「老後資金なんて、うちには関係ない」。貯蓄がほとんどない状態で、そう考えている独身の方は少なくありません。

ただ、「貯蓄がない」ことと「老後資金が必要ない」ことは、まったく別の話です。本記事では、貯蓄ゼロ世帯の実態を公的資料から確認し、資金が乏しいときに使える制度の違いを整理します。

ココがポイント
  • 単身世帯のうち、金融資産を保有していない世帯は約3割にのぼります。あなたの状況は珍しいものではありません。
  • 「貯蓄ゼロ」と「老後資金がゼロ」は違います。年金という収入がある限り、老後資金がまったくない状態にはなりません。
  • 資産が少ないことは、生活保護のような資産調査を伴う制度にとっては、むしろ申請の妨げにならない要素です。

1. 単身世帯の貯蓄ゼロは、珍しいことではない

まずは、貯蓄がまったくない世帯がどれくらいいるのか、公的な調査から確認します。

1.1 単身世帯の約3割が金融資産を保有していない

金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」(単身世帯調査、2025年12月18日公表)によると、金融資産保有額の中央値は130万円でした。

同調査では、金融資産を保有していない世帯(保有額を0円とみなす世帯)が753世帯、保有している世帯が1690世帯という結果になっています。回答した世帯全体のうち、約3割が金融資産を保有していない計算です。

1.2 平均値と中央値の差が大きい理由

同調査の金融資産保有額の平均値は919万円でしたが、これは一部の高額資産保有世帯が平均を大きく引き上げているためです。中央値(130万円)の方が、多くの世帯の実感に近い数字とされています。

ニュースなどで見かける「平均919万円」という数字だけを見て、自分の状況と比べて落ち込む必要はありません。

2. 【執筆者コメント】

「自分だけが貯蓄ゼロなのではないか」という不安を抱えている方は少なくありません。しかし実際には、単身世帯の約3割が同じ状況にあります。この事実だけでも、まず知っておいていただきたいことです。

実務でよくある罠は、「貯蓄がないなら、もう何をしても手遅れだ」と考えて、年金の請求や制度の確認そのものを諦めてしまうことです。貯蓄の有無と、これから使える制度の有無は別の話です。

まずは日本年金機構の「ねんきんネット」で、現在の年金の見込み額を確認することから始めることをおすすめします。

年金の見込み額が分かれば、家計調査の平均的な支出額と比べて、どの程度の差が生じそうかを大まかに把握できます。差が大きい場合ほど、次の章で説明する制度の確認を早めに始める意味があります。

3. 「貯蓄ゼロ」と「老後資金がゼロ」は同じではない

貯蓄がないことと、老後資金がまったくないことは、意味が異なります。この違いを整理します。

3.1 年金という収入がある限り、資金はゼロにはならない

総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)」2025年平均によると、65歳以上の単身無職世帯の実収入は月13万1456円、消費支出は14万8445円で、月2万9980円の不足でした。

この不足額は、貯蓄を切り崩す前提の数字です。貯蓄がまったくない場合、この不足分をどう埋めるかという問題は残りますが、実収入そのものがゼロになるわけではありません。

つまり「老後資金がない」という状態は、正確には「毎月の不足額を埋める貯蓄がない」状態を指します。収入自体がゼロという意味ではありません。

この違いを混同したまま「老後資金がゼロだから何もできない」と考えてしまうと、実際に取れる選択肢まで見えなくなってしまいます。まず必要なのは、収入と支出の差がどれくらいなのかを具体的に把握することです。

3.2 不足額を埋められない場合に使える制度

毎月の不足額を貯蓄で埋められない場合に備えて、公的な制度が用意されています。年金を受給していても収入が一定基準に届かない方向けの「年金生活者支援給付金」や、資産や収入が最低生活費に届かない場合の「生活保護」などです。

4. 【執筆者コメント】

「老後資金がない」という言葉を、感情的な絶望として使ってしまう方をよく見かけます。ただ、事実としては、貯蓄がないこと自体は、次に取るべき行動を決めるための出発点にすぎません。

実務の罠は、複数ある制度のうち、どれが自分に当てはまるのかを整理せずに、漠然とした不安のまま時間が過ぎてしまうことです。制度ごとに対象者や申請の窓口が異なります。

まずは年金の受給状況と、現在の収入・資産の状況を紙に書き出してみることをおすすめします。それだけで、どの制度の相談窓口に行けばよいかが見えてきます。

家族に頼れる人がいない、一人で判断しなければならないという状況であっても、まず窓口に相談すること自体は誰にでもできる行動です。判断そのものは窓口の担当者と一緒に進めれば十分です。

