感覚的には、これだけ高齢者の保有者が増えれば、自動車事故も増えて当然かもしれないと納得する人も多いでしょう。さらに、もっと高齢の80歳以上の運転免許保有者の状況を見てみましょう。ちなみに、前述した今年4月の東池袋における死亡事故の加害者ドライバーは何と88歳でした。80歳超の高齢者の運転による痛ましい事故は、決して珍しくない時代なのです。
平成30年末における80歳以上の運転免許保有者は約227万人います。平成17年末には約75万人でしたので、13年間でちょうど3倍に増加しました。なお、全保有者に占める割合は、平成17年末が1.0%、平成30年末が2.8%です。つまり、現在は、運転免許保有者の100人の約3人が80歳以上となっているのです(注:この3人は、前述した75歳以上の7人に含まれる)。
ここ数年、地方自治体は高齢者に対して、様々なクーポン券配布等により、運転免許証の返上を奨励しています。そして、その効果により、返上者数は着実に増加していると言われています。しかし、それでもなお、保有者における高齢者の割合が増加しているのが現状です。
一方で、こうした高齢者の運転免許保有者は、いわゆるペーパードライバーなど、実際には運転していない比率が高いという見方もあります。確かに、それは一理あるでしょう。しかし、日本国内の自動車保有台数が7,800万台弱、運転免許保有者数が8,200万人超であることからも、高齢者による“稼働率”は意外に高いかもしれません。
単純な年齢制限は不可能、官民一体となった対策が急務
いずれにせよ、ここ数年急増してきた高齢者による運転事故は、今後も増加していくことは確実です。そこで議論されているのが、運転免許の上限年齢の設定です。例えば、70歳以降は運転免許更新を認めないという類のものです。
しかしながら、このような単純な年齢制限を実施するのは、地方都市で生活する人々には死活問題です。地方では、最寄りのコンビニ店舗まで10km程度を要するのはごく普通であり、クルマの移動は必要不可欠です。100~200mおきにコンビニやスーパーが並ぶ都心とは全く異なります。
だからと言って、このまま毎年同じような悲惨な事故が起きるのを見過ごすこともできません。悲惨な事故を1件でも少なくするために、政府や地方自治体のみならず、自動車メーカーを始めとする民間企業も含めて、真剣に対応策を考えないといけません。
ただ、どのような施策になっても、各種法律の改正が必要になるため、相応の時間を要するでしょう。もう一刻の猶予も許されないというのは、決して言い過ぎではありません。
葛西 裕一