夫や妻を亡くし、ひとり親として子どもを育てている方の多くは、遺族年金を受け取りながらパートなどで働いています。「遺族年金とパート収入、両方あると住民税非課税から外れてしまうのでは」という不安は、よく聞かれる相談です。

結論から言うと、遺族年金の額はこの判定にまったく関係ありません。カギを握るのはパート収入だけです。その理由と、実際にどこまで働けるのかを編集部で試算しました。

なお、ひとり親の住民税非課税基準に関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。

 【住民税非課税世帯】給与・年金の収入基準《ボーダーラインはいくら?》知っておきたい5つの優遇制度!制度の基本とファクトを網羅した完全ガイド
【住民税非課税世帯】給与・年金の収入基準《ボーダーラインはいくら?》知っておきたい5つの優遇制度!制度の基本とファクトを網羅した完全ガイド
ココがポイント
  • ひとり親の非課税基準(合計所得135万円以下)に、遺族年金は一切算入されません。
  • 死別で遺族年金を受け取っているひとり親は、パート収入だけで判定すればよく、給与収入換算で204万2857円以下が目安です。
  • 離婚・未婚のひとり親は遺族年金がない分、同じ135万円ラインにパート収入だけで向き合う必要があります。

1. ひとり親の135万円特例、まず基本を確認する

総務省の資料によると、障害者・未成年者・寡婦・ひとり親に該当する人は、前年の合計所得金額が135万円以下であれば住民税が非課税になります。単身世帯の通常基準(45万円以下)と比べてかなり緩やかな、独立した特例です。

1.1 135万円は全国共通、給与収入換算は204万2857円

この135万円という基準は、居住地の級地区分に関係なく全国共通です。給与収入のみで判定する場合、給与所得控除を差し引いた所得が135万円以下になる給与収入は、令和8年度分で204万2857円です。

ただし、この204万2857円という数字は「合計所得の中身がすべて給与収入である」ことが前提です。ひとり親には、この前提が当てはまらないケースが数多くあります。

1.2 単身45万円と比べて3倍近く緩い理由

通常の単身世帯の非課税基準は合計所得45万円以下です。ひとり親の135万円は、これと比べて3倍近く緩やかな水準になっています。この差は、子どもを一人で育てる世帯の生活費の重さを踏まえて設けられた、独立した優遇措置だからです。

通常の基準のように扶養親族の人数で計算式が変わるわけではなく、135万円という一つの数字が全国一律で適用される点も特徴です。子どもの人数が何人であっても、この基準そのものは変わりません。

齊藤 慧
204万円という数字だけを覚えて安心する前に、自分の収入の中身を確認しておく必要があります。パート収入と遺族年金が混在している世帯ほど、この前提のズレに気づきにくいはずです。給与収入だけの金額なのか、年金分も含めた世帯全体の金額なのか、まずそこを切り分けて考えてみてください。

2. 遺族年金は、合計所得に一切算入されない

ここが今回の核心です。死別でひとり親になった方の多くが受け取っている遺族年金は、この135万円の判定にどう関わるのでしょうか。

2.1 「非課税所得」だから、金額の大小を問わず対象外

日本年金機構の公式FAQによると、遺族年金は障害年金と並んで「非課税所得」に該当します。非課税所得は、受給額がいくら大きくても、住民税・所得税の合計所得金額に一切算入されません。

つまり、遺族年金を月10万円受け取っていても月20万円受け取っていても、135万円という基準の計算にはまったく登場しないということです。判定に関わるのは、遺族年金以外の所得、多くの場合はパート・アルバイトなどの給与所得だけになります。

2.2 【ひとり親の非課税判定に算入される収入・されない収入】

ひとり親の非課税判定に算入される収入・されない収入1/2

ひとり親の非課税判定に算入される収入・されない収入

出所:総務省「地方税制度 個人住民税」などを基にLIMO編集部作成

算入されない収入

  • 遺族年金:非課税所得のため、金額の大小を問わず判定に影響しない

算入される収入

  • パート・アルバイト等の給与収入:給与所得控除後の所得が135万円以下かどうかで判定される
齊藤 慧
遺族年金がいくら多くても非課税判定に一切影響しないという仕組みは、意外と知られていないと感じます。パートの収入を増やそうか迷ったとき、遺族年金の金額まで一緒に足して計算してしまう誤解は珍しくありません。数字を気にせず受け取っていい年金なのだと、あらためて伝えたいところです。

3. 【編集者の視点】

実務上の罠は、遺族年金とパート収入を合算した「世帯の実収入」の感覚で、非課税から外れることを心配してしまう点です。制度上は、両者はまったく別の扱いを受けています。

この誤解は、確定申告や年末調整の書類を目にしたときに強まりがちです。書類には「収入」や「所得」という言葉が並びますが、遺族年金は届出の対象にもならないほど、税務上は透明な存在として扱われています。

