つい数年前まで、銀行にお金を預けても利息は「ゼロ」という感覚だったのではないでしょうか。それが今や、ゆうちょ銀行の10年定期で年1.25%。100万円を預ければ、税引前で約13万円の利息がつく計算です。
ただし、私がアナリストとして利回りを見てきた経験からいえば、確かめるべきことが3つあります。税金を引いたらいくら残るのか。他の選択肢と比べてどうなのか。そして、物価が上がった分を差し引いてもお金は増えているのか。
この記事では、ゆうちょ定期、個人向け国債、ネット銀行の定期預金を、この3つの物差しで比べます。
ゆうちょ定期:10年で利息約13万円、ただし手取りは約10万6000円
ゆうちょ銀行は2026年8月10日に定期貯金の金利を引き上げました。5年は0.70%から1.00%へ、10年は0.90%から1.25%へと、いずれも0.3pt以上の引き上げです(ゆうちょ銀行「貯金金利の引き上げ」2026年8月7日)。
では、100万円を預けると実際にいくら手元に残るのでしょうか。預金の利息には20.315%の税金がかかります。その分を差し引いたのが下です。
- 【1年定期】金利は年0.50%。利息は税引前で5,000円、税引後で約3,980円です。
- 【3年定期】金利は年0.80%。利息は税引前で約2万4200円、税引後で約1万9300円です。
- 【5年定期】金利は年1.00%。利息は税引前で約5万1100円、税引後で約4万800円です。
- 【10年定期】金利は年1.25%。利息は税引前で約13万2700円、税引後で約10万5700円です。
※100万円を預けた場合の試算。3年以上は半年複利。税引後は税引前利息×(1-20.315%)の概算で、実際の受取額とは端数が異なる場合があります。
10年預けて、手取りは約10万6000円。年率に直すと、税引後の利回りは約1.0%ということになります。
なお、ゆうちょ銀行は9月18日、通常貯金の金利を11月9日に0.40%から0.50%へ引き上げると発表しました。定期性貯金も引き上げる予定ですが、新しい金利と開始日は未発表です(ゆうちょ銀行「貯金金利の引き上げについて」2026年9月18日)。
個人向け国債・ネット銀行と比べると、ゆうちょ定期は「利回りでは見劣り」
利回りだけで比べると、個人向け国債の固定5年は2.39%。ゆうちょの5年定期(1.00%)の2倍以上です。ただし、お金の置き場所を選ぶときには、「途中で引き出したくなったらどうなるか」も同じくらい大切です。一つずつ見ていきましょう。
- 【個人向け国債 固定5年(10月募集)】金利は年2.39%(固定)で、税引後の利回りは約1.90%。100万円の利息は、満期までの5年間で税引前11万9500円です。発行から1年たてば中途換金でき、直前2回分の利子(税引後)が差し引かれますが、元本は割れません。【個人向け国債 固定3年(10月募集)】金利は年2.07%(固定)で、税引後は約1.65%。3年間の利息は税引前6万2100円です。中途換金のルールは固定5年と同じです。
- 【個人向け国債 変動10年(10月募集)】初回の金利は年2.05%で、半年ごとに見直されます。税引後は約1.63%。この金利が10年続けば、利息は税引前で約20万5000円になります。中途換金のルールは固定5年と同じです。
- 【ネット銀行 1年定期】上位行の金利は年1.40~1.70%程度(2026年10月6日時点。SBJ銀行1.70%、大和ネクスト銀行1.60%、あおぞら銀行1.40%など)。税引後は約1.1~1.35%で、1年の利息は税引前1万4000~1万7000円です。途中で解約できますが、低い中途解約利率が適用されます。
- 【ゆうちょ 10年定期】金利は年1.25%(固定)で、税引後は約1.00%。10年間の利息は税引前で約13万2700円です。途中で引き出せますが、低い期間内払戻利率が適用されます。
- 【ゆうちょ 通常貯金】金利は年0.40%(11月9日から0.50%)で、税引後は約0.32%。いつでも自由に引き出せます。
※個人向け国債は10月募集(発行日2026年11月16日)の利率。ネット銀行は2026年10月6日時点で、口座保有や預入額などの条件があります。税引後利回りは税引前×(1-20.315%)。中途換金・中途解約の条件は商品ごとに異なるため、購入前に財務省・各金融機関の公式情報でご確認ください。
ここで注目したいのは、個人向け国債の「中途換金」の仕組みです。発行から1年たてば、直前2回分の利子を差し引くだけで、国が額面で買い取ってくれます。市場で売買する普通の債券と違い、金利が上がっても元本が割れないのです。
つまり、「利回りは高いが最初の1年は引き出せない国債」と「利回りは低いがいつでも解約できる定期」の選択ということになります。
物価を差し引くと、定期預金は「実質マイナス」
さて、ここからが本題です。利息でお金が増えても、同じお金で買えるものが減っていたらどうでしょうか。
