75歳以上の医療保険料と窓口負担の割合を決めるときに、確定申告していない上場株式の配当や譲渡益も所得として数える改正が決まり、2026年10月には反映のスケジュールが報じられました。
対象が75歳以上なので、自分には関係ないと受け止めた現役世代も多かったのではないでしょうか。
実は、財源の仕組みをたどると、そうとも言い切れません。75歳以上で窓口負担が3割の人の医療給付費(医療費のうち窓口負担を除いた部分)には税金(公費)が入らず、約9割を現役世代からの支援金(現役世代が加入する医療保険から、後期高齢者医療に出しているお金)でまかなっています。金融所得が数えられて3割負担の人が増えれば、支える側の現役世代の負担が重くなる可能性があります。
株式や投資信託に投資している現役世代にとって、これは保険料という形で手取りに関わりうる話です。元機関投資家の泉田良輔氏の解説をもとに、国のねらいと、現役世代に波及しうる経路を整理します。
1. ねらい① 確定申告した人だけが負担していた不公平
これまで、源泉徴収ありの特定口座で売買し、確定申告をしなかった人の配当や譲渡益は、保険料の計算に入っていませんでした。税は源泉徴収で納め終わっていても、所得としては把握されていなかったのです。
一方、不動産収入など年金以外の収入があって確定申告した人は、株の利益も合わせて申告すれば、所得として数えられます。同じ75歳以上で、同じように株で利益を出していても、確定申告の有無で保険料や窓口負担が変わっていました。
泉田氏はこの違いを次のように説明します。
「片方の人は手元にお金があって取引もして儲かってるんだけど、自分の年収を報告するところはなかった。一方は違う収入があるので報告することがあった。これによっていわゆる保険料の負担が変わっているのが実際なんですよ」
厚生労働省も、確定申告の有無で保険料や窓口負担が変わる不公平が発生しており、是正が必要だとしています。改正後は、証券会社などが出す法定調書(取引や支払いの記録を税務当局に出す書類)の情報を個人ごとにまとめ、保険料や窓口負担の割合を決める後期高齢者医療広域連合に送ります。本人の手続きは増えません。
2. ねらい② 「年齢にかかわらず」の第一歩
ねらいは不公平の是正だけではないと、泉田氏は見ています。手がかりは政府の文書の言葉です。
2025年11月21日に閣議決定された「『強い経済』を実現する総合経済対策」は、今回の措置を次のように書いています。
「年齢にかかわらず公平な応能負担を実現するための第一歩として、高齢者の窓口負担割合等に金融所得を反映するため、具体的な法制上の措置を令和7年度中に講じる」
応能負担とは、所得などの負担できる力に応じて負担してもらう考え方です。泉田氏は「年齢にかかわらず」と「第一歩」の2語に注目します。
「今年齢で枠をつけてるけども、年齢じゃなくて『払える人は払ってね』みたいな、医療費の拡大が問題になっているので、それをどんどん下に下ろしていきますよ。年齢が若くても稼いでたら、それはちゃんと払ってねみたいな、そんな話になってますね」
政治の側も、現役世代の反発は意識しているようです。2025年6月11日に自民・公明・維新の3党が署名した合意(政党間の合意で、閣議決定ではありません)は、「現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しの観点から」不公平を是正する必要があるとし、「現役世代から後期高齢者への支援金負担の軽減に配慮する」としています。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。