「金利が高くなってきたけれど、高配当株と国債・債券、どちらがいいのだろう」——東京都に住む50代会社員のCさんは、そう話します。
10年国債の利回りは年3%前後まで上昇し、個人向け国債も全タイプで年2%を超えました。株式の平均配当利回りと、ほぼ同じ水準です。ただし、「利回りが同じなら安全な国債でよい」とは限りません。そもそも国債はNISAでは買えませんし、子どもの独立が見えてきたCさんにとっては、これからの約10年をどう使うかが大切です。
本記事では、財務省や総務省、日本取引所グループの公表資料をもとに、金利と配当のいま、NISA成長投資枠の使い方を整理します。そのうえで、専門分野の異なるLIMO編集部メンバーと、監修者の泉田良輔が解説します。
※実際のご相談をもとに、一部内容を変更しています。
「金利が上がったいま、何を買えばいいのか」50代会社員Cさんのご相談
Cさん(50代)は、東京都に住む会社員です。妻と、20歳と18歳の子どもの4人家族です。
Cさん世帯の状況
• 家族:本人50代(会社員)、妻、子ども2人(20歳・18歳)
• 子ども:上の子は国立大学に在学(授業料は年約60万円)、下の子は高校卒業後に就職予定
• 住まい:東京都
• 積立投資:毎月10万円
• 預貯金:800万円
• NISA:成長投資枠に未使用分あり
Cさんが気になっているのは、最近の金利の上昇です。
「金利が高くなってきました。資産運用を考えるときに、高配当株に投資するのがいいのか。それとも、国債や債券のほうがいいのか、迷っています」
もう一つの関心は、NISAです。
「NISAの成長投資枠もまだ残っているので、有効に活用していきたいと思っています」
Cさんのご相談は、次の2つに整理できます。
• 金利が上がったいま、高配当株と国債・債券のどちらを選ぶべきか
• NISAの成長投資枠をどう活用するか
教育費の出口が見えた50代は、老後資金を積み増す時期
Cさんの下の子は、高校を卒業して就職する予定です。上の子は国立大学に在学中で、授業料は年約60万円。上の子が卒業すれば教育費はかからなくなり、子どもの独立が見えてきた段階です。ここから定年までの約10年は、老後資金を積み増す「最後の貯めどき」ともいえます。
- 貯蓄:Cさん世帯は預貯金800万円(このほか積立投資あり)。世帯主50~59歳の平均は1756万円、全世帯の中央値は1264万円(総務省統計局「家計調査報告 貯蓄・負債編 2025年(令和7年)平均結果の概要」)
- 負債:世帯主50~59歳の平均は743万円(同上)
- 毎月の消費支出:世帯主50~59歳の勤労者世帯の平均は37万4940円(総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」)
Cさんの預貯金800万円は、50代世帯の平均を下回ります。ただし、毎月10万円の積立投資を続けており、預貯金だけで判断することはできません。
預貯金800万円のうち、生活の予備費は約450万円が目安
急な出費や収入の減少に備える「生活の予備費」を、50代の勤労者世帯の平均的な消費支出で試算すると、次のとおりです。
• 半年分:37万4940円×6カ月=約225万円
• 1年分:37万4940円×12カ月=約450万円
1年分の約450万円を予備費とし、上の子の残りの授業料(年約60万円×残り2年と仮定して約120万円)を差し引いても、預貯金には約230万円の余裕があります。上の子が卒業して教育費がかからなくなれば、毎月の家計にも余裕が出てくる可能性があります。この余裕をどこに置くかが、Cさんのご相談の本題です。
国債の利回りと株式の配当利回りは、いまほぼ同じ水準
10年国債の利回りは年3.089%(2026年10月8日)まで上昇しています。個人向け国債の2026年10月募集分は、全タイプで年2%を超えました。一方、東証プライム市場の平均配当利回りは約2.2%です。
主な利回りは次のとおりです(いずれも年率・税引前)。
- 10年国債(流通利回り):3.089%(2026年10月8日、財務省「国債金利情報」)
- 個人向け国債 固定5年(第187回):2.39%(2026年10月募集、財務省「個人向け国債 固定5年 第187回」)
- 個人向け国債 固定3年(第197回):2.07%(2026年10月募集、財務省「個人向け国債 固定3年 第197回」)
- 個人向け国債 変動10年(第199回):初回2.05%(2026年10月募集、財務省「個人向け国債 変動10年 第199回」)
- プライム市場の平均配当利回り:単純平均2.15%、有配会社のみでは2.21%(2026年8月末、日本取引所グループ「株式利回り(2026年8月)」)
国債の利子も株式の配当も、通常は20.315%の税金がかかります(国税庁「No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)」)。100万円を投じた場合の1年間の受取額を比べると、次のとおりです。
- 個人向け国債 固定5年:100万円×2.39%×(1-20.315%)=約1万9045円
- 配当利回り2.2%の株式(課税口座):100万円×2.2%×(1-20.315%)=約1万7531円
- 配当利回り2.2%の株式(NISA):100万円×2.2%=2万2000円
受け取る額だけを見れば、大きな差はありません。本当の違いは、次にみる「元本がどう動くか」にあります。
※配当利回りは株価や業績によって変動し、将来の配当を約束するものではありません。税率は令和8年4月1日現在の法令等によるものです。
