制御機器メーカー。オムロン(6645)と聞いて、私が長らく思い浮かべてきたのはその一語だった。工場のラインで動くセンサやコントローラの会社であって、洗面台の引き出しや駅の改札口とは縁が薄い。そう考えていた。だが2026年3月期の売上の内訳を並べ直すと、その像は半分しか当たっていない。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

ココがポイント
  • 2026年3月期の制御機器事業の売上高は4,094億円で連結の5割強。残る半分弱をヘルスケア・社会システム・データソリューションの3事業が分け合っている
  • 株価は2026年7月30日の5,169円から8月28日の6,633円まで1カ月で28%上昇し、直近時点のPERは32.2倍、PBRは1.57倍
  • 2027年3月期1Qは売上収益2,098億円・営業利益188億円と大幅増益。会社は通期の営業利益を800億円と見込む

1. 制御機器の会社という印象と、売上の内訳がずれる場所

オムロンの事業は4つに分かれている。制御機器(IAB)、ヘルスケア(HCB)、社会システム(SSB)、データソリューション(DSB)である。

2026年3月期の外部顧客に対する売上高は、制御機器が4,094億円だった。連結の7,673億円に対して5割強を占める。ここまでは印象どおりだ。

問題は残りである。ヘルスケアが1,452億円、社会システムが1,442億円。それぞれ全体の2割弱を占め、二つを足せば4割弱に届く。データソリューションの511億円を加えると、制御機器以外の合計は半分弱まで積み上がる。

ヘルスケア事業が扱うのは、電子血圧計を主力に、ネブライザ、心電計、電子体温計といった家庭用・医療用の機器だ。工場の制御盤ではなく、洗面台の引き出しに入っている類のものである。

社会システム事業には、駅務システム(駅の改札・券売機まわりの設備)や交通管制・道路管理システム、蓄電システムや太陽光発電用パワーコンディショナーが並ぶ。改札を通るとき、私たちはこの会社の設備に触れている可能性がある。

センサの会社という一語で括ると、この二つは視界から落ちる。落ちたまま残り続けるのが、社名から連想される像の厄介なところだ。

2. 利益で見ても、制御機器以外が半分近くを稼いでいる

売上構成だけなら「多角化している」で終わる話かもしれない。だが利益の内訳を重ねると、この構造はもう少し重い意味を持つ。

2026年3月期のセグメント利益は、制御機器が427億円、社会システムが197億円、ヘルスケアが154億円、データソリューションが36億円だった。4事業の合計は815億円で、ここから本社費用などの調整216億円を差し引いた599億円が連結の営業利益になる。

制御機器以外の3事業で387億円。合計の5割弱を、センサでもコントローラでもない事業が稼いでいる計算だ。

伸びの方向もそろっていない。前期比で制御機器の売上高は+12.3%、データソリューションは+19.7%と伸びた一方、ヘルスケアは▲0.4%、社会システムは+0.5%とほぼ横ばいだった。利益では社会システムが+28.6%、データソリューションが+27.6%と大きく伸び、ヘルスケアだけが▲11.8%と沈んでいる。

ヘルスケアの減益について、会社は米国関税政策の影響と、血圧計のグローバルでの主要価格帯における競争激化を挙げている。原価低減や固定費構造の見直しに取り組んだうえでの減益だという。

逆に社会システムは、駅務システム事業で旅客者数の回復を背景に設備投資需要が安定して推移し、製造原価のコストダウンや価格適正化も効いたと説明している。改札まわりの設備が利益の伸びを支えた、という決算なのである。

データソリューションはさらに新しい。JMDCの健康情報プラットフォーム「Pep Up」の発行ID数が拡大し、健康保険組合や医療機関に由来する匿名加工データを製薬企業や保険会社が使う取引額も増えた。同社は2022年にJMDCと資本・業務提携を結び、いまは連結子会社としてこの事業の中核に置いている。

血圧計という「もの」で始まった健康の事業が、健康データを扱う事業へ枝分かれしている。ヘルスケアとデータソリューションを足すと1,964億円、連結売上高の4分の1にあたる。制御機器の会社という像は、この4分の1を説明できない。

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出所:オムロン株式会社 2026年3月期 決算短信をもとに筆者作成

出所:オムロン株式会社 2026年3月期 決算短信をもとに筆者作成

3. 1カ月で28%上げた株価と、PER32.2倍という現在地

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

株価の方はどう動いたか。2026年7月30日の終値は5,169円だった。それが8月28日には6,633円である。1カ月で28%の上昇になる。

動きは一様ではない。8月5日の5,931円から、8月6日には6,819円へと水準が一段切り上がった。2027年3月期1Qの内容が意識された可能性が高い。

そこから8月17日の7,043円まで買われたあと、8月21日には6,292円まで押し戻された。上げ幅の半分近くを一度吐き出した形だ。足元は6,600円台で、8月28日の終値は前日比+1.6%と小幅な上昇にとどまっている。

直近時点のPER(株価収益率)は32.2倍、PBR(株価純資産倍率)は1.57倍である。会社が示す通期の1株当たり利益の見通しは205円97銭で、これに対する倍率としてPERは高い部類に入る。

ここで押さえておきたいのは、株価が織り込んでいるのが制御機器の回復だけではない、という点だ。ヘルスケアも社会システムもデータソリューションも、同じ1つのPERの中に入っている。

電気機器という区分に置かれ、制御機器の会社として語られる銘柄が、実際には家庭用医療機器と駅の設備と健康データを抱えている。バリュエーションを見るときに、その内訳まで分解して眺めるかどうかで、同じ32.2倍の意味は変わってくるはずだ。

4. 筆者コメント

4つのセグメントの数字を並べ直すと、この会社の輪郭が少し違って見えてくる。制御機器が5割強、それ以外が半分弱。利益で見ればその差はさらに縮まる。

興味深いのは、伸びている事業と沈んでいる事業が入れ替わり続けていることだ。前期は制御機器とデータソリューションが伸び、ヘルスケアが減益に沈んだ。だが直近では血圧計が息を吹き返している。

4つの事業が別々の景気に反応するなら、連結の利益は均されやすい。分散が効くというのはそういうことだ。裏を返せば、どれか1つが跳ねても連結の見え方は鈍る。

株価が1カ月で28%動いたのは、おそらく制御機器の需要を読み替えた結果だろう。しかし読み替えるべき変数は、この会社に4つある。制御機器の設備投資動向だけを追いかけていると、残り半分の説明がつかない場面が出てくるのではないだろうか。

銘柄をセクター名で括ると、こういう内訳は見えなくなる。セグメント情報まで降りて事業の顔ぶれを確かめる。そういう手間を惜しまない見方をおすすめしたい。