5. ROEはなぜ11.8%から7.3%まで下がったのか
ここからは資本効率の話に移りたい。5期を並べると、この会社の稼ぐ力の変化がはっきり見えてくる。
ROE(自己資本利益率)は2021年12月期が11.1%、2022年12月期が8.8%、2023年12月期が11.8%、2024年12月期が9.9%、そして2025年12月期が7.3%だ。2023年12月期をピークに、2期続けて水準を下げている。
営業利益率も同じ方向を向いている。11.1%、8.0%、10.9%、10.5%、8.8%という並びだ。売上収益は2023年12月期の3兆207億円、2024年12月期の3兆162億円、2025年12月期の3兆188億円と3期ほぼ横ばいなので、利益率の低下がそのままROEの低下に効いている。
一方で自己資本比率は44.5%、39.3%、40.6%、41.2%、42.3%と、直近3期はむしろ改善している。財務の厚みを取り戻しながら、稼ぐ力のほうが落ちてきた。これが5期のあらましだ。
この自己資本比率の水準には触れておきたい。機械業種に分類される160社の中央値は67.3%、D/E比率(負債と自己資本の比率)の中央値は0.167である。クボタの42.3%は、業種の真ん中から25ポイント下にある。
有利子負債の合計は2021年12月期の1兆945億円から、2025年12月期には2兆2,420億円へと積み上がった。5期で倍以上だ。機械メーカーとしては相当に厚いレバレッジをかけていることになる。
ここは評価が割れるところだろう。ROE7.3%は機械業種の中央値7.8%をわずかに下回る水準だが、自己資本比率が業種平均より25ポイント低い状態でこの数字だという点は見落とせない。仮に業種並みの資本構成だったなら、ROEはもう一段低く出る。レバレッジがROEを下支えしている構図と読める。
営業利益率8.8%は機械業種の中央値7.9%を上回っており、稼ぐ力そのものが業種内で劣後しているわけではない。むしろ問題は、その利益率が5期のあいだに2.3ポイント下がったことのほうにある。
6. 売上債権とキャッシュ創出力に映る利益の質
利益の質を見るには、損益計算書だけでは足りない。貸借対照表とキャッシュフロー計算書を重ねる必要がある。
売上債権は2021年12月期の5,743億円から、2022年12月期7,793億円、2023年12月期9,454億円、2024年12月期9,852億円、2025年12月期1兆16億円へと増え続けてきた。5期で7割を超える増加だ。
売上収益が直近3期ほぼ横ばいであることを考えると、この伸び方は目を引く。キャッシュ・コンバージョン・サイクル(仕入れ代金の支払いから売上代金の回収までにかかる日数)も123日、141日、177日、192日、188日と長くなった。
単純に回収が滞っていると決めつけるのは早い。機械の販売には代金を分割で受け取る形態が伴うことがあり、その場合は売上債権が構造的に積み上がる。この会社の場合、海外比率の上昇と債権の増加が同じ時期に進んでいる点も気になるところだ。
ただ、キャッシュの実績を見ると別の景色も出てくる。営業キャッシュフローは2021年12月期が925億円、2022年12月期が▲76億円、2023年12月期が▲172億円と2期続けて流出だったが、2024年12月期は2,820億円、2025年12月期は3,279億円のプラスに転じた。
2025年12月期の営業キャッシュフロー3,279億円は、同期の親会社帰属当期利益1,866億円を大きく上回る。利益が落ちる局面でキャッシュの創出力が戻ってきたわけで、これは利益の質という点ではむしろ良い方向の変化だ。
セグメント別に見ると、2025年12月期の機械部門は売上収益2兆6,286億円で営業利益2,536億円、水・環境部門は売上収益3,743億円で営業利益329億円だった。機械部門の営業利益が前期比▲21.6%だった一方、水・環境部門は+35.9%と伸びている。連結の減益は、売上の87.1%を占める機械部門の落ち込みがそのまま出た結果である。
7. 筆者コメント
ROEの推移と営業キャッシュフローの推移を同時に並べると、少し込み入った絵が見えてくる。資本効率の指標は2期続けて落ち、キャッシュの創出力は2期続けて戻った。方向が逆なのだ。
この2つを分けているのは運転資本だと考えられる。2022年12月期と2023年12月期は、増収に伴って売上債権と在庫が膨らみ、利益が出ていてもキャッシュが出ていかない状態だった。逆に足元は、売上が伸びない代わりに運転資本の増加も止まり、稼いだ分がキャッシュとして残っている。
成長が止まった会社のキャッシュフローが良く見える、というのは会計上よくある現象だ。だからキャッシュが潤沢だからといって、それを素直な前進とだけ受け取るのは早い。裏返せば、投資局面が一巡したという話でもある。
とはいえ、今期は通期の営業利益予想を4,000億円まで引き上げてきた。この予想どおりに着地すれば、ROEは再び上向く計算になる。増販と価格改定という会社の打ち手が、どこまで利益率の回復につながるのか。
次の決算では、営業利益の絶対額だけでなく、売上債権の残高と営業キャッシュフローを並べて見ることをおすすめしたい。利益が戻るときに運転資本がどう動くかで、この会社の稼ぐ力の質が測れるはずだ。
参考資料
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石津 大希