老人ホームの入居一時金は、数百万円単位になることも少なくない費用です。入居後に「暮らしが合わない」「体調が変わって入院が続く」といった理由で退去することになったとき、払ったお金がどれだけ戻るのかは、契約の前に必ず知っておきたい点です。
入居一時金は「払ったら終わり」の費用ではなく、戻る部分と戻らない部分が分かれている費用です。ここでは、老人福祉法と厚生労働省の指針をもとに、退去の時期によって戻る額がどう変わるのかを確かめます。
試算では、介護付有料老人ホームなどの入居一時金の平均額を使い、入居から3か月以内・1年・3年など、退去の時期ごとに戻る額を出します。あわせて、事業者が倒産したときに備える保全措置と、契約前に重要事項説明書で見ておきたい項目も整理します。
※入居一時金702万円・初期償却率22.6%・償却期間63.9か月は、厚生労働省の補助事業「高齢者向け住まいにおける運営形態の多様化に関する実態調査研究 報告書」(令和5年3月)の、特定施設(介護付有料老人ホームなど)で前払金を受け取っているホームの平均です。
1. 老人ホームの入居一時金は退去したら戻る?初期償却を除いた分が、償却期間の残りに応じて戻る
老人ホームの入居一時金は、老人福祉法では「前払金」と呼ばれ、終身にわたって払う家賃やサービス費用の全部または一部をまとめて先に払うお金です。老人福祉法第29条第9項は、前払金を受け取るホームに、算定の基礎を書面で示すことと、返還に備えた保全措置を求めています。
厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」によると、前払金は「1か月分の家賃相当額×想定居住期間(月数)」を基本に、想定居住期間を超えて住み続ける場合に備えて受け取る額を足して計算します。この上乗せ分が、重要事項説明書の様式でいう「初期償却額」です。
入居一時金702万円・初期償却率22.6%・償却期間64か月で分けると、次のようになります。
- 【初期償却】約158.7万円(入居一時金の22.6%)。入居から3か月を過ぎて退去すると戻らない
- 【償却期間で減っていく分】約543.4万円。64か月で割ると1か月あたり約8.5万円ずつ減り、退去した時点で残っている月数分が戻る
※試算の前提:入居一時金702万円、初期償却率22.6%、償却期間64か月(平均63.9か月を月単位に切り上げ)。償却は入居日から毎月同じ額で進むものとしました。実際の償却の開始日や算定方法はホームの契約によって異なります。
2. 老人ホームの入居一時金は入居後3か月以内に退去したら?日割りの家賃などを除いて戻り、平均702万円なら入居90日で退去しても約676.5万円
老人福祉法施行規則第21条は、入居の日から3か月(条文では「三月」)を経過するまでに契約が解除されたり、入居者が亡くなって契約が終わったりした場合の返還額を決めています。差し引けるのは、家賃などの月額を30で割った額に、入居から契約終了までの日数をかけた額だけです。
つまり、入居後3か月以内の退去では、初期償却の分も含めて入居一時金が原則として戻ります。この扱いは「短期解約特例」とも呼ばれます。3か月を過ぎると、償却期間の残りに応じた額だけが戻る仕組みに切り替わります。
- 【入居30日で退去】約693.5万円
- 【入居90日で退去】約676.5万円
- 【入居3か月を過ぎた直後に退去】約517.9万円
- 【入居1年で退去】約441.5万円
- 【入居3年で退去】約237.7万円
- 【入居64か月以降に退去】0円
※試算の前提:上の章と同じ。3か月以内は、家賃などの月額を約8.5万円(初期償却を除いた額を64か月で割った額)とし、30で割った日割り額に入居日数をかけて差し引きました。月払いの管理費や食費などは含みません。
入居一時金702万円の場合、老人ホームを退去した時期で戻る額1/1
出所:e-Gov法令検索「老人福祉法施行規則」、令和4年度老人保健健康増進等事業「高齢者向け住まいにおける運営形態の多様化に関する実態調査研究 報告書」をもとにLIMO編集部作成
3か月ちょうどで退去した場合と、3か月を過ぎた直後に退去した場合では、戻る額に約158.7万円の差が出ます。この差は初期償却の分です。また、指針は、入居者からの解約の予告期間を設けて、この3か月を事実上短くすることを認めていません。入居開始可能日より前に契約を解除した場合は、受け取ったお金の全額を返すよう求めています。