6. リタイア後、年金は毎月いくら入ってくるのか。気になる老後資金

推し活に年間11万348円、資金が足りなければ分割や後払いで——ここまで見てきたのは、そういう実態でした。この支出を、引退後の収入と並べてみます。

厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金(第1号)の老齢年金受給権者の平均年金月額は男性16万9967円、女性11万1413円です。(基礎年金月額を含む。65歳未満の受給権者を含む全年齢ベース)

受給額の分布を見ると、女性の受給権者のうち月額15万円以上は12.3%で、8人に1人。最も人数が多いのは月額10万円〜11万円の層で15.1%、9万円から12万円までで約4割を占めます。

一方、国民年金(老齢基礎年金)のみを受給している人の平均受給額は、全体平均で月額5万9310円(男性6万1595円、女性5万7582円)にとどまります。

ここから介護保険料や住民税などが差し引かれるため、手取りはさらに下がります。月10万円前後の収入から、年間11万円の推し活費を出す——現役時代と同じペースを続けるなら、そういう計算です。年金額は加入期間と報酬で決まるため、50代から大きくは動かせません。

だからこそ、多くの方がこう考えます。「年金で足りない分は貯蓄で賄えばいい」。その判断の土台になるのが50歳代の貯蓄額ですが、ここでよく参照される数字が実態とずれています。

7. 「50歳代の平均貯蓄1908万円」をそのまま自分に当てはめない

年金だけでは足りない分を貯蓄で賄う。前章の最後で触れたのは、その前提の話でした。

7.1 平均値と中央値で、1200万円の差があります

J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年(二人以上世帯)」によると、50歳代の金融資産保有額の平均値は1908万円。この数字だけなら、老後資金の目処は立っているように見えます。

しかし、平均値は一部の高額保有世帯に引き上げられます。世帯を金額順に並べた真ん中の中央値は700万円で、差は1200万円。さらに金融資産を保有していないと回答した世帯が18.2%、およそ5世帯に1世帯が貯蓄ゼロです。

7.2 貯蓄額から、住宅ローンは引かれていません

もう一点あります。総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年平均結果」によると、世帯主が50〜59歳の二人以上世帯の平均貯蓄現在高は1756万円、同時に住宅ローンなどの平均負債現在高が743万円。差し引いた純貯蓄は1013万円です。

40歳代までの負債超過からは抜けていますが、「1900万円あるから安心」という感覚とは距離があります。

平均で測れるのは、他人の家計だけです

そして、ここがいちばん大事なところです。平均1908万円も中央値700万円も純貯蓄1013万円も、すべて他人の家計を並べた数字であって、ご自身が来年いくら使えるかは出てきません。

自分の家計で唯一はっきり測れるのは、毎月いくら入ってきて、いくら出ていくか。1ページ目で見た「手元の現金で払っているのか、来月以降の自分から前借りしているのか」という問いは、まさにここに戻ってきます。

推し活の予算は、貯蓄総額から逆算するものではありません。毎月の収支のなかで、いくらまでなら現金で払いきれるか——測るべきはそちらです。そして測るには、お金を混ぜないという一手間がいります。

8. まとめにかえて:長く応援し続けるための、二つの口座

推し活の資金ギャップを分割や後払いで埋めている人は28.7%。引退後の収入は厚生年金の女性平均で月11万1413円。貯蓄は平均ではなく中央値700万円で考えるのが実務的です。

整え方は2つに絞れます。

生活防衛資金を分ける——生活費の半年から1年分を別口座に移し、手をつけないと決めます。

推し活の予算を隔離する——毎月の予算額だけを専用口座に入金し、チケットもグッズも遠征費もその口座のデビットカードで払う。残高がゼロになったら、その月は打ち止め。

こうすれば、使える額が目で見えるようになるかもしれませんね。

9. 筆者からのコメント

熊谷 良子

推し活の支出を、引退後の収入と貯蓄の実態に並べてみる。この記事でやってきたのは、そういう作業でした。

いちばん悲しいのは、支払いが行き詰まって応援を辞めざるをえなくなることです。

ファンにとっても、応援されている側にとっても、これほど残念な終わり方はありません。

予算を決めるのは愛情を減らすことではなく、この先10年、20年と応援を続けるためのいちばん現実的な方法です。

ハルメクの調査では、チケット代や遠征費を抑える代わりに、身近なグッズや書籍へ応援の形を移す動きが見られました。

使う金額を減らしても、熱量まで下がるわけではありません。

財布と心にゆとりがあること。それが、推しの活躍をいちばん長く見届けるための条件なのかもしれませんね。

 

参考資料