVメガコンプレックス工場を建設する計画を明らかにした。4年間でウエハー、セル&モジュール、さらには、バックシートやガラス、EVAなど、PVモジュールに必要な部材の生産設備を集積する計画だ。

20年も強気の出荷計画

 好調だった19年に対し、20年のPV市場はさすがに新型コロナウイルスの影響が避けられそうにない。年初には140~150GWの導入が見込まれていたが、最近では、BNEF(Bloomberg New Energy Finance)が20年の導入量を108~143GWに下方修正している。

 中国は20年に50GWの導入が見込まれていたが、CPIA(China Photovoltaic Industry Association)は導入予測を35~45GWに引き下げたことが伝えられている。

 一方、Jinko Solarは中国の導入量を40~50GWと見積もるなど、20年も旺盛な需要が続くとし、出荷量は前年比4割増の18~20GWを計画している。

 Canadian Solarも19年比4割増の10~12GWの出荷を見込んでおり、JA Solarは同6割増の16GWの出荷を計画している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

まとめにかえて

 新型コロナは様々な業種・製造業に広がっており、この太陽電池産業も例外ではありません。生産・出荷の主役である中国企業は国内での感染ピークアウトを受けて、比較的影響は軽微に済んでいますが、需要先の欧州や北米はまだパンデミックの最中にあります。増産投資計画も出てきいますが、導入量自体は減少が避けられそうにありません。

電子デバイス産業新聞