退職や独立を考えるとき、国民健康保険と会社員の健康保険の違いとしてまず思い浮かぶのは保険料でしょう。
ただ、もっと大きな差が現金給付のほうにあります。病気やケガで働けなくなったときの傷病手当金は、国民健康保険では「出ないのが普通」です。出産手当金にいたっては、制度そのものが想定されていません。
この記事では、国民健康保険法と協会けんぽの公式情報をもとに、両者の給付の違いを確認します。
1. 【国民健康保険】保険料の負担と扶養の考え方が違う
給付の話に入る前に、よく知られている違いのほうを押さえておきます。
1.1 労使折半があるかないか
健康保険は勤務先を通じて加入し、保険料は会社と折半します。国民健康保険は市区町村や国民健康保険組合が運営し、保険料は加入者が全額負担します。
国民健康保険料が高く感じられる大きな理由が、この負担構造の違いです。会社員から独立した人ほど、変化を実感しやすいところでしょう。
1.2 国民健康保険には「扶養」がない
健康保険では扶養家族の保険料負担は発生しません。一方、国民健康保険には扶養という概念がなく、加入者全員に保険料がかかります。
同じ世帯でも、国民健康保険では家族の人数分だけ保険料が積み上がる仕組みです。子どもが多い世帯ほど、この差は大きくなります。
2. 【傷病手当金】「法定給付」か「任意給付」かで分かれる
ここからが本題です。同じ名前の制度でも、位置づけがまったく違います。
2.1 国民健康保険法第58条が定めていること
国民健康保険法第58条第1項は、市町村および組合は被保険者の出産および死亡に関しては、条例または規約の定めるところにより、出産育児一時金の支給または葬祭費の支給もしくは葬祭の給付を行うものとする、と定めています。ここに「出産手当金」という語は登場しません。
同条第2項では、市町村および組合は前項の保険給付のほか、条例または規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる、とされています。
2.2 分かれ目は「ものとする」か「ことができる」か
ここで注意したいのは、第1項にも第2項にも「条例または規約の定めるところにより」という同じ文言が入っていることです。条例で定めるから任意、というわけではありません。
違うのは文末だけです。第1項は「行うものとする」、第2項は「行うことができる」。出産育児一時金と葬祭費は保険者の義務、傷病手当金は保険者の裁量ということになります。この裁量にあたるものを任意給付と呼びます。
2.3 健康保険では必ず支給される
これに対して健康保険では、傷病手当金も出産手当金も、要件を満たせば必ず支給される法定給付です。同じ名前でも、片方は権利として保障され、もう片方は保険者の裁量というのが実態です。
- 健康保険(協会けんぽ・健康保険組合):傷病手当金・出産手当金ともに法定給付
- 国民健康保険:傷病手当金は任意給付、出産手当金は制度として想定されていない
2.4 条例を定めていない市区町村では支給されない
任意給付である以上、実施するかどうかは市区町村ごとに分かれます。北海道は「傷病手当金については、市町村で条例を制定して支給することができます(いわゆる『任意給付』)」と説明しています。
裏を返せば、条例を定めていない市区町村では支給されません。出産手当金については、そもそも条文が想定していないため実施例もほとんどありません。
令和2年からの新型コロナウイルス感染症の流行時には、多くの自治体が期間限定の特例として傷病手当金を支給しました。北海道の説明によると、これは新型コロナウイルス感染症に感染した被用者の収入減少に対する緊急経済対策の一環で、国の特別調整交付金による全額財政支援を受けて行われたものです。
感染症対応の臨時措置であって、平時の制度として定着したわけではありません。
「国保にも傷病手当金がある」という情報だけを見て、収入が途絶えたときの備えとして当てにするのは危険です。自分の自治体で実施されているかどうかは、事前に確認しておく必要があります。
国民健康保険と健康保険の違いに関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