5. 資産が少ないことは、むしろ申請のハードルにならない

「資産がないから制度を使えない」と考える方がいますが、多くの生活支援制度では事情が逆です。

5.1 生活保護は資産調査を伴う「最後のセーフティネット」

生活保護は、資産や収入が国の定める最低生活費に届かない場合に利用できる制度です。申請にあたっては、預貯金や不動産などの資産の保有状況が調査されます。

つまり、貯蓄が乏しいこと自体は、この制度の利用を妨げる要素ではなく、むしろ利用条件に近づく要素です。基準額は住んでいる地域や世帯構成、年齢によって異なり、令和7年10月には基準額の見直しが行われています。

「資産があるかどうか」を審査する制度であるという性質上、資産が少ない状態は、審査の結果を左右する要素というより、そもそもの対象条件に近い状態だと考えられます。

5.2 年金生活者支援給付金は資産調査がない

一方、年金生活者支援給付金は、年金を受給していて前年の収入が一定基準以下の方を対象とした制度で、生活保護のような資産調査は要件になっていません。年金と合わせて毎月給付される仕組みです。

2つの制度は、対象者・審査の方法・窓口のすべてが異なります。混同したまま「どちらも使えない」と決めつけてしまうと、実際には使える制度を見逃すことになります。

5.3 【生活保護と年金生活者支援給付金の主な違い】

生活保護と年金生活者支援給付金はどう違う?1/1

【生活保護と年金生活者支援給付金の主な違い】

出所:厚生労働省「生活保護制度」などを基LIMO編集部作成

生活保護の場合

  • 資産調査:あり(預貯金・不動産等を調査)
  • 年金受給が前提か:前提ではない
  • 相談・申請窓口:福祉事務所

年金生活者支援給付金の場合

  • 資産調査:なし
  • 年金受給が前提か:前提(年金受給者が対象)
  • 相談・申請窓口:年金事務所・市区町村

6. 【執筆者コメント】

この2つの制度を混同している方は多くいます。「生活保護は資産があると使えない」という理解は正しいのですが、そこから「だから自分は何も使えない」と結論づけてしまうのは早すぎます。

実務の罠は、生活保護の資産調査への抵抗感から、資産調査を伴わない年金生活者支援給付金の存在まで確認しないまま諦めてしまうことです。両制度は申請の窓口も異なります。

防衛策としては、まず年金事務所または市区町村の窓口で、年金生活者支援給付金の対象になるかどうかを確認することです。生活保護の相談は、福祉事務所が窓口になります。どちらも申請主義のため、自分から動かなければ始まりません。

どちらの制度も、対象になるかどうかの判断は個々の収入・資産・世帯構成によって変わります。窓口で断られた場合でも、状況が変われば再度相談できることも知っておいてください。

7. まとめ

  • 単身世帯のうち、金融資産を保有していない世帯は約3割にのぼり、珍しい状況ではありません。
  • 「貯蓄ゼロ」と「老後資金がゼロ」は異なります。年金という収入がある限り、実収入がゼロになるわけではありません。
  • 資産が少ないことは、生活保護のような資産調査を伴う制度にとって、利用の妨げにはなりません。
  • 年金生活者支援給付金には資産調査がなく、生活保護とは別の窓口・別の要件で申請できます。

貯蓄がないという事実は、そこで思考を止める理由にはなりません。むしろ、どの制度がどのタイミングで使えるのかを整理する出発点になります。

貯蓄の額そのものを今すぐ増やすことはできなくても、使える制度を知っているかどうかで、その後の生活の見通しは変わります。まずは自分の年金の見込み額を確認し、収入が基準に届かない場合の相談窓口を知っておくことが、次に取れる具体的な一歩です。

8. よくある質問

8.1 Q. 貯蓄がまったくない場合、老後の生活はどうなりますか

A. 年金の受給がある限り、実収入自体はゼロにはなりません。ただし家計調査によれば月々の不足が生じるのが一般的なため、年金生活者支援給付金や生活保護といった制度の対象になるかどうかを、早めに窓口へ確認することをおすすめします。貯蓄がないことは、これらの制度を使えない理由にはなりません。

8.2 Q. 生活保護と年金生活者支援給付金は、どちらを先に検討すればいいですか

A. 年金生活者支援給付金には資産調査がないため、年金を受給していて収入が基準以下の場合は、まずこちらの対象になるかを年金事務所や市区町村の窓口で確認するとよいでしょう。生活保護は資産や収入が最低生活費に届かない場合の制度で、福祉事務所が相談窓口になります。両方の窓口に相談しても問題ありません。

参考資料

齊藤 慧