高配当株と国債・債券は「どちらが得か」ではなく「役割が違う」
利回りが同じように見えても、高配当株と国債・債券では、元本の動き方がまったく違います。
個人向け国債
- 元本:国が元本と利子の支払いを行う。価格の変動はない
- 受け取るお金:利子(固定または半年ごとに変動)
- 金利上昇の影響:変動10年は利率が上がる
- NISA:対象外
市場で売買する債券(既発債など)
- 元本:満期まで持てば額面で償還。途中で売ると価格は金利で変動する
- 受け取るお金:利子(発行時に決まる)
- 金利上昇の影響:すでに持っている債券の価格は下がる
- NISA:対象外
高配当株
- 元本:株価が変動し、元本を下回ることがある
- 受け取るお金:配当(業績で増えることも、減ることもある)
- 金利上昇の影響:業種や企業によってプラスにもマイナスにもなる
- NISA:成長投資枠の対象
個人向け国債は、発行から1年たてば中途換金できます。その際は、直前2回分の利子に相当する額(税引後)が差し引かれます(財務省「個人向け国債」)。
「いつ使うお金か」で置き場所を分ける
Cさんの場合、お金は大きく2つに分けられます。
生活の予備費(生活費の約1年分)と上の子の残りの授業料
- 使う時期:急な出費や収入減のとき、卒業までの約2年
- 向きやすい置き場所:預貯金、個人向け国債など、元本が大きく動かないもの
老後の資金
- 使う時期:10年以上先
- 向きやすい置き場所:株式など、価格は動くが長期で成長が期待できるもの。地域や業種を分散する
高配当株は、老後の資金の置き場所の選択肢の一つです。ただし、配当利回りが高いのは、株価が低いことの裏返しの場合もあります。少数の銘柄や特定の業種に偏ると、減配や株価下落の影響を大きく受けます。
逆に、生活の予備費まで高配当株に移すと、急にお金が必要になったときに株価が下がっているおそれがあります。金利が上がったいまは、「使うお金を元本が動かないところに置いても、利子がつく」状況になったともいえます。
NISA成長投資枠は、国債ではなく「10年以上先に使うお金」で使う
NISAの年間投資枠は、つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円です。生涯の非課税保有限度額は1800万円で、うち成長投資枠は1200万円が上限です(金融庁「NISA特設ウェブサイト」)。
Cさんの毎月10万円の積立は、年間で120万円。つみたて投資枠で行っていれば、その枠はすでに使い切っている計算です。
成長投資枠で買えるもの、買えないもの
- 成長投資枠の対象
- 上場株式(高配当株を含む)
- ETF(上場投資信託)・REIT
- 公募株式投資信託(毎月分配型や信託期間20年未満などは対象外)
- 成長投資枠の対象外
- 国債・地方債などの公社債
- 公社債投資信託
つまり、「金利が上がったから、成長投資枠で国債を」という使い方はできません。国債は課税口座で、成長投資枠は株式や投資信託で、と分けて考えることになります。
非課税の効果が大きいのは「長く持つもの」
NISAの非課税は、利益が大きいほど効果が大きくなります。例えば、値上がり益と配当で100万円の利益が出た場合、課税口座なら約20万3150円の税金がかかりますが、NISAではかかりません。
一方で、NISA口座で出た損失は、ほかの口座の利益と相殺(損益通算)できず、翌年以降への繰越しもできません。この数年で使うお金をNISAで運用し、値下がりしたところで売ってしまうと、非課税のメリットを生かせません。
編集部のアドバイザーはこう見る
LIMO編集部には、実務経験や専門分野の異なる6人のメンバーが在籍しています。宮野茉莉子、村岸理美、太田彩子、中本智恵、安達さやか、和田直子です。証券会社や銀行、信託銀行、生命保険会社、自治体での実務経験を持ち、CFP®や1級・2級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員などの資格を保有しています。
本企画では、ご相談のテーマに専門が合うメンバーが輪番でコメントします。Cさんのご相談は「資産の選び方」と「NISAの活用」が論点のため、今回は証券会社での資産運用の実務と、銀行での個人のお金の相談に携わったメンバーが担当しました。
資産運用の専門から
証券会社の店頭でも、「高配当株か、債券か」というご相談はよくいただきました。そのときにまず伺っていたのが、「そのお金をいつ使う予定か」です。
Cさんの場合、教育費の出口が見え、お金は「いざというときの予備費」と「老後の資金」に分けやすくなりました。予備費は、金利がつくようになった預金や個人向け国債で備え、株式は老後の資金として長く持つ。そう分けるだけで、相場が下がったときの安心感は大きく変わります。
NISA・税の専門から
「成長投資枠を使わないともったいない」と感じる方は多いのですが、年間の枠を使い切ること自体が目的ではありません。生涯の非課税保有限度額は1800万円あり、上のお子さんが卒業して毎月の家計に余裕が出てきたら、その分を成長投資枠で積み増していく使い方もできます。
高配当株をNISAで買う場合は、配当金の受取方法が「株式数比例配分方式」になっているかも必ず確認してください。銀行や郵便局で受け取る設定のままだと、せっかくの非課税が生かせません。
監修者・泉田良輔の視点
「高配当株と国債、利回りが同じならどちらが得か」——皆さんは、どうお考えになるでしょうか。
