30代・40代から知っておきたい「インプラント」最新事情

1万人を診た歯科医が本音で教える歯の話

 歯を失った際、あごの骨に人工の歯根を埋めて義歯を装着するインプラント治療。従来の入れ歯やブリッジと比較して、自然な見た目や噛み心地がかなうことから、近年はかなり一般化してきました。

 一方、過去のインプラント治療は、症例が少なく、失敗例もあったことから「リスクが高い手術」「痛くて怖い手術」「年寄りのもの」といったイメージを持つ人も多いかもしれません。また、何度も手術をしたり来院したりする必要があるため、治療の期間がかかることを負担に感じる人も多いはず。

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 そんな中、「最近のインプラント治療は、以前に比べると格段に安全に、さらに治療期間も短く行うことができます」と話すのは、『切らない! 縫わない! 怖くない! フラップレスインプラント』著者の滝澤聡明さん。日本国内のクリニックが行うインプラント手術の平均本数が平均月2~3本の中、月に約100本もの治療を行うインプラントの専門医です。そんな滝澤先生に、最新のインプラント事情を教えてもらいました。

その日に歯が入れられる「即時荷重インプラント」

働く人の間で即時荷重インプラントを選ぶケースが増えている

 このマンガ〈図版参照〉の男性は、過去に治療した歯の具合が悪くなり、いまにも歯が抜けそうな状況になっています。彼のように、国民病ともいえる歯周病を放っておいたら大変なことになってしまった、という患者さんは非常に多くいます。歯周病は早くて30代・40代には自覚症状が出てきます。

 歯がぐらつくと噛むことが難しく、また話しにくいため、人と話す機会の多い営業職や接客業の方などは「とにかく早く治してください!」とクリニックに駆け込んできます。そんな患者さんが近年よく選択しているのが、「即時荷重インプラント」という治療法。

 通常のインプラント治療の場合、埋め込んだインプラントが骨と結合するまで「非荷重治療期間」を設定し、数カ月経過を観察する必要があります。正直、一刻も早く歯を入れたい患者さんとしては待っていられませんよね。

 即時荷重インプラント治療では、手術後すぐに土台と仮の歯を取り付けられるため、見た目を気にすることなく日常生活を送ることができます。前歯を失ってしまった方は見た目が特に気になると思うので、この治療法を選択される方が多くおられます。言葉も通常通り発音可能です。

 ここで入れる仮の歯は、噛むためのものではなく、見た目や発音を重視したものとなっています。このため、食生活が完全に元に戻るわけではありませんが、不便さはだいぶ軽減されます。その後、型取りをして人工歯を取り付けたあとは、自前の歯のような噛み心地が手に入ります。

2回の手術が1回ですむ「1回法」

 インプラント治療に躊躇する人の声としてよく聞くのが、「何度も手術をしなければならないのが面倒、こわい」という声です。

 従来のインプラント治療では、歯肉を切開し、剥離(骨からはがす)してあごの骨にインプラント体を完全に埋め込み、インプラント体が骨と結合するのを待ったあと、再度歯肉を切開・剥離してインプラント体の頭部(キャップ)を露出させ、キャップを取り外して歯の土台を装着していました。つまり、歯が入る前に2回の手術を行っていました。

 なぜこのような手順を踏むかというと、歯肉が開いていると、そこから細菌に感染するリスクがあるからです。ただ、患者さんに正しい歯磨きを徹底してもらえば、このリスクを回避できます。

「1回法インプラント」は、インプラント体を骨内に埋め込んだあと、上部が歯肉の外に出た状態で骨との結合を待ちます。再度、歯肉を切開・剥離する手術をする必要がなく、手術がインプラント埋め入れの手術1回で済むため、「1回法」と呼ばれています〈図版参照〉。体への負担が少ないため、私のクリニックの場合、インプラント手術の約9割を1回法で行うようになりました。

 注意点としては、先ほども申し上げた通り、インプラント体の上部と歯ぐきとのすき間から細菌に感染してしまうリスクがゼロではないため、歯磨きの際によく磨くようにしてもらう必要があることです。

 患者さんにこの点さえ守っていただければ、体の負担が少なくてすむため、患者さんにとってメリットの大きい治療法といえます。また、手術の回数が減るため、注射麻酔が苦手な方にもおすすめです。

1回法と2回法のイメージ(歯ぐきの断面)

