相次ぐ農業化学分野の大型M&A
5月23日、独医薬・農薬大手のバイエルは、遺伝子組み換え種子の世界最大手である米モンサントに対して総額620億ドル(約6兆8,200億円)での全株買収提案を発表しました。これに先立つ5月10日に、バイエルはモンサントに一株当たり122ドルで買収する提案を行っていました。
これに対してモンサントは、この提案を拒否すると報じられています。ただし、買収金額の上積みを狙ったものという見方も有力です。いずれにしても、今年明らかになった買収額では、世界最大規模になることは間違いないと思われます。
種子大手のモンサントと、バイエルの農薬事業であるバイエルクロップサイエンスの統合が実現すると、売上高265億ドル(約2.7兆円)の農業関連売上高が実現します。これは昨年12月に合併合意されたダウケミカルとデュポンの農業関連売上高合計や、今年2月の中国化工集団による世界最大の農薬企業シンジェンタ(スイス)買収の規模をはるかに上回ります。
農業関連企業の世界的な合従連衡は何を目指すのか
昨年以来の農薬・種苗関連の世界的合従連衡に関わる企業の時価総額は相当なものです。バイエルは世界化学企業時価総額ランキング(2016年3月末)で常にトップランクにあります。また、ダウケミカルは第3位、デュポンは第4位で、今回、名前が上がってはいないものの虎視眈々と農業関連企業の買収を狙っている独BASFは第2位です。
これは単なる売上高競争ではありません。新興国は人口が最も増える地域であり、経済がこれからも発展することは間違いなく、結果として世界の食糧増産ニーズは長期的にも増え続けることは明らかでしょう。
大豆、小麦、とうもろこしなどの遺伝子組み換え種子では、既にモンサントが市場を席捲しており、これにバイエルの除草剤などの農薬を組み合わせたビジネスモデルは間違いなく相乗効果をもたらすでしょう。ちなみに、バイエルではモンサントの買収によって、3年後に年間15億ドル(1,650億円)の統合効果を見込んでいるようです。
規模が圧倒的に小さい日本の農業関連企業に未来はあるのか
2014年の世界の農薬売上高ランキングを見ると、日本最大の農薬売上高を誇る住友化学(4005)は第10位に過ぎません。その他日本企業の規模は推して知るべしです。
戦後からの長い期間、日本の農業関連資材(肥料、農薬等}はJAとの蜜月関係で経営が維持されてきました。しかしながら、周知の通り、政府が農業分野にメスを入れようとしている昨今、この旧態依然とした構造は変革を余儀なくされるかもしれません。
日本の農薬企業は専業メーカーのクミアイ化学工業(4996)、日本農薬(4997)を始め、総合化学製品ラインの一分野として展開する企業が圧倒的に多い状況です。三菱ケミカルホールディングス(4188)、三井化学(4183)、日産化学(4021)、石原産業(4028)、日本曹達(4041)、クレハ(4023)などが代表的な企業群です。
その製品ラインは、1)国内の稲作向けの除草剤、殺菌剤など。2)海外の有力な農薬の混合剤として需要が見込まれる製品の輸出、に概ね限られているのが現状です。
日本の農薬メーカーにも経営統合の動き?
このように、世界的な合従連衡の動きと比較すると日本企業は余りにも規模が小さすぎるのが現実です。現状の経営形態を続ける限り、世界で存在感を示す機会はほとんどないと言えるでしょう。
まずは、競争力のある世界的な製品を開発するための研究開発費をどう確保するかが、当面の最大の課題です。そのためにも、筆者は国内の農薬各社の合従連衡があり得るのではないかと考えています。
有望な農薬成分の開発に成功するのは候補化合物に対して10万分の1の確率とも言われており、研究開発効率を向上させる意味でも経営統合は重要な戦略になるでしょう。今後、中堅農薬メーカーでの経営統合の話が出てくるかもしれません。
石原 耕一