私は機関投資家として多くの企業を分析してきましたが、配当利回りは、株式市場がその企業につけた「値段」の裏返しです。利回りが高いのは、配当が多いからではなく、株価が安いからかもしれない。そして株価が安いのには、たいてい理由があります。
つまり、国債の利回りは「約束された数字」、配当利回りは「いまの株価で計算した結果の数字」ということになります。同じ2%台でも、意味はまったく違うのです。
株式を持つ意味は、配当だけではありません。企業が稼ぐ力を高め、利益と一緒に株価も配当も伸びていくことにあります。だからこそ、株式は10年以上の時間をかけられるお金で持ち、すぐに使うお金は国債や預金で備える。金利が戻ってきたいまは、この当たり前の分業が、ようやく個人にもやりやすくなった局面といえるでしょう。
私は「高配当株か、国債か」を選ぶよりも、「どのお金を、どれだけの時間軸で持つか」を先に決めることが、Cさんにとっての一番の答えだと考えています。
まとめ:金利上昇は「使うお金」と「育てるお金」を分けやすくした
個人向け国債は全タイプで年2%台となり、株式の平均配当利回りとほぼ並びました。ただし、元本の動き方もNISAの扱いも異なるため、「高配当株か国債か」の二択ではなく、お金を使う時期で役割を分けるのが現実的です。
まず取り組めることは次の3つです。
- 生活費の約1年分と上の子の残りの授業料を予備費として決め、その分は預貯金や個人向け国債で備える
- 成長投資枠は、10年以上使わないお金で、株式や投資信託を分散して持つために使う
- 高配当株をNISAで買うなら、配当金の受取方法を「株式数比例配分方式」にする
本記事は情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の勧誘や推奨を行うものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。金利や配当利回りは記載の時点のもので、将来の利回りを約束するものではありません。税制やNISAの制度は令和8年10月時点の情報にもとづいています。個別の判断は、取引する金融機関や税務署、税理士などの専門家にご確認ください。
※本記事は実際のご相談をもとに構成しています。プライバシーに配慮し、個人が特定されないよう、内容の一部を変更しています。
※毎月10万円の積立投資は、NISAのつみたて投資枠で行っていると仮定しています。
※上の子の授業料は、卒業までの残りを2年と仮定しています。
※生活の予備費は、50代の勤労者世帯の平均的な消費支出で試算しています。実際には、ご家庭の毎月の支出をもとに決める必要があります。
参考資料
• 財務省「国債金利情報」(https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/index.htm)
• 財務省「個人向け国債」(https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/index.html)
• 財務省「個人向け国債 固定5年 第187回」(https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/main/issue/kotei5/No_187.html)
• 財務省「個人向け国債 固定3年 第197回」(https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/main/issue/kotei3/No_197.html)
• 財務省「個人向け国債 変動10年 第199回」(https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/main/issue/hendou10/No_199.html)
• 日本取引所グループ「株式利回り(2026年8月)」(https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/monthly/t13vrt000001ypy8-att/05_yield2608.pdf)
• 総務省統計局「家計調査報告 貯蓄・負債編 2025年(令和7年)平均結果の概要」(https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/pdf/2025_gai.pdf)
• 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」(https://www.stat.go.jp/data/kakei/2025np/pdf/summary.pdf)
• 金融庁「NISA特設ウェブサイト」(https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html)
• 金融庁「NISAを利用する皆さまへ」(https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/slide_202406.pdf)
• 国税庁「令和6年1月1日から開始する新NISAの概要」(https://www.nta.go.jp/users/gensen/nisa/pdf/shinnisa.pdf)
• 国税庁「No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1330.htm)
LIMO編集部