貴重な年収1000万円超の人たちですが、必ずしも生活に余裕があるとは言い切れません。現役世代で年収が上がっていくと、収入に合わせて所得税や住民税、社会保険料も増えていきます。

差し引きの手取りベースでは700万円ほど。年収の上昇に合わせて生活水準も上がることが多く、子どもの進学先や住居の購入など、上のランクを目指すため支出が増大し、かえって家計コントロールに苦労するケースもあるようです。

貯蓄1000万円の人はどのくらいいる?

一方、貯蓄で1000万円以上を実現するのは、どれほど難しいのでしょうか。金融広報中央委員会の「知るぽると」が発表したデータをもとに、(1)単身世帯と(2)2人以上の勤労者世帯について貯蓄状況(預貯金のほか、株式や投資信託、保険などを含む)について見てみましょう。

(1)単身世帯の金融資産保有額

家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]」(平成30年データ)によると、単身世帯の金融資産保有額は以下のようになっています。

《金融資産保有額》
3000万円以上:7.2%
2000万以上3000万円未満:4.0%
1500万円以上2000万円未満:2.0%
1000万円以上1500万円未満:5.1%
700万円以上1000万円未満:3.6%
500万円以上700万円未満:4.6%
400万円以上500万円未満:2.1%
300万円以上400万円未満:3.5%
200万円以上300万円未満:4.3%
100万円以上200万円未満:7.1%
100万円未満:15.3%
金融資産非保有:38.6%
無回答 2.7%

単身世帯で1000万円以上の貯蓄を持っているのは、約2割(18.9%)であることが分かりました。

・「金融資産がない世帯を含む全世帯」の平均値:744万円、中央値:50万円
・「金融資産を保有する世帯」の平均値:1234万円、中央値:350万円

貯蓄データには「平均値」と「中央値」があります。中央値はデータを昇順・降順に並べたときに中央にくる数値です。平均値は高額貯蓄者の数値の影響で引き上げられることもありますので、データの一般性を見る際には中央値を参考にしてみると実態に近い数字となります。

ここで、2種類の「中央値」の数字から考えると、単身世帯にとっての貯蓄額1000万円が貴重であることがわかります。また、金融資産を保有していない世帯が全体の38.6%であることも注目すべき点であるといえるでしょう。

(2)2人以上の世帯の金融資産保有額

家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」(平成30年データ)によると、2人以上世帯(勤労者世帯)の貯蓄分布は以下のようになっています。

《金融商品保有額》
3000万以上:12.7%
2000万以上3000万円未満:8.6%
1500万円以上2000万円未満:7.0%
1000万円以上1500万円未満:10.0%
700万円以上1000万円未満:6.8%
500万円以上700万円未満:7.8%
400万円以上500万円未満:3.4%
300万円以上400万円未満:3.9%
200万円以上300万円未満:3.2%
100万円以上200万円未満:3.9%
100万円未満:3.6%
金融資産非保有:22.7%
無回答:6.4%

・「金融資産がない世帯を含む全世帯」の平均値:1430万円、中央値:609万円
・「金融資産を保有する世帯」の平均値:1887万円、中央値:1080万円

このデータによると2人以上の世帯で貯蓄1000万円以上の世帯は合計38.3%ですが、総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2018年(平成30年)平均結果-(二人以上の世帯)」のデータによると負債額も大きいことが分かります。

・2人以上の世帯に占める負債保有世帯の割合は約4割(39.0%)
・負債保有世帯の平均値:1430万円
・負債保有世帯の中央値:1147万円
・負債現在高の約9割(89.8%)が住宅・土地

このように2人以上の世帯では貯蓄を有しているものの、同時に大きな負債を抱えていることが分かります。貯蓄と負債のトータルで考えると必ずしも余裕があるとは言い切れないようです。

※ここでいう「金融資産」とは、家計が保有する金融商品のうち、貴金属や現金、事業のために保有している金融商品、預貯金のうち日常的な出し入れや引落しなど生活費に対応する部分を除いた「運用のため、または将来に備えて保有している部分」となっています。

これに対して「金融商品保有額」とは、上記に加えて「運用目的ではない預貯金(日常的な出し入れや引落しなど生活費に対応する部分)」を含んでいます。

また、「金融資産を保有していない世帯」とは、預貯金や株式などの金融商品を保有していない世帯と、預貯金のみは保有しているがそのうち「運用または将来の備え」がゼロの世帯を指します。

年収1000万円と貯蓄1000万円、大きく広がる人生の選択肢

日本の給与所得者のうち年収1000万円の人は5%程度。希少ですが、教育費、住宅ローンなど、支出の増大もありそうです。また、1000万円の貯蓄を有する世帯でも住宅ローンなどの負担が大きい可能性もあります。

年収1000万円なら安心、貯蓄が1000万円あれば安心とは断言できないようです。それでも年収の高さにより社会における信用力が格段に高まりますし、一定の貯蓄額をクリアした経験から更なる貯蓄額アップも期待できます。資金に余裕があれば運用で資産を殖やすことも可能です。現役世代の収入に加えて、投資・運用で資産形成していくという可能性が開けるのです。

現在、どのような年収・貯蓄額であったとしても、1,000万円という水準は人生の選択肢を大きく広げてくれる額となりそうです。ぜひ目標としていきましょう。

【参考】
「平成30年分 民間給与実態統計調査」国税庁
「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]平成30年調査結果」金融広報中央委員会
「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]平成30年調査結果」金融広報中央委員会
「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2018年(平成30年)平均結果-(二人以上の世帯)」総務省統計局

【ご参考】貯蓄とは

総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。

LIMO編集部