4. どれだけ増えるかは、まだ誰にも分からない
では、現役世代の支援金はどれくらい増えるのでしょうか。今の時点では、この問いに数字で答えることはできません。
3割負担に移る人の数は、これまで申告不要とされてきた金融所得が、どの年齢層に、どれだけあるかで決まります。その金額はまだ把握されていません。把握が始まるのは、厚生労働省の案では2028年分の所得からで、反映は2029年8月からです。3割負担に移る人数が分かるまで、現役世代の支援金がどれだけ増えるかは見通せません。
インタビュワーも、金融所得の多い地域では3割負担の人が一気に増える可能性があるのではないかと受け止めていました。
5. 現役世代・FIREへの波及の見立て
泉田氏は、「年齢にかかわらず」という方向が進めば、現役世代も直接の対象になりうると見ています。
例として挙げたのが、FIRE(早期退職して資産収入で暮らす生き方)です。働いての収入はなくても、特定口座の金融所得で暮らしている人は、応能負担の考え方では負担を求められる側に入りうると泉田氏は考えています。
会社員についても、年収に金融所得を足して医療保険の保険料が決まる時代もありうる、と泉田氏は話しました。
ただし、現時点で会社員の健康保険への反映は決まっていません。厚生労働省の資料では、会社員の健康保険では、保険者が金融所得を把握するのは実態上きわめて難しいとされています。
6. まとめ:見るべきは3割負担の人数の動き
75歳以上への金融所得の反映は、確定申告の有無による不公平をなくす改正です。同時に、政府文書の言葉からは、年齢を問わない応能負担への第一歩とも位置づけられています。
現役世代の投資家にとっての観測点は、75歳以上の窓口3割負担の人数だと考えられます。令和5年度の平均で約142万人(約7%)です。2029年8月からとされる反映(案)でこの人数がどれだけ増えるかが、公費の入らない給付費の大きさ、つまり現役世代の支援金への跳ね返りを左右します。厚生労働省の部会資料で、区分別の人数がどう示されるかを追うことが、現役世代の保険料を見通す手がかりになります。
泉田氏は、国の姿勢を前提に置いたうえで、自分の対応を考えることを勧めています。
「国は医療費が増大している中で必ず何とかしたいって、国も医療費を持ってるわけなんで、取れる人から取るってのは今後もやってくるとは思うので、知った上で自分はどう対応するかってことを考えることが必要っていうのが一番大事なメッセージですかね」
注意点もあります。他の人の保険料が軽くなるのは75歳以上の中での話です。現役世代の支援金がどれだけ増えるかは、3割負担に移る人数が分かるまで見通せません。スケジュールはまだ部会の案で、会社員の健康保険への波及は泉田氏の見立てであり、決まった方針はありません。
制度の詳細は、厚生労働省やお住まいの都道府県の後期高齢者医療広域連合が公表する資料でご確認ください。
参考資料
- 厚生労働省「健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)の概要」(2026年6月5日)
- 厚生労働省「後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映のスケジュールについて」(第218回社会保障審議会医療保険部会 資料3、2026年10月16日)
- 厚生労働省「高齢者医療制度について」(第217回社会保障審議会医療保険部会 資料2-1、2026年10月1日)
- 厚生労働省「世代内、世代間の公平の更なる確保による全世代型社会保障の構築の推進(医療保険における金融所得の勘案について)」(第206回社会保障審議会医療保険部会 資料2-2、2025年12月4日)
- 厚生労働省「世代内、世代間の公平の更なる確保による全世代型社会保障の構築の推進(医療保険における金融所得の勘案について)」(第203回社会保障審議会医療保険部会 資料1-2、2025年11月13日)
- 厚生労働省「後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映」(リーフレット)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
※リンクは記事作成時点のものです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。