防衛策としては、自分の年間収入を「遺族年金」と「それ以外(給与・事業収入等)」に分けて管理することです。判定に関わるのは後者だけだと理解しておけば、確定申告や住民税申告の際に不要な不安を抱えずに済みます。

4. 編集部試算:遺族年金と組み合わせた世帯収入の実例

遺族年金の額が判定に関係ないという事実を、具体的な世帯収入の例に当てはめて試算します。

4.1 遺族年金150万円でも、パート収入204万円以下なら非課税維持

単身の子育て世帯で、遺族年金を年150万円受け取り、パートで年200万円の給与収入があると仮定します。世帯の実収入は合計350万円になりますが、住民税の非課税判定に使う合計所得金額は、パート収入200万円から給与所得控除を差し引いた分だけです。

給与収入200万円の場合、給与所得控除は190万円以下の最低保障額65万円ではなく、190万円超360万円以下の区分(収入金額×30%+8万円)が適用され、控除額は68万円です。所得は200万円-68万円=132万円となり、135万円以下の基準に収まります。

4.2 【パート収入別・135万円判定の目安(遺族年金の額は無関係)】

パート収入別・135万円判定の目安2/2

パート収入別・135万円判定の目安

出所:日本年金機構「非課税所得とは、どのようなものですか。」などを基にLIMO編集部作成

非課税を維持できる範囲

  • パート収入150万円:所得約85万円で非課税を維持
  • パート収入200万円:所得約132万円で非課税を維持

境目とその先

  • パート収入204万2857円:所得135万円ちょうどで非課税の上限
  • パート収入210万円:所得約139万円で非課税から外れる
齊藤 慧
世帯の実収入が350万円近くあっても非課税を維持できる。数字だけ見ると意外に感じるかもしれませんが、遺族年金が非課税所得だからこそ成立する計算です。パート収入だけを見て「もう非課税は無理だろう」と諦める前に、内訳を分けて確認する価値があります。

5. 離婚・未婚のひとり親は、パート収入だけで135万円ラインに向き合う

ここまでは遺族年金がある死別ひとり親の話でした。離婚や未婚でひとり親になった場合は、事情が異なります。

5.1 養育費や児童扶養手当は判定にどう関わるか

離婚・未婚のひとり親には遺族年金がないため、収入の中心はパート・アルバイト等の給与収入や、養育費、児童扶養手当になります。このうち児童扶養手当は、住民税の非課税判定とは別の所得制限で運用される、独自の制度です。

養育費については、住民税の合計所得金額を計算するうえでの「収入」には該当しないため、135万円の判定には直接影響しません。ただし、児童扶養手当の側では養育費の一部が所得として扱われる場合があり、住民税の判定とは別の基準で見られている点に注意が必要です。

この違いは、離婚・未婚のひとり親が複数の制度を同時に確認しなければならない理由でもあります。住民税の窓口で「養育費は関係ない」と説明を受けても、児童扶養手当の窓口では別の答えが返ってくることがあり、どちらの制度について尋ねているのかを最初に明確にしておく必要があります。

いずれにしても、離婚・未婚のひとり親は、死別ひとり親のように「年金は無関係」という単純な整理ができず、パート収入そのものが135万円ラインの主役になります。同じ135万円特例でも、実質的な余裕は死別世帯の方が大きくなりやすいというのが、今回の試算から見えてくる構図です。

5.2 確定申告では、非課税所得を申告書に書く欄がない

遺族年金のような非課税所得は、そもそも確定申告書に記入する欄が用意されていません。合計所得金額を計算する際も、遺族年金の金額を足したり引いたりする作業自体が発生しないという点は、意外と知られていません。

一方、パート収入がある場合は、勤務先から受け取る源泉徴収票の「支払金額」から給与所得控除を差し引いた金額が、そのまま合計所得金額に反映されます。確定申告や住民税申告の書類を見比べるときは、この非対称な扱いを念頭に置いておくと、記入漏れや誤解を防ぎやすくなります。

6. 【編集者の視点】

この記事で伝えたかったのは、「ひとり親の非課税ライン」という一括りの言葉の裏に、死別か離婚・未婚かによって実質的な余裕が大きく異なる構造があるということです。同じ135万円という基準を見ていても、遺族年金という非課税所得を持つかどうかで、働き方の選択肢の幅が変わります。

実務上の防衛策としては、自分の収入を「非課税所得(遺族年金・障害年金等)」「合計所得に算入される収入(給与・事業収入等)」の2つに分けて把握し、後者だけで135万円の判定を確認することです。パートの勤務時間を増やす相談を受ける立場になったとき、この整理をしているかどうかで、判断のスピードが大きく変わります。

もう一つ見落としやすいのが、子どもの成長に合わせて働き方を変えるタイミングです。子どもが進学や就職で扶養を外れると、世帯の状況そのものが変わり、非課税判定の前提も見直しが必要になります。遺族年金を受け取りながら働き方を調整している間は、数年に一度は基準を確認し直す姿勢を持っておくと安心です。

