出産にはまとまった費用がかかるため、出産育児一時金を使っても自己負担が発生するケースがあります。こうした負担を軽減するため、国は出産費用の自己負担をなくすことをめざした新たな給付制度の検討を進めており、2026年10月16日の厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会では、12月頃をめどに給付水準を含めた制度の全体像をまとめる進め方の案が示されました。
新しい仕組みでは、保険診療以外の分娩費用について国が基本単価を定め、保険者から医療機関へ直接支払うことで妊婦の負担を軽減します。あわせて、すべての妊婦に対する定額の現金給付も検討されています。本記事では、今後の議論の方向性や現行制度との違い、都道府県別の平均出産費用について見ていきます。
1. 12月頃をめどに、基本単価と現金給付の水準を含む全体像をまとめる
まずは、2026年10月16日の医療保険部会の資料から、法律で決まったことと、今後の進め方を確認します。
1.1 2026年6月公布の法律で、出産の給付の仕組みを見直すことが決まった
2026年6月5日に公布された健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)で、出産に伴う妊婦の経済的負担を軽くするため、出産の標準的な費用にかかる給付の仕組みを見直すことが決まりました。この出産の給付の見直しの施行は、公布から2年以内に政令で定める日です。法律全体の施行日は、原則として2027年(令和9年)4月1日です。
同じ法律では、妊婦健診の負担を軽くするため、国が「望ましい基準」の範囲内の検査について標準額を定めることなども盛り込まれました。こちらも施行は公布から2年以内です。
1.2 10月から議論を始め、12月頃に成案をめざす
医療保険部会の資料では、分娩1件あたりの基本単価(分娩費)の水準、妊婦への現金給付(出産時一時金)の水準、保険料財政への影響、サービスの見える化のあり方を検討し、12月頃をめどに成案を得る進め方の案が示されました。
10月に議論の進め方を整理し、その後、基本単価と現金給付の水準の考え方や実態調査の結果を踏まえた議論を行い、12月頃に給付水準を含めた制度の全体像をまとめる流れです。最終的には、中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問するとしています。
出産の新しい給付は、12月頃をめどに給付水準を含めた全体像をまとめる案です。1/4
出所:厚生労働省「医療保険制度における出産に対する支援の強化について」(第218回社会保障審議会医療保険部会 資料2)をもとにLIMO編集部作成
2. いまは一時金50万円。新しい仕組みは施設への直接支払いと現金給付の2本立て
次に、いまの出産育児一時金と、新しい仕組みの違いを整理します。
2.1 出産育児一時金は原則50万円。2023年度は77万件、3720億円
いまの出産育児一時金は、2023年(令和5年)4月から原則50万円です。内訳は、本人への支給分48万8000円と、産科医療補償制度の掛金分1万2000円です。
2023年度の支給件数は77万件、支給額は3720億円でした。
2.2 基本単価は国が決めて施設に直接支払い、別にすべての妊婦へ現金給付
新しい仕組みでは、保険診療以外の分娩の費用について、分娩1件あたりの基本単価を国が全国で同じ水準に決めます。保険者から施設に直接支払い(現物給付)、妊婦に負担が生じないようにします。施設の体制や役割に応じた加算も設けます。
これとは別に、保険診療の一部負担金など出産時の費用の負担を軽くするため、すべての妊婦に定額の現金給付を行います。施設の選択により、当分の間は、施設単位でいまの出産育児一時金の仕組みを使うこともできます。
3. LIMO編集部の計算例:東京都の平均出産費用は一時金の本人分を16万309円上回る
都道府県別の平均出産費用と、いまの出産育児一時金の本人への支給分を比べます。
3.1 前提は令和6年度の平均出産費用と、一時金の本人分48万8000円
LIMO編集部の計算例として、厚生労働省の資料にある令和6年度の都道府県別の平均出産費用(保険診療を伴わない分娩)と、出産育児一時金の本人への支給分48万8000円を比べます。
平均出産費用は、妊婦が支払った合計額から、室料差額、産科医療補償制度の掛金、その他の費目を除いた額です。このため、一時金のうち掛金分を除いた本人への支給分と比べています。
3.2 東京都は16万309円上回り、熊本県は8万3589円下回る
令和6年度の平均出産費用が最も高い東京都は64万8309円で、一時金の本人分48万8000円を16万309円上回ります。
最も低い熊本県は40万4411円で、本人分を8万3589円下回ります。東京都と熊本県の差は24万3898円です。
東京都の平均出産費用は64万8309円で、一時金の本人分48万8000円を16万309円上回ります。3/4
出所:厚生労働省「医療保険制度における出産に対する支援の強化について」をもとにLIMO編集部作成
出産費用の自己負担をなくす新たな給付制度は、子育て世帯の経済的な不安を和らげる可能性があり、今後の給付水準の議論に注目が集まります。出産を考えている家庭は、制度改正の動向とあわせて勤務先の出産・育児支援制度も確認し、出産後の家計や働き方の計画に役立てるとよいでしょう。
ここからは、室料差額などを含めた妊婦の負担額と、分娩を取り扱う施設の数を見ていきます。