厚生労働省が令和8年7月31日付で出した通知によると、令和9年1月1日から、療養、育児、介護と仕事を両立するために勤務時間を短くして報酬が急に減った人は、標準報酬月額を、減った月の翌月から改定できるようになります。事業主の届出と、本人の書面による同意が必要です。

時短で給与が下がったときに「標準報酬月額を早く下げてもらえば、保険料が安くなって得なのでは」と考える方もいるでしょう。結論から言うと、損得は断言できません。保険料は下がりますが、傷病手当金や出産手当金の額も下がるためです。

この記事では、前半でこの疑問に、厚生労働省と協会けんぽの公表資料(2026年10月時点)と編集部の試算で答えます。続けて、特例の対象と、対象外の条件を確認します。個別の適用は、勤務先と加入している保険者に確認してください。

1. 想定される疑問:時短で給料が下がるなら、標準報酬月額も下げてもらったほうが得って本当?

「保育園の送り迎えのために、来年から時短にします。給料が下がるうえに、会社に頼めば保険料も安くなると聞きました。ただ、病気で休むことになったとき、手当金が減ると思うと、頼むべきか迷って、同僚にも聞けません」。

標準報酬月額が下がると、毎月の保険料は下がります。ただし、傷病手当金や出産手当金の額も、標準報酬月額を基に決まるため、同じように下がります。このため、保険料が下がることだけを見て、得か損かを決めることはできません。答えを3点にまとめると、次のとおりです。

  • 東京の協会けんぽで、標準報酬月額が36万円から28万円に改定されると、本人負担の健康保険料は月4032円下がります(編集部試算)
  • 傷病手当金は、支給開始日以前12か月の平均で決まるため、改定から12か月後に、30日分が5万3400円下がります(編集部試算)
  • 特例は、事業主の届出と本人の書面同意が必要で、自分では申請できません。1等級の差は対象外です

保険料の年間の差は4万8384円で、12か月後の手当金30日分の差5万3400円のほうが大きくなります。ただし、手当金は、病気やけがで休んだときにしか受け取りません。保険料は毎月下がります。

2. 標準報酬月額を下げる特例で、保険料と傷病手当金はどう変わる?4つの場合を通知と試算で確認

読者の方が気にしそうな4つの「もし」を、厚生労働省の通知と、協会けんぽの資料で確認します。いずれも、個別に特例が使えるかどうかを予測するものではありません。

  • もし、標準報酬月額が36万円から28万円に下がったら:本人負担の健康保険料は月4032円下がります。傷病手当金は、12か月後に30日分が24万円から18万6600円へ、5万3400円下がります(編集部試算)
  • もし、標準報酬月額が30万円から28万円の、1等級の差だったら:特例の対象外です。2等級以上の低下が条件です(厚生労働省の通知)
  • もし、報酬が減った初月の支払基礎日数が17日未満だったら:その月は対象外です。短時間労働者などは11日未満が基準です(厚生労働省の通知)
  • もし、勤務先が特例の手続きを取らなかったら:通常の随時改定のとおり、固定的賃金の変動から3か月を要します。勤務先が特例を使うかどうかは、通知からは分かりませんでした

ここからは、この答えの前提になる通知の内容を順に確認します。特例の対象、対象外の条件の順です。

3. 令和9年1月1日から、報酬が急に減った人の標準報酬月額を、翌月から改定できる

厚生労働省の通知(令和8年7月31日付)は、療養、育児、介護と仕事を両立するために、本人と職場の合意のもとで、所定労働時間の短縮や時間外労働の抑制などの就労調整が行われた場合を対象にしています。

その結果として、標準報酬月額が2等級以上低下し、しかもその状態が3か月以上続くことがあらかじめ見込まれる場合に、報酬が減った月の翌月から標準報酬月額を改定できる、とされています。適用は、令和9年1月1日からです。

通常の随時改定では、固定的賃金の変動があった月から3か月を要するため、それまでは従前の標準報酬月額が維持されます。通知は、特例は通常の随時改定とは別の取扱いで、通常の随時改定には適用されない、と書いています。

改定後の標準報酬月額は、報酬が減った初月に受けた報酬の総額が基になります。「療養」には、本人の治療のほか、家族の治療に伴う看護などの対応も含まれます。「育児」は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する場合です。「介護」は、要介護認定または要支援認定を受けている家族を介護する場合です。