収入の内訳が複雑な場合や、養育費・児童扶養手当も含めた全体の見通しを立てたい場合は、市区町村の税務担当窓口とひとり親支援の窓口の両方に、それぞれの制度に基づいて確認することをおすすめします。

7. 非課税から外れると、ひとり親世帯の何が変わるか

135万円のラインを超えて非課税から外れた場合、実際の暮らしにどのような影響が及ぶのかを確認しておきます。

7.1 高等教育の修学支援新制度・保育料・国民健康保険料に連動する

子どもが大学等への進学を控えている場合、高等教育の修学支援新制度は住民税非課税世帯(またはそれに準ずる所得水準の世帯)を対象に、授業料等減免と給付型奨学金を提供しています。ひとり親世帯で135万円特例により非課税に該当する場合も、この制度の対象に含まれます。

また、国民健康保険に加入している世帯であれば、住民税非課税の状況に応じて保険料の均等割・平等割部分が軽減される仕組みがあります。0〜2歳児クラスの保育料についても、住民税非課税世帯に限って無償になる制度です。

これらはいずれも「住民税が非課税かどうか」を入口にした連動です。遺族年金の額そのものは変わらなくても、パート収入が135万円ラインを超えて課税に転じた瞬間に、複数の支援が同時に対象外へ動く可能性がある点は、あらかじめ知っておく価値があります。

特に、子どもの進学時期が近づいているひとり親世帯にとっては、パートの勤務時間を増やす判断が、修学支援新制度の対象から外れるリスクと表裏一体になる場合があります。収入を増やす前に、進学予定の時期と合わせて確認しておくことをおすすめします。

齊藤 慧
住民税の非課税・課税という1つの線引きだと思っていたら、進学費用の減免も保育料の無償化も一斉に動いていた。そんな連鎖の広さこそ、この境目の本当の怖さだと感じます。パートの勤務時間を増やす前に、進学予定の時期と照らし合わせて確認しておくことをおすすめします。

8. まとめ

  • ひとり親の住民税非課税基準は、合計所得135万円以下(全国共通)です。
  • 遺族年金は非課税所得のため、金額の大小に関わらずこの135万円の判定には算入されません。
  • 死別で遺族年金を受け取っているひとり親は、パート収入(給与収入換算204万2857円以下)だけで判定すればよく、世帯の実収入が350万円程度でも非課税を維持できるケースがあります。
  • 離婚・未婚のひとり親は遺族年金がない分、パート収入そのものが135万円ラインの主役になります。

ひとり親の住民税非課税は、「135万円」という一つの数字だけでなく、その中身がどんな収入で構成されているかによって、実質的な余裕が変わってきます。遺族年金の有無を起点に、自分の収入を整理してみることが、判断の第一歩になります。

パート収入を増やすかどうか迷っている場合は、勤務先を増やす前に、給与収入と非課税ラインの位置関係を確認しておくことをおすすめします。判断に迷う場合は、市区町村の税務担当窓口に相談してください。

制度は毎年のように見直しが入る分野でもあります。去年確認した内容をそのまま今年に当てはめず、パートの勤務時間や年金の受給状況が変わったタイミングで、基準を確認し直す習慣を持っておくと安心です。

9. よくある質問

9.1 Q. 遺族年金を受け取っていると、住民税非課税から外れやすくなりますか。

A. なりません。遺族年金は非課税所得に該当し、金額の大小に関わらず住民税の合計所得金額には算入されません。判定に影響するのは、パート・アルバイト等の給与収入など、算入対象になる収入だけです。

9.2 Q. 死別ひとり親と離婚・未婚ひとり親で、非課税基準は違いますか。

A. 135万円という所得基準そのものは同じです。ただし死別の場合は遺族年金が判定に算入されないため、パート収入だけで判定すればよく、実質的な余裕が大きくなりやすい傾向があります。

9.3 Q. 養育費は住民税の非課税判定に影響しますか。

A. 住民税の合計所得金額を計算するうえでの収入には該当しないため、直接の影響はありません。ただし児童扶養手当の所得制限では扱いが異なる場合があるため、混同しないよう注意が必要です。

9.4 Q. パート収入がいくらまでなら非課税を維持できますか。

A. 給与収入のみで判定する場合、令和8年度分は給与収入204万2857円以下が目安です。ただしこの数字は年度や他の所得の有無によって変わるため、境目に近い場合は市区町村の税務担当窓口で確認することをおすすめします。

9.5 Q. 遺族年金以外に障害年金も受け取っている場合はどうなりますか。

A. 障害年金も遺族年金と同じく非課税所得に該当するため、合計所得金額には算入されません。両方を受け取っている場合でも、判定に関わるのはパート・アルバイト等の給与収入や事業収入など、算入対象になる収入だけです。

参考資料

齊藤 慧