2026年8月の全国消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で前年比+1.7%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合で+1.9%でした(大和総研「2026年8月全国消費者物価」2026年9月18日。政府の電気・ガス代補助が押し下げている面もあり、民間のエコノミストからは年末にかけて伸びが高まるとの見方も出ています(第一生命経済研究所「消費者物価指数(東京都区部・2026年8月)」2026年8月28日)。
ここでは仮に、物価上昇率を年2%として計算してみます。税引後利回りから2%を引いたものが、おおよその「実質利回り」です。
- ゆうちょ 通常貯金:0.32%-2% = ▲1.7%
- ゆうちょ 10年定期:1.00%-2% = ▲1.0%
- ネット銀行 1年定期(1.70%):1.35%-2% = ▲0.65%
- 個人向け国債 固定5年:1.90%-2% = ▲0.1%
どれもマイナスです。とはいえ、その幅には大きな差があります。
100万円を通常貯金に置いたままにすると、買えるものは1年で約1万7000円分減ります。個人向け国債なら、その目減りを約1000円まで抑えられる計算です。預金や国債で「増やす」のではなく、「目減りをどこまで小さくできるか」という競争になっている、といえるでしょう。
アナリストの検証:ゆうちょ10年定期の金利は「10年縛られる対価」に見合うか
債券の世界には、「長く縛られるなら、その分の上乗せをもらう」という素朴な原則があります。5年より10年の方が金利が高いのは、そのためです。
この物差しでゆうちょの10年定期を見ると、少し不思議なことに気づきます。10年縛られて年1.25%。一方で、個人向け国債の固定3年は3年で2.07%です。より長く預けるのに、利回りは低い。上乗せどころか、割り引かれているともいえます。
もう一つ。金利が上がり始めた局面で長期の固定金利を選ぶのは、「この先もっと良い金利に乗り換える権利」を手放すことでもあります。その権利を手放す対価が「年0.75ptの上乗せ」(1年定期0.50%に対して10年定期1.25%)だと考えると、前の節の試算で見たとおり、金利が穏やかに上がるだけで逆転されてしまいます。
もちろん、定期預金には「身近な窓口ですぐに手続きできる」「最初の1年でも解約できる」という良さがあります。それを否定するつもりはありません。
しかし、私は利回りを見るとき、「その預け方で、縛られる期間に見合う対価を受け取れているか」を最後の物差しにすべきだと考えています。その観点では、今の金利水準で「10年固定に全額」を選ぶ理由は、それほど多くないということになります。
まとめ
ゆうちょの10年定期は「利息13万円」と聞くと魅力的です。しかし税引後では年約1.0%で、物価上昇率を下回ります。個人向け国債の固定5年(2.39%)など、より短い期間で高い利回りが得られる選択肢もあります。
大切なのは、金利の高さよりも「そのお金をいつ使うか」から逆算することでしょう。生活防衛資金はいつでも引き出せる場所に。数年使わないお金は、元本が割れず利回りの高い個人向け国債や、短めの定期に分けて置く。金利が上がる局面では、「長く固定しない」こと自体が一つの備えになります。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入を勧めるものではありません。金利は2026年10月中旬時点の公表情報に基づき、試算は概算です。税制・中途換金の条件などは、財務省や各金融機関の最新の公式情報をご確認ください。
参考資料
• ゆうちょ銀行「貯金金利の引き上げ」2026年8月7日(https://www.jp-bank.japanpost.jp/aboutus/press/2026/pdf/pr26080701.pdf)
• ゆうちょ銀行「貯金金利の引き上げについて」2026年9月18日(https://www.jp-bank.japanpost.jp/aboutus/press/2026/pdf/pr26091803.pdf)
• 財務省「個人向け国債」(https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/)
• 各ネット銀行の公式サイト(2026年10月6日時点の公表金利)
• 大和総研「2026年8月全国消費者物価」2026年9月18日(https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20260918_026079.pdf)
• 第一生命経済研究所「消費者物価指数(東京都区部・2026年8月)」2026年8月28日(https://www.dlri.co.jp/files/macro/654644.pdf)