厚生労働省の「高額療養費制度を利用される皆さまへ」にも、令和9年1月から、療養、育児または介護と仕事を両立するために勤務時間の短縮等を行い、報酬が大幅に減少した方について、標準報酬月額の特例的な取扱いを開始する予定、と書かれています。保険料と、高額療養費の自己負担限度額の算定の基礎になる標準報酬月額です。

4. 対象になるには、2等級以上の低下・3か月以上の見込み・本人の書面同意が必要で、初月の条件で対象外になる場合がある

通知は、対象者を、被保険者などのうち、次の3つにすべて当てはまる人としています。1つ目は、療養等と仕事を両立するための就労調整が行われていることです。2つ目は、就労調整で報酬が急減し、標準報酬月額が従前より2等級以上低下して、その状態が3か月以上続くことがあらかじめ見込まれることです。3つ目は、特例による改定について、本人が書面で同意していることです。

対象外になる場合も、通知に書かれています。報酬が減った初月の支払基礎日数が17日未満になる場合は、その月は対象外です。初月の全部にわたって勤務せず、報酬が一切支払われなかった場合も、療養等と仕事を両立しているとは言い難いため、対象外です。

そのほか、報酬が減った初月の翌月に被保険者の資格を失う人は、翌月の保険料が賦課されないため、対象になりません。被保険者期間が、報酬が減った初月を含めて3か月未満の人も、届出の対象になりません。

2等級以上という条件は、通常の随時改定と同じ考え方です。1等級だけ下がる場合は、対象になりません。たとえば、東京の協会けんぽの健康保険の等級で、標準報酬月額が30万円(22等級)から28万円(21等級)に下がるだけなら、1等級の差です。

4.1 【標準報酬月額の特例は誰が使える?令和9年1月1日からの対象の条件と、対象外の条件を確認】

前提条件:厚生労働省の通知「療養、育児又は介護により報酬が急減した者についての標準報酬月額の保険者算定の特例について」(令和8年7月31日)による。適用は令和9年1月1日から1/1

前提条件:厚生労働省の通知「療養、育児又は介護により報酬が急減した者についての標準報酬月額の保険者算定の特例について」(令和8年7月31日)による。適用は令和9年1月1日から

出所:厚生労働省「療養、育児又は介護により報酬が急減した者についての標準報酬月額の保険者算定の特例について」

  • 対象の条件1:療養、育児または介護と仕事を両立するための就労調整が行われていることです。
  • 対象の条件2:報酬が急減し、標準報酬月額が2等級以上低下して、その状態が3か月以上続くことがあらかじめ見込まれることです。
  • 対象の条件3:特例による改定について、本人が書面で同意していることです。
  • 対象外1:報酬が減った初月の支払基礎日数が17日未満(短時間労働者などは11日未満)になる場合です。
  • 対象外2:初月の全部にわたって勤務せず、報酬が一切支払われなかった場合です。
  • 対象外3:報酬が減った初月の翌月に被保険者の資格を失う場合です。
  • 対象外4:被保険者期間が、報酬が減った初月を含めて3か月未満の場合です。

5. 【編集者の視点】

通知を順に読むと、この特例は、本人が選んで使う制度というより、事業主が届け出て、本人が同意する形で動く取扱いだと分かります。勤務時間を短くする話し合いと、標準報酬月額を下げる手続きが、別々のものとして進む点に、注意が必要だと思います。

勤務時間を短くしても、特例の手続きが取られなければ、標準報酬月額は、通常の随時改定のとおり、固定的賃金の変動から3か月を要します。働き方を決める話し合いの場で、標準報酬月額の取扱いも、あわせて確認しておくことが、通知の内容からは、大事に思えます。

ただし、勤務先がどう対応するかは、通知からは分かりません。就業規則や社内の運用に関わる部分は、確定した話として受け取らず、勤務先の担当部署に確かめてください。

6. まとめ

令和9年1月1日から、療養、育児、介護と仕事を両立するために勤務時間を短くして、標準報酬月額が2等級以上下がり、3か月以上続く見込みの人は、報酬が減った月の翌月から、標準報酬月額を改定できます。事業主の届出と、本人の書面同意が必要です。

1等級の差では対象になりません。報酬が減った初月の支払基礎日数が17日未満、初月に報酬が一切ない、翌月に資格を失う、被保険者期間が3か月未満の場合も、対象外です。