こわいドリルを使わない「骨拡大」

 インプラント治療では、あごの骨に穴を開けてインプラント体を埋め込む必要があります。骨に穴を開けるために、一般的にはドリルを使いますが、ドリル独特の音や振動に恐怖感を抱く方は、本当にたくさんいらっしゃいます。また、過去には必要のない箇所まで骨を削ってしまったり、ドリルで神経を傷つけてしまったりといった医療事故も起こっていました。

 こういった事故をなくし、体への負担を少なくするために開発されたのが、「骨拡大」と呼ばれるインプラント治療です。ネーミングはちょっと恐ろしいのですが、ドリルをほとんど使わず、骨を削る量も最小限に抑えられるため、出血量も少ない画期的な治療法です。

 はじめに糸くらいの太さのごく小さな穴を開け、その穴に特殊な専用器具を差し入れて、少しずつ穴を拡げていきます。

 デメリットとして、少しずつ穴を拡張していくため、手術時間がかかることと、技術力と知識が必要なため、一部の歯科医院では受けられないという点が挙げられます。しかし、条件がクリアできれば、メリットの大きい治療法です。骨粗しょう症の方にも対応できるケースもあります。

切らない治療法「フラップレスインプラント」

 従来のインプラント手術は、メスで歯ぐきを切開して骨からはがし、骨を直視できるようにしてからインプラント本体を埋め入れていました。

 ただ、メスを使った外科手術には、誰しも恐怖感を覚えますよね。そんな人におすすめしたいのが、「フラップレスインプラント」という治療法です。「フラップレス」とは、無切開、つまり歯ぐきを切らない術式のこと。私自身も得意としているインプラント治療で、現在は治療の多くをこの術式で行っています。

 フラップレス手術では、手術前にCTなどを使って綿密にシミュレーションを行い、歯ぐきを切らずに小さな穴を開けてインプラントを埋め入れます。内視鏡(腹腔鏡)手術のようなものをイメージしてもらえればと思います。

 あごの骨の形状が把握しづらいため、医師の経験と技術力は必要になってきますが、手術時の患者さんの体への負担が少なく、精神的な負担軽減にもなります。

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きちんと理解した上で治療を

 このように、一口にインプラントといっても、最近はさまざまな種類があります。実際のところ、特に手術経験の少ない歯科医の場合、インプラント手術後に痛みや腫れが生じてしまうことも多く、私のクリニックでは、そうした場合のリカバリー治療を行うこともしばしばあります。

 もちろん、どんなに優れた治療法でも、メリットがあればデメリットもあります。当院でも、治療前にカウンセラーと歯科医師によるカウンセリングを行っていますが、それぞれの治療法の特徴を歯科医師に詳しく説明してもらい、きちんと理解した上で治療を行うようにしてもらいたいと思います。納得のいく治療を進めるためにも、一度、インプラントを専門としているクリニックのカウンセリングを受けることをおすすめします。

 

■ 滝澤聡明(たきざわ・としあき)
 医療法人社団明敬会理事長。歯学博士。神奈川歯科大学卒。1996年に東京都江東区にタキザワ歯科クリニック、2006年に湘南藤沢歯科、2019年に東京日本橋デンタルクリニックを開院。インプラント治療に注力し、「インプラント専門外来」や「インプラントセンター」、インプラントのセカンドオピニオンとリカバリーをメインとする「リカバリーセンター」を設けている。ICOI(国際口腔インプラント学会)日本支部役員、ICOI指導医、ICOI認定医、iACD(国際コンテンポラリー歯科学会)国際理事会理事、UCLAインプラントアソシエーションジャパン理事、厚生労働省認定臨床研修指導医。

滝澤氏の著書:
切らない! 縫わない! 怖くない! フラップレスインプラント

滝澤 聡明

参考記事

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医療法人社団明敬会理事長。歯学博士。神奈川歯科大学卒。1996年に東京都江東区にタキザワ歯科クリニック、2006年に湘南藤沢歯科、2019年に東京日本橋デンタルクリニックを開院。インプラント治療に注力し、「インプラント専門外来」や「インプラントセンター」、インプラントのセカンドオピニオンとリカバリーをメインとする「リカバリーセンター」を設けている。
ICOI(国際口腔インプラント学会)日本支部役員、ICOI指導医、ICOI認定医、iACD(国際コンテンポラリー歯科学会)国際理事会理事、UCLAインプラントアソシエーションジャパン理事、厚生労働省認定臨床研修指導医。