トルコのイスタンブールで一頭のけがをした動物を救ったことから始まり、現在スペインを拠点に国際的な動物保護活動を展開する「Let’s Adopt」。
設立から15年以上にわたり、専門的な治療や長期のケアを必要とする重症の犬や猫たちに向き合い続けています。
多くの人が目を背けたくなるような過酷な状況から、動物たちが新しい家族と穏やかな日常を取り戻すまでには、どのような壁と喜びがあるのでしょうか。
LIMO編集部では、「Let’s Adopt」の代表であるViktor Larkhill(ヴィクトル・ラークヒル)さんに、活動の裏側と、私たちが今日から始められる具体的なアクションについて伺いました。
1. きっかけは目の前の「一頭」を助けたことだった
ヴィクトルさんが活動を始めたきっかけは、イスタンブールで暮らしていた頃に路上でけがや病気に苦しむ犬や猫に出会ったことでした。
「はじめから国際的な団体を作ろうとしたわけではなく、目の前で助けを必要としている一頭を獣医に連れて行き、新しい家族を探すという身近な行動からのスタートでした」とヴィクトルさんは語ります。
しかし、一頭を救っても、次々と助けを必要とする動物が現れる現実に直面し、行き場のない動物が生まれ続ける根本的な原因に目を向けるようになります。
不妊・去勢手術を行い、元の場所に戻す活動(TNR)を通じて望まれない繁殖を防ぐ重要性を学ぶとともに、活動の重点は次第に「複雑な治療を必要とする重症の動物たち」へと移っていきました。
ーーー保護活動を行う中で、とくに心がけていることは何でしょうか?
活動において最も重きを置いているのが、外見の悲惨さだけで動物の将来を判断しないことです。その象徴が、脚に巨大な腫瘤を抱えて保護された犬「アルマ」のケースです。
見た目のインパクトに圧倒されず、専門的な獣医療チームと連携して正確な診断を下した結果、腫瘤は良性であり、脚を残す手術に成功しました。
「もう何もできないと諦める前に、優秀な獣医療チームと治療の選択肢を検討し、動物の生活の質(QOL)を第一に判断することが重要です」と、専門家との連携の大切さを強調します。
2. 保護活動において最も困難な課題は「継続」
ーーー 活動を続ける中で、最も壁だと感じる課題は何ですか。また、どのような瞬間に一番のやりがいを感じますか。
保護活動において最も困難な課題は、実は救出直後のドラマチックな瞬間ではなく、その後に続く「地道で長期的なケア」です。
緊急事態には多くの関心や寄付が集まりますが、回復には長い時間がかかります。追加の手術、リハビリ、毎日の投薬、そして日々の清掃や食事の準備など、世間の注目が薄れた後もケアは続きます。
少人数のチームで、先々まで続く治療費や労力を確保しながら、すでに保護している動物たちの生涯にわたる責任を負うことは、実務面・精神面で大きなプレッシャーとなります。すべての命を救えるわけではなく、救えなかった命や限界と向き合うつらさも常に伴います。
一方で、最大のやりがいを感じるのは「劇的な回復」よりも、むしろ「静かで何気ない日常の瞬間」だと言います。
おびえていた動物が人を信頼し、自ら甘え、穏やかに眠るようになること。前述のアルマがルクセンブルクの家族に引き取られ、2年後に再会した際、そこにあったのは「緊急治療の過去」ではなく「家族の一員としてのありふれた幸せな日常」でした。
保護した日の悲惨な姿を知っているからこそ、その小さな変化と、安心に包まれた日常に大きな価値を見出しています。
3. 特別な知識はいらない、誰でも今日から始められる「一つの行動」
「自分にできることなんてないかもしれない」と感じてしまう人に対し、ヴィクトルさんは「無理なく続けられる具体的な行動を一つ選んでほしい」と呼びかけます。
「動物を迎える際は、その子の生涯にわたる責任と自分のライフスタイルをしっかり考えてください。そして、家計に無理のない範囲での継続的な寄付は、団体が長期的なケアを計画するための大きな力になります」と続けるヴィクトルさん。
「保護された動物たちの様子を、SNSで共有するだけでも支援の輪は広がります。そして、救出直後だけでなく、その後の回復の歩みにも関心を持ち続けてもらえたら嬉しいです」と語っていました。
4. 「かわいそう」だけで終わらせないために
LIMOを通じて活動を知った日本の読者へ向け、ヴィクトルさんは「最初のつらい映像だけでその子の物語を終わらせず、回復し、人を信頼し、家族の中で居場所を見つけていく姿まで見届けてほしい」とメッセージを寄せています。
動物たちの過酷な現実に胸を痛めるだけでなく、その後のストーリーにも関心を持つこと。そして、遠くの国の出来事として消費するのではなく、自身の暮らす地域の動物や保護施設に目を向けること。
一頭の命を救うという小さな決断が連鎖し、やがて国境を越えて人々の心を動かすように、私たちが今日踏み出す小さな一歩もまた、確実にどこかの命を支える力へとつながっていきます。